堀江由衣の歌い方・発声|柔らかい声で向き合う、音程と高音と息継ぎ

2022年『文学少女の歌集Ⅱ』発表時の堀江由衣(リスアニ!) シンガー
2022年『文学少女の歌集Ⅱ』発表時の堀江由衣(リスアニ!)

堀江由衣の歌声を、柔らかい、かわいらしいと感じる人は多いでしょう。
本人も自分の声を、丸く、柔らかめの声質として捉えています。
一方で、好きなのはテンポが速く、かっこいい曲でもある。
声の印象から想像する以上に、歌う曲には難しい条件が重なっています。

弱めに出した声で音程を保つこと。
高い音を歌いながら、速いテンポの中で息を継ぐこと。
学生の歌だからといって、声を高く作りすぎないこと。
本人が録音について語った言葉から、柔らかい歌声を支える選択を見ていきます。

弱めに出す声には、音程を保つ難しさがある

『虹が架かるまでの話』は、2021年に発表された、TVアニメ『先輩がうざい後輩の話』のエンディング曲です。
録音で堀江が悩んだのは、歌から始まる冒頭でした。
聴く人がいろいろなニュアンスで受け取れるようにしたかったので、声を強く出しすぎることには迷いがあったといいます。

ところが、弱めに歌おうとすると、そのキーでは音程が揺れやすかった。
求めている表情に近づけようと声の強さを変えると、音程を保つ難しさも変わる。
堀江は、この両方を考えて冒頭を試行錯誤したと説明しています。

声を強く決めすぎたくなかった背景には、歌が描く二人の距離感もあります。
社会人同士でも、恋愛では学生のような初々しさや、急には近づけないもどかしさが残る。
堀江はその雰囲気に合わせ、詞でも直接的な言葉をあまり使っていないと説明しました。
冒頭の声も、はっきり気持ちを宣言するより、聴く人がそれぞれの経験を重ねられる余地を探していたのです。

ミディアムテンポの曲なので、速さの面では歌いやすいところにあるとも話しています。
それでも、ゆっくりめの曲なら楽に歌えるとは限りません。
強い声で押し切りたい場面ではないからこそ、音の高さと、言葉から伝わる気持ちの加減を一緒に考える必要がありました。

録音後、同年9月のファンクラブイベントで歌ったときには、録音時より歌いやすかったとも振り返っています。
同じ曲でも、最初に形を探す録音と、後に人前で歌うときの感覚は同じではなかったのです。
この曲では冒頭の声に注目すると、本人が考えていた、強く出すか、弱めるかという問題を思い浮かべやすくなります。

2021年『虹が架かるまでの話』発表時の堀江由衣(声優グランプリ)
2021年『虹が架かるまでの話』発表時の堀江由衣(声優グランプリ)。
画像出典:写真掲載元

高い音と速いテンポが重なると、息継ぎが難しくなる

柔らかい声質だから、堀江がゆったりした曲だけを好むわけではありません。
本人は、速くてかっこいい曲が好きで、自分の声に合わないかもしれないと思いながらも、スタッフにお願いして歌うことがあると話しています。
声の持ち味と、歌ってみたい曲は、最初からぴったり重なるものではないのです。

2011年の『PRESENTER』では、その挑戦を高いキーとテンポの速さが難しくしていました。
本人は、最後には息継ぎとの勝負になるような感覚だったと振り返っています。
サビの疾走感を気持ちよく歌いたい一方で、歌い切ること自体にも難しさがあったのです。

この話は、高音を一音だけ出せるかという問いとは少し違います。
高い音を含むフレーズが速いテンポで進む中で、呼吸を挟みながら歌を続けなければならない。
『PRESENTER』で本人が挙げた難しさは、キー、速さ、息継ぎが重なったものでした。
柔らかな声の印象だけで、楽に歌っていると考えてしまうと、その負担を見落とします。

2019年『文学少女倶楽部』で歌う堀江由衣(ライブドアニュース)
2019年『文学少女倶楽部』で歌う堀江由衣(ライブドアニュース)。
画像出典:写真掲載元

学生らしさを出すために、声を高く作りすぎない

声の高さは、曲の音程だけでなく、どんな人物を思わせるかにも関わります。
堀江は『文学少女の歌集Ⅱ』の録音について、女子高生の人物像を思い浮かべると、若めの声や、高い声のキャラクターを作りがちだと話しています。
けれど、実際の学生の声を考えると、トーンは意外に低めでもある。
そこで、わざと癖をつけず、まっすぐ歌うことを心がけたといいます。

分かりやすいかわいらしさを足すより、日常にいる女の子を思わせる声を選ぶ。
その方針を知ると、青春の歌の中に、落ち着いた声のトーンがあっても不思議ではなくなります。

同作の『月とカエル』は、堀江にとって譜割が珍しく、歌うのが難しい曲でもありました。
声を素直にすることと、旋律を簡単にすることは別です。
難しい曲に向き合いながら、人物を表す声は飾りすぎない。
声を飾らない方針の中にも、曲の譜割に対応する難しさが残っています。

高音だけでなく、音の高低差にも向き合う

2024年の『Love me Wonder』では、本人が難しさとして挙げたのは、音程の高低差でした。
曲を作ったsajiのヨシダタクミの楽曲は難しいと話したうえで、この曲も歌うのが大変だったと説明しています。

一方、歌っている気持ちは、夏の青空の下を走り出すようなものだったといいます。
高い音と低い音に対応する難しさを抱えながらも、本人が向かいたかったのは、突き抜けていく爽快な景色でした。
音程の上下が大きいことを、そのまま重く苦しそうな表情に結びつけてはいません。

堀江の高音を考えるときには、曲の一番高い音だけを見るより、前後の音がどう動くかも一緒に考えると、本人の話を理解しやすくなります。
『PRESENTER』で語った呼吸の難しさと、『Love me Wonder』で語った高低差の難しさは、それぞれ違う条件です。
どちらも、柔らかく明るい声で歌われる曲の中にある課題なのです。

言葉を重ねて、前のめりな気持ちを作る

2024年の『まじめにムリ、すきっ』では、速い曲を仕上げるために、細かく区切った録音が行われました。
1行や2行、時には一つのワードだけを歌い、行や言葉の終わりと次の歌を少しずつ重ねています。
堀江はその重なりに、推し活をする人の前のめりな気持ちが出ていると話しました。

ただ、短く区切れば楽になるわけでもなかったようです。
歌ってもなかなか先へ進めず、ワードだけを抜き出すとかえって歌いづらいと感じたそうです。
それでも、完成した音源を聴いて、その録り方の意味が分かったと振り返りました。
一続きに歌うときの自然な呼吸から離れ、細かな声をつないで、頭の中を思いが駆け巡る勢いを作ったのです。

『PRESENTER』では速さの中で息をつなぎ、この曲では録音した言葉を重ねる。
どちらも勢いのある歌ですが、前者の呼吸の課題と後者の録音の工夫を知ると、声が途切れず進む印象にも異なる作り方があると分かります。

感情を作り込みすぎなくても、歌は大きくなり得る

声の強さを調整することに加えて、どこまで感情を作るかという選択もあります。
堀江は『夜明けのバス停』を、さらりと歌いたいと考えていたものの、曲の雰囲気によって感情が自然に引き出され、壮大な印象になったと話しています。
歌い手が最初から大きな感情を作ることと、曲に沿って歌った結果として感情が表れることは、同じではありません。

この曲では、コーラスの量も調整し、自然に生まれた歌の高まりとのバランスを取っています。
本人が語っているのは、曲に沿って歌い、生まれた表情を残すという選択です。
『虹が架かるまでの話』では、冒頭で声を強くしすぎない加減を探す。
『PRESENTER』では、速いテンポと高い音に呼吸を合わせる。
『Love me Wonder』では、大きな音程の上下に向き合いながら、爽快な景色を歌う。
柔らかな声という共通した印象の中でも、堀江が曲ごとに考えていることは違います。

こうした曲ごとの声の選択が、『文学少女の歌集』でどのような方針として深まったのかは、堀江由衣の歌唱変遷でたどっています。

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