上田麗奈の歌声の変遷|自分の内側を歌う声が、誰かの気持ちを届けるまで

2021年『Nebula』取材時の上田麗奈 シンガー
2021年『Nebula』取材時の上田麗奈

上田麗奈の歌には、すぐそばで胸の内を明かされるような近さがあります。
静かな言葉がほどけていき、ときには抑えていた感情が声の強さとなって現れる。
その表現は、歌への苦手意識を抱えながら、自分にできる伝え方を探すところから始まりました。

自分自身を紹介する歌から、誰かと気持ちを分かち合う歌へ。
さらに、物語の登場人物の思いを、自分の声で引き受ける歌へ。
作品ごとの選択を追うと、変わらない話し声の近さと、そこに込められるものの広がりが見えてきます。

2016年、歌う理由を探すところから始まった

2016年12月、上田麗奈はミニアルバム『RefRain』でアーティストとしてデビューしました。
「海の駅」「毒の手」「車庫の少女」など、六つの曲を収めた作品です。
声優としての役名から離れ、自分の名前で歌を届ける活動が始まります。

ただ、最初から歌うことに自信があったわけではありません。
デビュー前のボイステストでは、声をどう出せばよいかも、何を伝えたいかも分からなかったと本人は振り返っています。
そこで、言いたいことや、やってみたいことを整理していった結果、言葉を話すような歌へと向かいました。

『RefRain』は、自分がどんな人間かを示す作品でした。
一度それを形にすると、次に何を作ればよいのか分からなくなったといいます。

当時は、自分の内側を知られることへの怖さもあったそうです。
松井洋平と一緒に言葉を作りながら、自分なら何をどう表現するのかを少しずつつかんでいきました。
歌の入り口にあったのは、声の華やかさを競うことよりも、胸の内を言葉にできるかという問いでした。

「sleepland」が、歌を人前へ運んだ

2018年には、rionosが作詞・作曲・編曲を担う「sleepland」を発表します。
テレビアニメ『メルヘン・メドヘン』のエンディングを担当し、自分の世界を歌う活動に、作品と結びつく歌が加わりました。

翌2019年の「ランティス祭り」では、rionosの鍵盤演奏とともにこの曲を披露しました。
本人名義の楽曲を人前で歌う最初の機会です。
録音の中で作ってきた世界を、伴奏者と同じ場所に立ち、客席へ届けるようになった節目でもありました。

2020年、自分を示す歌から、共感できる歌へ

アルバム『Empathy』では、他者との共感が軸になります。
演じてきた登場人物たちの中から、自分が共感できる部分を取り出して、曲へつなげていきました。
役の声で歌うキャラクターソングにするのではなく、自分と誰かが共有できる感情を探したのです。

終盤の「Walk on your side」も、その広がりを示す曲でした。
明るすぎて自分には歌えないと思ったのに、実際にはアルバムで最も歌いやすかったといいます。
似合う歌の範囲を、制作の中で見つけ直していたのです。

同年の「リテラチュア」では、『魔女の旅々』の主人公・イレイナの成長に沿って、一曲の感情の流れを組み立てました。
不安を抱えながら人と出会い、別れ、前へ進む。
自分とは違う人生の流れを引き受けることで、歌の中に起伏を作っていきます。

その録音でも、最初はオープニングらしい歌にしなければ、という悩みがあったそうです。
けれど、曲の役割を気にしすぎるよりも、主人公の成長や気持ちに向き合うほうがよいと考えると、歌いやすくなりました。
人物を理解するという得意な方法が、必要な表現を見つける助けになったのです。

一方、カップリングの「花の雨」は、結婚した身近な二人への祝福でした。
二人の写真を見ながら録音すると、本人も驚くほど、歌声がかわいらしく変わっていたそうです。
初期に自分の内面を示していた歌は、具体的な誰かを思い浮かべて届ける歌にもなっていました。

2020年「リテラチュア」取材時の上田麗奈
2020年「リテラチュア」取材時の上田麗奈。
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2021年、録音を再現しないライブと、暗さに向き合う『Nebula』

2021年の初ワンマンライブでは、過去の歌い方をなぞらないため、リハーサル中も元の録音を聴かなかったといいます。
録音時の感情を再現する難しさを抱えた末に、その日の自分で歌う方法を選んだのです。

実際の公演でも、『RefRain』の「毒の手」や「車庫の少女」が歌われました。
この公演の歌は、録音よりも希望や自信を感じさせるものとして受け止められました。
同じ曲が、作品を重ねてきた歌手の現在を映す場になっていました。

同年のアルバム『Nebula』は、明るさだけを広げる作品にはなりませんでした。
「うつくしいひと」から内面の葛藤へ進み、再び歩き出すまでを曲順そのもので描きます。
普段の会話に近い声も、表に出せない怒りも、一枚の中でそれぞれの役割を持つようになりました。

前向きな歌を歌えるようになることと、暗い感情を歌わなくなることは別でした。
自分の中の矛盾を取り除かず、その移り変わりまで歌の流れに組み込む。
この時期の広がりは、明暗の両方を置けるようになったことにあります。

後半の「anemone」が表すのは、挫折を経験したあとの明るさです。
本人にとって挫折は、全てを失うことだけでなく、こだわりを手放して生きやすくなる経験でもありました。
軽やかな歌へ移る前に、苦しさを描く曲が置かれていることにも意味があります。
暗い部分を通ったからこそ、そこから進む一歩が曲の表情になるのです。

2022年、これまでの自分を受け止める『Atrium』

『Atrium』では、過去の自分の良い面も、恥ずかしく感じる面も受け止めることがテーマになりました。
制作時には、経験や心情を詳しく書いたメモを作家に渡し、自分で全てを言葉にする代わりに、他の人の手で曲へ変えてもらっています。
自分の経験を材料にしつつ、作家から見た言葉やメロディーを受け取る制作でした。

「とっておきの便箋」で伝えたかったのは、これまで関わった大切な人たちに、今の自分が楽しく過ごしていると知らせることでした。
一人だけを思い浮かべるのではなく、できるだけ多くの相手につながるように歌っています。
「花の雨」で具体的な二人へ向けた祝福は、ここでは、もっと広く人を思う歌へとつながりました。

冬の『RefRain』、春の『Empathy』、夏の『Nebula』、秋の『Atrium』。
四季を巡る作品群は、ここでひと区切りを迎えます。
その順番は、内面の色を一色に塗り替える過程ではなく、異なる季節を自分の中に残していく歩みでもありました。

2026年「揺蕩う」発表時の上田麗奈
2026年「揺蕩う」発表時の上田麗奈。
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2026年、自分の声で、別の人の思いを歌う

約四年ぶりの新作「揺蕩う」は、テレビアニメ『MAO』のエンディングとして生まれました。
自身の人生をまとめる作品とは違い、今回は、すでにある物語に歌がどうつながるかが出発点です。
上田は、各話の終わりに候補曲を合わせて、作品の余韻から自然につながる曲を選びました。

歌うときにも、演じた幽羅子の声をそのまま再現するのではなく、自分の声で、その人物の気持ちを代弁することを意識しています。
最後のサビでは、内側にためていた思いが強く表に出る歌になりました。
話すような表現を保ちながら、そこに、他者の切実な感情を託しているのです。

初期に探していたのは、自分は何を言いたいのかということでした。
そこから、誰かに何を伝えたいのか、誰かの気持ちをどう引き受けるのかへと、歌の問いが広がってきました。
上田麗奈の声の変化は、声色の数だけでなく、その声が向かう相手の変化とともにたどると、よりはっきり見えてきます。

上田麗奈の歌い方

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