Ms.OOJAの歌声はどう変わった? 「Be…」の全力から、力を選んで歌う現在まで

Ms.OOJAのアーティスト写真 Ms.OOJA

「Be…」で広く知られるようになったころ、Ms.OOJAはライブで思うように歌えない不安を抱えていた。
音程が落ち着いたと思えば、今度はリズムが気になる。
チケットが売れる喜びと、その期待に応えられるのかという怖さが、同じ時期に押し寄せていたのだ。

2025年、本人は昔より少ない力で、同じような声を出す感覚をつかんだと話した。
声の印象を保ちながら、歌う本人の中では方法が変わっている。
その歩みを追うと、発声の工夫に加え、人の言葉を歌う経験や、客席から自信を受け取る過程が見えてくる。

2011年:自分の歌が聴こえるようになり、自信が揺らいだ

メジャーデビュー前のMs.OOJAは、百貨店で働きながら、名古屋のクラブで歌っていた。
2011年のデビュー曲「It’s OK」は、その生活から新しい場所へ踏み出す一曲だった。
2022年の取材で本人が振り返った録音には、喜びだけでなく、支えてくれた人への感謝や、慣れた場所を離れる不安があったという。
2010年末のレコーディングでは、涙を流しながら歌った。

クラブで活動していたころは、自分の歌に自信を持っていた。
ただ、当時の会場では自分の声がほとんど聞こえず、歌の細部より、ステージでどう格好よく見せるかを考える面も大きかったという。
デビュー後はイヤーモニターを使い、ライブの録音で自分の声を聴き直すようになる。
すると、それまで気づかなかった課題が見え、自信が揺らいだ。
歌う場所が広がったことで、自分に求める水準も厳しくなっていった。

Ms.OOJAの2025年アーティスト写真
Ms.OOJAのアーティスト写真。
出典:ユニバーサル ミュージック

2012〜2013年:「Be…」のヒットが、歌への不安を消したわけではない

2012年の「Be…」はドラマ主題歌として広まり、初のツアーも売り切れた。
一方、本人は音程やリズムに悩み、一曲ずつ課題と格闘していたと振り返る。
多くの人が聴きに来てくれるほど、歌い手としての準備が追いつかないように感じていたのだ。

翌2013年の「30」も、自信を持って送り出した曲だった。
しかし「Be…」ほどの反響を感じられず、前の年と同じ会場でも客席を埋めきれないことが、さらに不安を強めたという。
歌を評価されること、作品が広く届くこと、自分が納得して歌えることは、必ずしも一緒に進まなかった。

2013年発表の「30」ミュージックビデオ。

それでも「Be…」は歌い続ける曲になった。
2022年の取材でも、この曲を求めて来る人の期待に応えたいからこそ、まだ緊張すると語っている。
初期の苦しさを抜ければ、代表曲が簡単になるわけではない。
繰り返し歌う中で、その日の客席へどう届けるかを問い続けてきた。

2014年:「また恋をすることなど」で、人の言葉が素直に歌えた

歌う自分を見直すうえで、2014年の「また恋をすることなど」は大切な一曲になった。
JiNの曲を聴いて浮かんだのが、古内東子の歌の世界だったという。
そこで面識のなかった古内へ作詞を依頼した。

当時のインタビューでは、届いた詞で録音に臨むと、自分でも驚くほど素直に歌えたと話している。
自分で書いた言葉だけを歌うことにこだわらず、他の人の言葉を受け取ることで、表現できる気持ちが増えた。
デビュー4年目の自分だから歌える大人の恋の世界だと感じたことも、成長の実感につながっていた。

この時期のアルバム『COLOR』では、聴き手が自分に何を求めているかも考えるようになった。
ライブの客席やファンからの手紙に触れ、それぞれが葛藤を抱え、音楽に救いを求めていると知ったという。
自分を確立しようと努力してきた視線が、歌を受け取る人へも広がっていった。

後年の回想では、このころからR&Bの色を強く出すことへのこだわりも緩み、ライブはDJを中心とした形からバンドへ移っていったと話している。
クラブで培った感覚は残しながら、曲によって違う自分を出してもよい。
声の個性を守ることと、同じ歌い方にとどまることを、少しずつ分けていく時期だった。

2020〜2022年:カバーを自分の仕事として引き受け、武道館へ

2020年に始まった『流しのOOJA』は、歌謡曲やシティポップを自分の声で届けるシリーズだ。
「真夜中のドア/Stay With Me」のカバーも、その一曲だった。
ただ、初めからカバーに迷いがなかったわけではない。
2022年には、オリジナル曲をもっと聴いてほしくて、カバーに抵抗を感じた時期もあったと明かしている。

その気持ちは、どんな曲でも自分の声を通して音楽の魅力を届けられるならありがたい、という考えへ変わっていった。
自分の曲かどうかより、歌い手として何を伝えられるか。
歌謡曲を歌うことが、自分の表現の大切な一部になった。

「真夜中のドア/Stay With Me」2020年のライブ。

同じころ、ライブに向かう覚悟を形にしたのが、2021年に発表した「はじまりの時」だった。
曲は2018年に作り始めていたが、未完成のまま残っていたという。
コロナ禍を経て客席の前に戻った2020年秋のツアーで、まず完成前の姿を歌い、その舞台で生まれた思いを、まだ詞のなかった部分へ入れて仕上げた。

そのツアー中に決まったのが、初の日本武道館公演だ。
目標と言いながら、どこかで逃げていた大きな舞台へ挑むと決める。
「はじまりの時」は、励ましの言葉を外へ届けると同時に、自分自身の決意を歌う曲にもなった。

2022年3月、武道館では「30」も歌った。
初期には反響への不安と結びついていた曲が、長く支えてくれた人々の前で歌う一曲として並んだ。
公演後の取材で本人は、多くの味方がいると感じ、音楽でできることの可能性が見えたと語っている。
2025年に振り返っても、準備や葛藤、新しい挑戦を経て得た自信を含め、この武道館を大きな転機に挙げた。

「30」2022年3月27日、日本武道館。

「みずいろの雨」で知る、余裕を持つことと難曲へ挑むこと

武道館を終えたMs.OOJAは、2022年の『流しのOOJA 2』へ進んだ。
当時はもうすぐ40歳。
幼いころに親しんだ歌謡曲にも、この年齢になった今だから歌える大人の世界があると感じていたという。
2014年に古内東子の詞で覚えた、今の自分だから表せる気持ちがあるという実感は、カバーでも広がっていた。

「みずいろの雨」を選んだきっかけは、八神純子と「想い出のスクリーン」で共演したときの経験だった。
八神本人がステージで歌う「みずいろの雨」に圧倒され、自分にカバーできるのかと不安になったという。
それでも好きな曲だから挑み、アルバムでも特に難しい一曲になったが、歌ってみると楽しさを感じた。

「みずいろの雨」2022年7月16日、東京キネマ倶楽部。

武道館前の2022年2月には、本人は過去10年の歌を振り返り、以前のがむしゃらな歌から、力を抜くところと入れるところを分けられる歌へ変わったと説明していた。
余裕ができたことは、簡単な曲だけを選ぶことにつながっていない。
自分の声を確かめながら難しい曲へ踏み込み、その曲に必要な力を考えられるようになったのだ。
シリーズは2024年の第3作まで続き、男性歌手の曲にも取り組んだ。

音楽ナタリー取材時のMs.OOJA
取材に応じたMs.OOJA。
出典:音楽ナタリー

2024〜2026年:少ない力で歌えるようになっても、新しい壁がある

2024年の「Hidamari」は、アニメの物語を受け取って生まれたオリジナル曲だ。
本人は原作を読み、大切な人が離れていても笑っていてほしいという思いを込めたと説明している。
他人の歌を自分の声で受け取るカバーと、自分の思いを作品へ差し出す歌。
両方を行き来する中で、2025年には体の使い方を知り、以前より少ない力で同じような声を出せる感覚を得たと話した。

その変化は、本人によれば一度の発見で完成したものではない。
ライブのたびに、どう体を使えば声が出るかを知る機会があり、歌い終えた後の負担も以前とは違うと感じているという。
聴き手にとってなじみのある声の裏で、歌い続けるための方法が更新されてきた。

2026年の『Ms.ENKA ~OOJAの演歌~』では、その声のまま新しい難しさへ向かった。
きっかけの一つは、作曲家の杉本眞人が歌う「冬隣」に感動したことだった。
帰宅後にちあきなおみの歌も聴き、自分でも歌いたいという思いが強くなったという。
演歌特有のこぶしやうなりを身につけて変身するのではなく、これまでのJ-POPの歌い方でも成立する曲を選んだ。

ところが「冬隣」では、一つの音に言葉をどう置くかの自由さが難しかった。
一度録音しても納得できず、改めて録り直した。
後から最初の録音を聴くと、それにも良さを感じる。
できないから迷うだけでなく、いくつもの表現が成り立つから、一つを選びきれないという悩みだった。

2026年『Ms.ENKA ~OOJAの演歌~』収録音源。

2026年2月のお披露目の舞台では、原曲の抑揚を追いかけて感情を強く出すより、曲を滑らかに届けることを意識したという。
自分の歌い方で演歌を伝えるために、感情を見せる加減も選んでいた。

「冬隣」2026年2月16日、恵比寿BLUE NOTE PLACE。

かつては全力を注いでも思うように歌えず、今は選べる表現の多さに悩む。
Ms.OOJAの変遷は、不安がなくなるまでの道のりというより、その不安の中身が変わっていく歩みだ。
磨いてきた声を保ちながら、次の曲にふさわしい力と言葉の置き方を探し続けている。

一曲の中で原曲への敬意と自分の声をどう両立させるかは、Ms.OOJAの歌い方で「みずいろの雨」「巡恋歌」「Hidamari」を手がかりに考える。

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