天音かなたの歌声はどう変わった?「リベンジ」から『Trigger』へ、歌を選び直した4年

天音かなた 2025年LOCK ON公式ビジュアル シンガー

2021年のソロ3Dライブ「リベンジ」は好評でした。
それでも天音かなたは後に、当時の歌をまだ拙かったと振り返っています。
褒められた公演の続きを作るために、次の一年は自分の歌い癖から見直した。
翌年の「別世界」で得た自信は、やがて同じ曲の録り直しにも、作曲家へ歌の方向を提案することにもつながっていきます。

3周年ライブ「別世界」公式映像(2022年12月)。

最初のオリジナル曲には、本人の不安も入っていた

2019年12月、ホロライブ4期生としてデビューした天音には、歌を続けることへの迷いがありました。
デビュー前に片耳の聴力を失い、好きだった音楽を楽しめなくなった時期があったと本人が明かしています。
活動を始めてからも、最初の一、二年は歌をやめようかと思うことがあったといいます。

2021年8月の初オリジナル曲「特者生存ワンダラダー!!」は、そんな時期に発表されました。
田淵智也に頼んだのは、まず自分を紹介できるキャラクターソングのような曲。
配信の切り抜きも渡して作ってもらう一方、不安を歌う部分には、天音自身が提案した言葉も採用されています。

最初から歌手として迷いがなくなったわけではありません。
当時は時々曲を出して、ファンと盛り上がれたらいいという思いもあったそうです。
自信のない自分を含めて歌にできたこの曲は、後年、歌うたびに成長を確かめる曲になっていきます。

「特者生存ワンダラダー!!」初出時の公式MV(2021年)。

「リベンジ」から「別世界」へ、褒められた歌を見直す一年

それまでの記念ライブではゲストを呼ぶことにも挑んでいた天音が、2021年12月の「リベンジ」で選んだのは完全ソロでした。
演出を工夫した公演への好意的な反応は、もっと本気で歌を磨けば、次はさらに良いものを作れるのではないかという意欲になりました。
当時の歌への厳しい自己評価は、成功を否定するためではなく、その続きを作るためのものでした。

本人は、今の自分の状態から何を良くできるか考え、約一年をかけて歌の癖をいったん取り除くように向き合ったと話しています。
「リベンジ」から翌年の公演までは、歌の練習を重ね続けた時期でした。

2周年ライブ「リベンジ」公式映像(2021年12月)。

2022年12月の3周年ライブ「別世界」では、歌う人物の背景を公演の流れにも持ち込みます。
幼い頃、母親と親しんだミュージカルがその手がかりでした。
曲の主人公になって人生を表す発想を、たとえば「少女レイ」からカンザキイオリの楽曲へ続く場面で試しています。

明るい歌を好むと思っていたリスナーにも、物語の背景が届けば受け取ってもらえる。
その反応が自信となり、続く4周年ライブ「輪廻転生」では公演全体の主題をさらに強めました。
歌を練習することと、どんな人の言葉として歌うか考えることが、ここで一つの公演づくりにつながっています。

4周年ライブ「輪廻転生」公式映像(2024年1月公開)。

『Unknown DIVA』の後半で、自分の歌のために曲を変えてもらう

2024年3月の1stアルバム『Unknown DIVA』は、憧れの作家たちに依頼して作った一枚です。
制作を始めた頃の天音には、相手が作る曲へ自分を合わせたいという気持ちが強くありました。
ところが終盤に録音した「片羽」では、自分の歌の良さも出せないかと考えるようになります。

Toby Foxから届く曲は、当初、天使を思わせる柔らかく神聖な雰囲気になる予定でした。
そこへ天音が、天使という設定にこだわらずロックにしてみたいと提案します。
歌うのは難しくても、開放感が楽しく、幸せに歌えたと本人は振り返りました。
作家への憧れを持ったまま、自分の声を生かすための希望も伝えられるようになったのです。

一方、曲の人物を理解するために自分から近づいた例が、みきとPによる「返信願望」です。
返事を待つ恋の感覚が最初はつかめず、少女漫画を読んでから録音に臨みました。
誰の立場の恋かを限定せず、相手を好きだという気持ちと、先が見えない切なさに向かって歌っています。

自分で詞を書いた「START UP」では、否定されたり笑われたりしても、その言葉を跳ね返せる力を歌にしました。
受け取った曲に感じた意志の強さを、自分の言葉でも出そうとしたそうです。
他人の人生へ入っていく歌と、自分の内側にあった思いを形にする歌。
アルバムでは、その両方を選べるようになっています。

同じ「中空の庭」を録り直し、「特者」の高音にも備えられるようになった

このアルバムでは、既発曲も改めて歌い直しています。
変化が具体的に分かるのは、やなぎなぎ作詞、bermei.inazawa作編曲の「中空の庭」です。
天音はやなぎなぎの音楽を以前から好み、幻想的なのに実在する場所を思わせるような世界を望んでいました。

「中空の庭」シングル版の公式動画(2022年)。

先行シングルでは囁くような歌い方を選び、アルバムの「UnknownDIVA ver.」ではミュージカルらしさを前へ出したと本人が説明しています。
同じ世界を歌うのにも、もう一つの表し方がある。
「別世界」で試した、歌に人物や物語を託す発想を、過去の録音へ戻って試せるようになった例です。

「中空の庭」アルバム再録版の公式音源(2024年)。

初曲「特者生存ワンダラダー!!」にも、繰り返し歌ってきた時間が残っています。
初期のVRライブでは、高い音が厳しいと感じながら歌っていました。
2024年の取材では、まだ高い曲だとは思うものの、難しい箇所へ入る前に息を吸うなど、準備できるようになったと話します。

高い音に出会ってから頑張るのではなく、その前から曲の流れを考えておく。
本人にとってこの曲は、歌うたびに前より良く歌えたと感じられる曲になりました。
初期の歌を置き去りにせず、同じ一曲の中で変化を実感できるようになっていたのです。

「特者生存ワンダラダー!!」アルバム再録版の公式音源(2024年)。

『Trigger』では、歌い方の希望もテイクの判断も自分で持つ

2025年7月の2ndアルバム『Trigger』では、好きな作家と作るという前作の喜びを、次の展開へつなげようとしました。
「Last-resort」を依頼した草野華余子には、自分の中にある野心も伝えています。
その野心は、ほかの誰かを追い越すことより、これまでの自分を超えたいという気持ちでした。

録音当日は喉の調子が十分でなかったものの、草野から声を下向きに出すようなイメージを教わり、歌えるようになったといいます。
曲を届けるため、その場でも方法を変えてみる。
天音はこの曲を一曲目に置くことにもこだわり、別の曲を冒頭にする案があっても、自分の希望を伝えました。

反対に、自分から難しい曲を迎え入れたのが、サツキによる「セルフサービス」です。
人が歌うことを気にせず作ってほしいと頼んだ結果、久しぶりに歌えるかどうかの壁へ挑む録音になりました。
エンジニアが良いとしたテイクでも、自分では高い音に届いていないと感じれば、もう一度歌わせてほしいと申し出ています。

初期には高くて厳しいと感じていた曲を、繰り返し歌うことで自分のものにしてきた。
その経験を経た2025年にも、また難しい曲が目の前に現れます。
ただし今度は、難しさを引き受ける依頼も、録り直す判断も自分でしています。
自信は、難しい歌がなくなることではなく、そこへどう向かうかを選べることとして表れていました。

「特者」から「世界で一番のアイドル」へ

天音かなた 2025年LOCK ON公式ビジュアル
2025年のソロ公演公式ビジュアル。
画像出典:ホロライブ公式サイト

2025年8月13日、有明アリーナの初ソロライブ「LOCK ON」では、こうして増やしてきた歌が一つの公演に並びました。
「別世界」や「セルフサービス」を歌い、アンコールには最初のオリジナル曲「特者生存ワンダラダー!!」も置いています。
そして最後に歌ったのが、自作詞曲「世界で一番のアイドル」でした。

天音かなた 2025年LOCK ON公演写真
2025年ソロ公演の公式記録写真。
画像出典:ホロライブ公式サイト

この曲を書くとき、天音は自分の目線の先にいるファンを意識し、ここまでの活動を言葉にしようとしました。
「特者生存ワンダラダー!!」の歌詞にも触れ、自分の過去の歌とつながるようにしています。
ところが録音では気持ちが入りすぎて涙が出てしまい、このアルバムでもとりわけ大変な一曲になったそうです。

「世界で一番のアイドル」公式MV(2025年)。

初曲に自信のなさを差し出した人が、自分の言葉でファンに届けたい歌を作り、ソロ公演の最後に置いた。
その間には、歌い癖を見直した一年も、別の人物として歌う試みも、同じ曲を録り直した経験もありました。
天音かなたの歌は、そうした選び直しの積み重ねで、歌える役も、自分として伝えられる言葉も増やしてきたのです。
一曲ごとの表現の選び方は、天音かなたの歌い方でも取り上げています。

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