ヤバイTシャツ屋さんのこやまたくやは、初期から曲に合わせて声の表情を変えていた。
その後は、笑いで終えずに気持ちを聴かせる曲を作り、相方のしばたありぼぼの声を生かすため、録音を丸ごとやり直すこともあった。
ステージで自分の声を聴く環境を変えたり、録音では出せた高さに後から苦労したりした経験も、本人が明かしている。
冗談のような題名の下で、歌い方と二人の声の組み合わせをどう育ててきたのかをたどる。
「無線LANばり便利」公式MV(2016年発表曲・MV公開2017年)
2016年、曲ごとに違う声を当てていた
大学のサークル仲間で結成されたヤバイTシャツ屋さんは、2016年の『We love Tank-top』でメジャーデビューした。
こやまがギターと歌、しばたがベースと歌、もりもりもとがドラムとコーラスを担う。
こやまは後の対談で、しばたを誘った理由の一つに、自分の曲へ高い声が欲しかったのだろうと話している。
曲を書く時点から、本人の声だけでは埋まらない部分があった。
その一方、こやま自身の歌も一種類ではなかった。
2016年のSkream!取材では、「週10ですき家」と「ZIKKA」を例に、曲へ合ったボーカルを当てる点が話題になっている。
本人は、曲ごとに好きな音楽家の影響があり、それが歌にも出ると説明した。
「ZIKKA」は引っ越したい気持ちから作り、引っ越しを強く訴える声のイメージも取り入れたという。
題材に合わせて、声が演じる人物や言い方まで考えていたのである。
同じアルバムの「流行りのバンドのボーカルの男みんな声高い」は、題名だけなら周囲の歌手をからかう曲に見える。
しかしこやまが語ったのは、そうした歌手への羨望と、無理をして楽しさを失わず、自分たちのできる範囲で進みたいという姿勢だった。
他人への冗談に見える言葉の中に、自分たちの本音も入れる。
気持ちを歌うことは、売れた後で初めて加わった要素ではない。

写真出典:音楽ナタリーのメジャーデビュー時の取材
2018年、最後を冗談で締めずに聴かせる
『Tank-top Festival in JAPAN』の「かわE」は、映画『ニセコイ』の主題歌として作られた。
最初の案は映画に合っていても、こやまにとってヤバTとして歌うにはつらい曲だったという。
作り直してベースやドラムまで録った二案目も、違うと感じた。
好きだと正面から言う代わりに、かわいさを言葉遊びで膨らませる方法へたどり着き、自分たちの歌えるラブソングになった。
同作の最終曲「ゆとりロック」では、気持ちの残し方を変えた。
こやまによれば、それまでは心情を歌う曲を最後から二、三曲目に置き、最後はふざけたり明るくしたりしていた。
今回は、きちんと音楽を聴かせる曲を最後に置こうと考えたという。
笑いを挟んで照れを隠すような終わり方から、歌った気持ちをそのまま持ち帰ってもらう構成へ踏み出した。
しばたも、ヤバTにはなかった遅いテンポで、盛り上がりたいところをこらえるのが挑戦だったと話す。
勢いを足して終わるのではなく、その曲の速度で最後まで聴かせる。
もともとあった本音を歌う面を、アルバム全体の印象を決める場所へ出したことが、この時期の変化だった。
2019年、ステージで歌う環境を変えた
歌をライブで届ける条件も見直している。
こやまは2019年の「スペインのひみつ」ワンマンツアーから、耳に装着して演奏を聴くイヤモニを導入した。
それまでは自分のアンプから出る音にこだわっていたが、試すと歌う負担がかなり減り、なぜもっと早く使わなかったのかと感じたという。
一方で、外した時の音の気持ちよさもあり、使い方は模索していると2020年の取材で話していた。
単に声量を増やす方向へ進むのではなく、自分に何がどう聴こえるかを変えて、歌いやすい状態を探した。
曲でできることが増えるのと並行して、それをステージで支える条件も整えていたのである。

写真出典:タウンワークマガジンの取材
2020年「泡 Our Music」で、曲の途中の表情を変える
「泡 Our Music」では、CMに必要な親しみやすさと、自分のやりたかった重いロックを一曲に組み込んだ。
こやまはサビをポップに、それ以外を重くし、このような曲中の変化はそれまでのヤバTになかったと説明している。
アルバムの中に違う種類の曲を並べるだけでなく、一曲の途中でも表情を切り替える試みだった。
言葉の多さと複雑な譜割りは、二人の歌の違いも浮かび上がらせた。
こやまは、自分の英語はカタカナ発音になるため変則的なリズムでも歌えるが、英語の発音がしっかりしたしばたには難しい部分があったと話す。
自分の歌い癖を他人へ伝える難しさが、録音の中で表れたのである。
声の高さだけでなく、同じ言葉をどんな発音で拍へ入れるかも、二人で合わせる必要があった。
演奏側にも、それを支える工夫がある。
もりもとは、今回は歌詞入りのデモを先にもらえたため、言葉に合わせてドラムのアクセントを作れたと話した。
歌を後から楽器へ乗せるだけでなく、言葉が際立つ場所を演奏と共有していた。
2020〜2021年、高いキーを録音とライブの両側から考える
2021年発表の「Bluetooth Love」は、発売順だけでは見えない転機になった。
録音を一度終えた後、こやまがキーの低さを感じ、曲を丸ごと録り直したという。
バンド内では、しばたの声は高いほどよいという考えが強まっていた。
完成した録音を残すより、彼女の声が生きる高さを選び直したのである。
この曲の録音は、2020年発売の『You need the Tank-top』の収録曲より先だった。
こやまは「Bluetooth Love」をきっかけに同作のキーも高めになったと説明し、もう録り直したくなかったとも笑っている。
先に行った録音での判断が、次の制作へ持ち越されていた。
ただし、高く録れたことが、そのまま毎回歌えることを意味したわけではなかった。
『You need the Tank-top』の「原付 ~法定速度の範囲で~」について、こやまは、ライブのなかった自粛期間に喉の調子がよく、高いキーで歌えてしまったと話す。
ところが、後にスタジオで合わせると声が出ず、ライブでは半音下げるかもしれないと考えていた。
「原付 ~法定速度の範囲で~」公式音源(2020年)
しばたの高い声を生かしたいという制作上の狙いと、こやま自身がその日の状態で歌える高さ。
キーを選ぶ際には、その両方が関わっていた。
一度の録音で成立した歌を、二人で繰り返し届けるにはどうするかという課題も、作品とともに増えていたのである。
2023年、笑いの奥の寂しさと、ほかの人へ渡す歌
『Tank-top Flower for Friends』の「俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ」は、こやま自身の体験をもとにしている。
位置情報を共有するアプリで、自分が家にいる間に友人同士が集まっていると分かる。
誰にでもありそうな寂しさを、現代ならではの仕組みが隠せなくしてしまう題材だった。
取材では、しばたも初期の珍しい題材を歌った曲より、気持ちの重さがあると話している。
面白い題名や初期に近い曲の構成を残しながら、笑った後に、自分にも覚えのある寂しさが残る。
初期からあった本音を忍ばせる方法が、友人関係の小さな傷も受け止めるようになっていた。
アルバムの最後には、ドラマ『クレッシェンドで進め』の合唱曲として書かれた「hurray」が置かれた。
こやまは、もともと男女混声のバンドだったことが合唱への編曲に生きたと振り返る。
その一方、本人たちが歌うのも難しい曲だった。
しばたは、主旋律とハモりを男女で行き来することや、キーの高さを難所に挙げている。
「hurray」公式MV(2023年公開・ヤバイTシャツ屋さん版)
実際、合唱曲にする途中で、声が高いという理由から一度曲が戻ってきたという。
こやまも、しばたの声が特別に高いために難しいことを求めてしまったと話した。
自分たちの二声で成立する曲を、別の人の声へ渡す時には、もう一度歌える形を探す必要があった。
2018年には聴かせる歌をアルバムの終点へ置き、ここではその歌を、バンドの外の声にも開いたのである。
こやまの変遷は、面白い曲から真面目な曲へ一度に移ったものではない。
曲に合う声を選び、気持ちを残す終わり方を試し、二人の声に合う高さや言葉の運びを細かく考えてきた。
笑いを保ちながら、誰の声ならどう届けられるかという問いを、録音とライブの両方で広げてきた歩みだった。
二人の声の役割や発音の違いについては、こやまたくやの歌い方でも掘り下げている。

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