YOURNESSの黒川侑司は、2018年の「夜中に」で、会心の出来だと思った歌を何度も録り直した。
作曲者の古閑翔平が求めた切なさは、きれいに歌えたという本人の手応えだけでは届かなかったからだ。
その後、黒川は共演者の声や原曲の歌い方を研究し、2024年には外部からの注文に応えることを、自分の強みとして語るようになった。
そして2025年の「眩」では、物語の二人の距離を自らコーラスにした。
歌える声を持っていることと、その声を作品のどこへ置くかを決めることの間で、何を学んできたのだろうか。
「凩」公式MV(2018年)
2018年「夜中に」――会心のテイクより、粗いデモに熱があった
福岡で結成されたYOURNESSでは、古閑が主に曲を書き、黒川が歌とギターを担ってきた。
2018年春の『Ctrl+Z』に続くEP『Shift』には、結成当初からライブで演奏し、アレンジを練ってきた「凩」も収められている。
ライブを重ねながら、曲に足りないものを探していた時期だった。
同作の「夜中に」では、その問いが歌へ向かった。
黒川はバラードを得意だと考えており、録音でもよいテイクが録れたと思っていた。
しかし古閑には、もっと切なく歌えるはずだと促され、録り直しを続けたという。
休憩中に昔の宅録デモを聴くと、そこには今より粗く、声が裏返るところもある歌が残っていた。
それでも、黒川自身が、そのデモのほうに感情や熱を感じた。

写真出典:SPICEの2018年取材
古閑がピアノを入れたのは、黒川の柔らかい声を際立たせるためだった。
ところが黒川には、普段は意識していなかった吐息や声の擦れまでよく聴こえる編成が、難しさにもなった。
息をもっと多くするよう求められても、初めは何を指しているのか分からなかったという。
自分が歌いやすい曲でも、曲を書いた人が欲しい感情と、自分の達成感は一致しないことを知った録音だった。
「夜中に」公式音源(2018年『Shift』収録)
黒川は、自分よりよい歌を知っているメンバーがいたからこそ、さらにできると言ってくれたのだと受け止めている。
自信のなかった箇所をよいと評価され、驚くこともあった。
自分の手応えだけで完成を決めず、他人の耳から自分の声を聴き直す経験が積み重なっていた。
2019年『ES』――静かな歌で、感情を薄くしない
『ES』では、死や記憶、忘れることと忘れないことをめぐる物語が前へ出た。
「紫苑」の発想について、古閑は、亡くなった父を忘れて前へ進む兄と、思い続ける弟の話にひかれたと説明している。
悲しみをなくせば終わるのではなく、何を残して生きていくかが曲の背景にあった。
以前より遅いテンポの曲が多くなり、黒川は言葉が際立つぶん、声色ひとつで曲の印象が変わると話した。
そこで大切にしたのは、静かに葛藤している熱をどう表すかだった。
小野貴寛も、ドラムを均等に強くしていくより、抑えた感情が一気に出るような強弱を意識したと説明している。
歌の内側に熱を残すという課題を、バンドの演奏も一緒に引き受けていた。
『Shift』では息の細部を指摘されながら歌った黒川が、『ES』では、自分の声が言葉の意味をどう変えるかを語っている。
柔らかい声で静かな曲を歌う時にも、感情まで平らにしない。
少ない動きの中で何を伝えるかが、歌の大切な判断になっていった。
2020〜2021年、聴き手と、ほかの歌手の声を意識する
2020年の「籠の中に鳥」は、アニメ『イエスタデイをうたって』の主題歌として、海外の聴き手にも届いた。
黒川は、日本語の曲なのにSNSで直接感想をもらい、YouTubeで歌う人もいたことを喜んでいる。
ライブが思うようにできない時期にも、自分たちの歌を受け取り、歌い返す人の存在を知る経験になった。
2021年の『6 case』を語る取材では、黒川が自分の判断基準の変化を説明している。
以前は、自分の歌がうまいと思える勢いで歌えばよい歌になると考えていたが、それだけでは次へ進めないと感じたという。
曲を客観的に見て、聴き手へどう届くかまで考えるようになった。
その実践の一つが、nemoiと二人で歌う「49/51 (feat.nemoi)」だった。
最初は、自分以外の人が歌うパートを想像すること自体が難しかったと黒川は話す。
自分と相手のノリや音域を合わせ、自分には裏声になる高さを相手が地声で歌えるなら、自分は低い側へ回ったほうが曲に厚みが出るかもしれないと考えた。
単に交互に歌う順番を決めるだけでなく、二人の声を組み合わせた時に何が生まれるかを考えている。
同作の「躍動」は、前年に坂本真綾へ提供した曲をYOURNESSで歌い直したものだ。
黒川は、普段のバンドの曲とは違う歌い回しが多かったため、坂本の過去の曲も聴き直し、音の収め方を研究した。
原曲の色をなるべく残しながら、主旋律へ自分らしさをどれだけ入れられるかを意識したという。
先にその曲を歌った人の表現を理解することも、歌う準備になっていた。
「躍動」YOURNESS版公式音源(2021年『6 case』収録)
古閑は黒川のキーに合わせて楽器の音も整理し、高くなった音域を低音で支えるように編曲したと話す。
歌手が変われば、同じ曲でも声を置く場所や、周囲の音との関係が変わる。
共演者に合わせる「49/51」と、既存の歌を受け継ぐ「躍動」を通して、黒川は自分の声を曲全体の中で選ぶようになっていた。

写真出典:FRIENDSHIP.のプロフィール
2024年、英語の発音と、注文に応える声を試す
『Ⅶ』の「a couple of times」では、全編英語詞のオリジナル曲に取り組んだ。
古閑には、日本以外の人にも音楽を伝えたいという狙いがあった。
黒川は、それまで英語のカバーを歌う際、耳で覚えた音をカタカナとして捉えていたが、今回は歌詞の意味を理解し、事務所の外国籍のスタッフと、外国語を学んだ妹に発音を見てもらったと話す。
歌の雰囲気をまねる段階から、言葉そのものを伝えるための準備へ踏み込んだ。
同年のソロ曲「夏の桜」では、Galileo Galileiと制作を共にした。
黒川は、録音時に実直な人物をイメージするよう伝えられたと振り返っている。
本人が気に入ったのは、伴奏が静まり、Bメロの裏声を生かす部分だった。
自分の歌の強みを理解したうえで書かれた曲だと感じたという。
一方、終盤には、その裏声を別の表情へ変える場面がある。
岡崎真輝は、1番のサビでは裏声だった箇所を、最後には地声で歌うところが印象的だと話した。
黒川によると、地声でも出せるかという注文は、録音の場で急に決まった。
岩井郁人も、注文するたびにいろいろな表情が返ってきたと振り返っている。
黒川はこの制作で、注文を受けると意欲が湧くとも話している。
コーラスの録音に丸一日をかけたのは初めてだったが、求められたものを曲へ収められたという手応えがあった。
2018年には戸惑った細かな歌の指示が、この時には、持っている表情を引き出してもらう機会にもなっていた。
2025年「眩」――物語の二人を、自分の声で設計する
ドラマ『被写界深度』のエンディング曲「眩」では、原作の二人から感じた、優しさゆえの臆病さを歌にした。
黒川は、その感覚を表すために「ギリギリのファルセット」で歌ったと説明している。
裏声を使うこと自体より、その声が登場人物のどんな心情を引き受けるかが先にあった。
コーラスも黒川自身が考えた。
初めは一般的な上下のハモりを考えたものの、作品には違うと感じ、サビで離れた二つの音が近づき、最後に同じ音になる形を選んだという。
整った一つの和音に溶け込ませる声より、二人が並んで歌うような声色を意識した。
主旋律を飾るだけでなく、登場人物の関係が変わる過程を、重ねる声にも担わせている。
「夜中に」では、自分の歌と作り手の望む感情の差を知った。
「49/51」や「躍動」では別の歌手を基準に声を選び、「夏の桜」では注文へ複数の表情で応えた。
その先の「眩」には、作品を読み取り、自分で声の役割を提案する黒川がいる。
歌のうまさを作品へどう生かすかという問いが、より細かな声の選択へ結びついてきたのである。
一曲の中での裏声やコーラスの使い分けは、黒川侑司の歌い方で詳しく取り上げている。

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