AURORAの歌には、初期から儚さと力強さの両方がありました。
その声を、人前でもためらわずに使えるようになるまでには、観客との向き合い方が変わる経験がありました。
さらに作品を重ねると、遊び心や、その日だけの荒れた声も、録音の中へ入っていきます。
初期の作品から、2024年の『What Happened To The Heart?』まで、声の表現を広げてきた過程をたどります。
「To Be Alright」(2024年)の公式ビジュアライザー。
初期から、儚さと力の両方があった
2016年の初アルバム『All My Demons Greeting Me As A Friend』を評した音楽ライターのAndrew Hannahは、「Running With The Wolves」の歌の振れ幅に注目しています。
始まりでは儚い声を聴かせながら、サビでは、強まる楽器の中にも埋もれないボーカルの幅が表れているという評価でした。
同じ評では、静かな曲でも彼女の声が際立つことが指摘されています。
曲が高揚したときに前へ出る力と、静かな音楽を聴かせる声の美しさ。
この二つを行き来できることは、初期の作品から聴きどころになっていたのです。
後の変化を考えるときも、この出発点は大切です。
もともとある表現の幅を、どんな気持ちで、どんな曲のために使うようになったのか。
本人の話を追うと、その選び方に変化が見えてきます。
「Running With The Wolves」(2015年)のMV。
「Queendom」の頃には、届ける相手がより具体的になった
2018年に「Queendom」を発表した際、AURORAは、初アルバムのときよりも広い視点で作品を考えていると話しています。
この曲で思い描いたのは、物静かな人や内気な人も、歌い、自分の存在を感じられる場所でした。
世界各地の観客と会い、目を見て、手を取ったことも、自分を変えたと語っています。
聴き手にとって大切なのは、彼女が自分のままで、自分に必要な音楽を作ること。
それを実感して、以前よりも自分の直感を信じられるようになったそうです。
声を届ける相手が、作品を聴く誰かから、実際に出会った人々へと近づいていく。
その関係は、ステージで歌う気持ちにもつながっていました。
「Queendom」(2018年)のMV。
観客が音楽を楽しんでいると気づき、思い切り表現できるようになる
2019年の初来日時、AURORAは、最初から人前でのパフォーマンスが得意だったわけではないと振り返っています。
子どもの頃から内気で、ステージに立つと強く緊張していたそうです。
気持ちが変わったのは、来場者は自分だけを見に来ているのではなく、音楽を楽しみに来ていると気づいたことでした。
目を閉じて聴いている人もいる。
主役は観客なのだと考えると、自分がずっと見られているという意識から離れられたと話しています。
それからは、叫んだり踊ったり、悲しみも楽しさも思い切り表せるようになり、ライブを楽しめるようになったというのです。
録音作品にあった声の幅を、人前で遠慮なく表すには、聴き手をどう捉えるかも関わっていました。
声を出す本人の気持ちが変わったことは、彼女の歩みを知るうえで欠かせない転機です。

画像出典:DIGLE MAGAZINE
『The Gods We Can Touch』では、遊ぶ自分も作品に入れる
2022年の『The Gods We Can Touch』を語った取材では、制作の楽しさが、もう一つの形で表れています。
「Cure For Me」などの遊び心を指摘されたAURORAが挙げたのは、好きなように作ってよいのだと、改めて気づいた瞬間でした。
自分は遊ぶことが好きなのに、作る音楽は真剣なものが多い。
このアルバムでは、自分の中にある、遊び心や官能的な感覚、気負わない面も見せようと決めたと話しています。
ステージでも楽しみたいという気持ちがあり、泣いてばかりいることから少し休める、と冗談めかしていました。
重い感情を歌う自分に加えて、軽やかに楽しむ自分も舞台に立たせる。
それは、曲の中で表せる人物像を増やす選択でもありました。
「Cure For Me」(2021年)のMV。
整った歌以外の声も、録音の中へ
『What Happened To The Heart?』の制作を語った2024年のインタビューには、思いがけない録音の話が出てきます。
Dave Hamelinとスタジオに入る予定の日、AURORAは声が出ず、中止したかったと振り返っています。
マネージャーに勧められて現場へ行った彼女が求めたのは、荒々しく、ひどい音にすることでした。
本人によると、歌えなかったために叫び、その録音は4時間ほどで終わったそうです。
短い時間の中に、美しさと醜さの両方があり、自分に必要なものになったと受け止めていました。
この話で印象に残るのは、普段なら困るはずの声から、その場で欲しい表現を見つけていることです。
新しい相手と作ると、未知のものに驚かされることもある、と彼女は話していました。
用意していた歌を仕上げるだけでなく、出会いや、その日の声から生まれるものを受け入れる制作だったのです。

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声を楽器として扱い、さまざまな人物を歌う
同じアルバムを振り返った別の取材で、AURORAは、声を楽器として扱うと、いろいろなことができ、さまざまな人物にもなれると学んだと話しています。
初期の作品で評価された儚さと力強さは、その後、ステージで思い切り感情を表すことや、遊び心を見せることへと使われてきました。
2024年作品では、荒れた声まで録音の素材にし、一人の中に異なる人物を置く発想も語られています。
声の持ち味を保ちながら、表現に使えるものを増やしてきた歩みです。
声色の応答や、重ねた声の聴きどころは、AURORAの歌い方で取り上げています。

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