猫又おかゆは、声の軽さを弱点だと思っていました。
2022年、戌神ころねと同じ曲を録音した際にも、相手の声の厚みが羨ましかったと話しています。
けれども、1枚目のアルバムを作る中で、その軽さだからこそ細かな表情をつけやすいのかもしれないと考えるようになった。
2025年の2枚目では、過去の歌と発声の癖を振り返り、今度は座って録音する方法を選びます。
自分の声を知ることが、歌の作り方をどう変えていったのでしょうか。
「もぐもぐYUMMY!」公式MV(2021年)。
カバーを褒められて、想像していなかった歌の仕事へ
2019年、ホロライブゲーマーズとして活動を始めた猫又は、当初、大きな舞台で歌って踊る未来を想像していませんでした。
音楽を聴くことやカラオケは好きでも、身近な楽しみだったそうです。
投稿したカバーを視聴者に褒められ、楽しくなって、もう少し歌を出してみようと思う。
その積み重ねが、音楽活動を広げていきました。
2021年2月の初オリジナル曲「もぐもぐYUMMY!」を依頼したのは、本人が以前から好んで聴いていたピノキオピーです。
穏やかな普段の印象を出しながら、意外な顔でファンを驚かせたいという楽しみもありました。
猫又は後に、この曲にも少し脅すような言葉が入っていたと振り返っています。
最初の一曲から、親しみやすさの中に意外な顔を忍ばせていたのです。
2022年、歌い直したいと言えるようになる
2022年9月の『ぽいずにゃ~しんどろーむ』は、初めてのソロライブへ向けて作ったアルバムでした。
先に主題を決めて曲を集めたのではなく、好きな作家や曲調を希望していくうちに、毒のある雰囲気でまとまってきたといいます。
題名を考えたのも曲がそろってからでした。
この頃、歌への取り組み方も変わっています。
カバーを始めた頃は、一曲を好きなように通して歌うカラオケの延長。
録音の機会が増えた2021年頃からは、曲に合うニュアンスを探し、歌い直したテイクから良い部分を選んで、一曲を仕上げる感覚になったと話しました。
ただ、最初から希望を言えたわけではありません。
スタジオで歌い方の指示を出す人と、録音を担当する人がいる状況に慣れず、気になる箇所があっても遠慮して、もう一度録りたいと言えないことがありました。
アルバム制作を続けるうちに、その希望も伝えられるようになったそうです。
その変化を具体的に考えられるのが、神山羊による「琥珀糖」です。
最初に届いた曲は完成版よりキーが三つほど高く、そのままでは自分の声が届きませんでした。
さらに、仮歌にあった息の多い感じも、普通に歌うだけでは表せなかった。
そこで録音エンジニアの提案を受け、歌の上に小さめの声を重ねたところ、欲しかった雰囲気に近づけたといいます。
「琥珀糖」公式MV(2022年のアルバム収録曲、MVは2023年公開)。
一人でうまく歌い切ることだけが、録音の答えではなくなっていた。
高さを合わせ、違う声を録り、気になる箇所は相談する。
作り手とやり取りする中で、どんな声を一曲に残したいかが具体的になっていきます。
穏やかな自分から離れて、「あっかんべ」と王子を歌う
「あっかんべ」を作る際には、DECO*27との打ち合わせで、普段のほのぼのした自分とは違う暗い一面を見せたいと伝えました。
最後には雰囲気を変え、怖い顔を見せた後で別の表情へ戻る。
ファンを驚かせることが好きだという本人の狙いが、一曲の構成にも入っています。
声の表情を考えるとき、猫又は場面を思い浮かべ、実際に表情を作りながら歌うと話しています。
頭の中だけで声色を決めるより、その人物がどんな顔で言葉を発するか想像する。
自分の普段の声から少し離れるために、歌う場面そのものへ近づいていたのです。
同じアルバムの「毒の王子さま」では、さらに自分と違う人物を歌う難しさがありました。
ほかの曲は普段の延長に感じられても、この曲では王子らしくありたい。
そのため、いつもより少し低めの声にし、気取った感じを意識したと本人が説明しています。
もともと落ち着いた声だから、そのまま低く歌えば王子になるという話ではありません。
誰として歌うか決めたうえで、高さや態度を選ぶ必要がありました。
「あっかんべ」で見せる暗さと、「毒の王子さま」の気取った姿にも、それぞれ別の理由があります。
声の軽さを、表情をつける強みとして受け取る
アルバム最後の「ORANGE PARADE feat. 戌神ころね」は、まったりした猫又と元気な戌神、二人の持ち味を合わせて作った曲です。
猫又が先に録り、控室で戌神の歌を聴くと、その厚みのある声が自分とは対照的で、羨ましく感じたそうです。
機材を通してほかの声と並ぶと、自分の声が聴こえなくなる。
声の軽さは、本人にとって長く気になっていた部分でした。
ところが、アルバムを録り終える頃には受け止め方が変わっています。
軽い声だからこそ、ニュアンスをつけやすいのかもしれない。
聴き手が好きだと言ってくれるのも、そこなのではないかと考えられるようになりました。
自分にはない厚みを羨む気持ちと、自分の声の良さを認める気持ちが、同じ録音の経験の中にあったのです。
「ORANGE PARADE feat. 戌神ころね」公式音源(2022年)。
同年9月30日の初ソロライブでは、その声でさまざまな役を続けて歌います。
当日の公演評は「毒の王子さま」の低めの歌から、「Suspect」の柔らかな高音へ移った対比を取り上げました。
「あっかんべ」では強い叫びも披露し、本人はその日のために防音室で毎日練習していたと明かしています。
この公演には戌神ころねもゲストで参加し、二人で「ORANGE PARADE」を披露しました。
「ORANGE PARADE feat. 戌神ころね」公式ライブ映像(2022年9月30日公演)。
穏やかさを生かせると分かったからといって、穏やかな歌だけを選んだわけではない。
録音で見つけた役を、舞台で歌うためにも準備を重ねていました。
一方、感染症対策で観客は声を出せず、「カミサマ・ネコサマ」のように掛け合いのできる曲も、客席が一緒に歌う日までは待つ必要がありました。
2025年は、二つの顔を最初からアルバムの主題にする
2022年の取材で猫又は、次には主題を設けたアルバムも作りたいと話していました。
2025年5月の2枚目『ぺるそにゃ~りすぺくと』で掲げたのが二面性です。
学校や仕事の場にいる自分と、家で過ごす自分は違う。
本人はそうした身近な違いを、作品に表そうとしたと説明しています。
2024年発表の「ネコカブリーナ」を含め、一枚にはポップな曲も、鋭い表情を見せる曲も入っています。
好きな曲を作った先に毒という共通点を見つけた1枚目から、違う顔が同居すること自体を主題にした2枚目へ。
2022年の「あっかんべ」で楽しんでいた意外性を、今度はアルバム全体の構想として扱うようになりました。
録音方法も、前の作品と同じままにはしませんでした。
猫又は以前の自分の曲を聴き直し、発声の癖を考えたうえで、立つより座って録る方が声の特性を生かせると思ったと話しています。
実際に試すと、本人は音程の良さと歌の余裕に手応えを感じたそうです。

画像出典:ホロライブ公式サイト
2022年の「琥珀糖」では、作り手の提案を受けながら声の重ね方を探しました。
今度は過去に録った自分の歌も判断材料にして、歌う姿勢から選び直している。
曲の表情を増やす一方で、自分の声を出しやすい条件にも目を向けるようになっていたのです。
TOOBOEによる「青い傷」には、普段は大声を出すことが少ない猫又が、何度も叫ぶ場面を歌うという挑戦がありました。
2022年の「あっかんべ」に続き、普段の自分とは違う激しさを、新しい曲でも引き受けています。
本人の穏やかさと曲が要求する激しさ、その両方を一枚に入れるための録音でした。
客席が声を出せなかった初ライブから、一緒に歌う二度目へ
2nd Live.「ぺるそにゃ~りすぺくと」公式ダイジェスト(2025年5月公演、同年12月公開・抜粋)。
2025年5月28日、ぴあアリーナMMで開いた2度目のソロライブは「あっかんべ」で始まりました。
続く「デコグラデーション」では客席から合いの手が生まれ、「ネコカブリーナ」へと進みます。
公演の公式レポートは、この三曲だけでも、迫力のある歌から人懐っこいポップさへ表情を変えていたと評しています。
「デコグラデーション」公式MV(2025年)。
この日は生バンドを背に、「Rainy」の柔らかな歌や、「青い傷」のがなるような歌も披露しました。
「ガザニア」では歌詞に登場する花に合わせ、客席が赤いペンライトで染まったと記録されています。
二枚のアルバムで作ってきた曲ごとの顔を、伴奏や客席の反応とともに一つの公演へ並べたのです。
「ガザニア」公式MV(2025年)。
初公演を前にした2022年、猫又は声を出せるようになったらファンと掛け合いたいと話していました。
二度目の公演では「もぐもぐYUMMY!」をゲーマーズの仲間と歌い、客席も声を合わせます。
本編最後の「カミサマ・ネコサマ」にも、大きな合唱が生まれました。
録音した当時にはまだ待っていた聴き手の声が、同じ曲へ返ってくるようになったのです。
「カミサマ・ネコサマ」公式MV(2022年のアルバム収録曲、MVは2023年公開)。
初めは、褒められて楽しくなったから歌の投稿を増やした。
そこから録音の希望を言えるようになり、軽さを気にしていた声にも、表情をつける強みを見つけました。
過去の歌を聴き直して姿勢を選ぶ2025年の制作にも、自分の声を確かめ、次の歌に使おうとする姿勢が続いています。
曲ごとの歌い分けや録り方は、猫又おかゆの歌い方でさらに取り上げています。

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