葉月(lynch.)の歌い方・発声|低い声と裏声、口の形とシャウトの質感

葉月(2023年『蓮華鏡』期のアーティスト写真) シンガー
葉月(2023年『蓮華鏡』期のアーティスト写真)

葉月(lynch.)の歌い方を考えるとき、手がかりになるのは、声を組み合わせる工夫と、一つの声の質感を細かく変える工夫です。
低い声に裏声を重ねることもあれば、口の形を試して、これまで使わなかった歌い方を探ることもあります。
本人が説明した制作時の選択から、発声の特徴を見ていきましょう。

lynch.「EROS」公式音源(2020年)。

「EROS」は、低い歌とファルセットを重ねた録音

「EROS」では、曲の静かな雰囲気とメロディーの高さを、どう両立させるかが課題になりました。
作曲した悠介の曲には仮歌がなく、歌の形が録音直前まで決まらないことも多いと、葉月は説明しています。
この曲でも、実際に歌いながら声の置き方を探っていました。

葉月は、高いところを張って歌うと雰囲気が壊れてしまうため、まず低く歌うことにしたと説明しています。
ただ、それだけでは寂しく感じ、上にファルセットを足しました。

つまり、この曲の声を考える際には、低い声と裏声という発声の選択に加え、それらを別に録って重ねた作りにも目を向ける必要があります。
一人の歌い手が一度に出す声と、録音で組み合わせた声。
その違いを意識すると、表現の工夫を捉えやすくなります。

「MOONLIGHT SLAVE」は、口の形のわずかな違いも試す

HAZUKI名義の2024年のアルバム『MAKE UP ØVERKILL』に収録された「MOONLIGHT SLAVE」では、葉月は、それまでにやったことのない歌い方を研究したと語っています。
この曲は、ニューウェーブをしっかりやりたいと考え、その音楽をルーツに持つPABLOに作曲を依頼したものです。
自分でも構成やメロディーを一緒に考えたうえで、歌の質感も探っていきました。

本人が具体的に挙げたのが、口の形のちょっとした違いです。
レトロな歌い方を試すことで、歌の引き出しが増えたという手応えがありました。

HAZUKI「MOONLIGHT SLAVE」公式音源(2024年)。

声を変える工夫は、大きく張ることや、高い音を出すことだけではありません。
同じ歌い手が、口の形も含めた細かな条件を探り、曲に合う声の表情を見つけていく。
この曲には、そうした発声への取り組みが表れています。

THE MAGAZINEの取材では、歌詞も、曲の世界を広げ、メロディーをより良く聴かせるための素材だと説明しています。
先に曲から受け取ったイメージがあり、そこに言葉を選ぶという順番です。
レトロな声を研究することも、言葉を選ぶことも、一曲の世界を声で具体化する作業としてつながっています。

同じアルバムの「LOVE SONG」も、PABLOに曲を依頼した例です。
葉月は、自分が得意とする切ないバラードとは異なる、壮大で優しさや温かさのある曲を求めたと話しています。
歌い慣れた世界だけで完結させず、別の作り手の曲に自分の声を乗せることも、表現を広げる方法になっています。

昔と今のシャウトでは、鳴らす際の感覚が違う

2025年の初期作品の再録では、葉月は、昔のシャウトをどう出していたのか探り直しています。
本人の説明では、最近は鼻のほうで歪ませる感覚だった一方、昔は喉の奥を鳴らしていたといいます。
その違いに気づいたことが、当時らしい声を狙う手がかりになりました。

lynch.「QUARTER LIFE」公式音源(2025年の再録版、配信は4月30日)。

これらは、葉月自身が音色を探す際の感覚を言葉にしたものです。
ひとまとめにシャウトと呼ばれる声にも、本人にとって異なる出し方や質感がある。
過去の歌を再録する作業は、その違いを改めて確かめる機会になっていました。

同年の『THE AVOIDED SUN / SHADOWS』の再録についても、VMJの取材で、声の扱い方に触れています。
『THE AVOIDED SUN』を最初に録った頃は、スクリームで思うような表現ができず、イメージと実際の声との間に隔たりがあったそうです。
再録では、音色や質感に細かい違いを付け、感情をより的確に形にできる手応えを語っていました。

葉月(2020年10月公開のインタビューより/写真:竹中圭樹〈アーティストフォトスタジオ〉)
葉月(2020年10月公開のインタビューより/写真:竹中圭樹〈アーティストフォトスタジオ〉)。
画像出典:画像掲載元

好きな曲として挙げた「BRINGER」「CULTIC EXECUTION」でも、声の表情や強さを扱える幅が広がったと説明しています。
本人が捉える上達には、高い音や激しい声を出せることに加え、同じ曲に細やかな感情を与えられることも含まれています。
古い録音に近づける試みと、今の声で表現を深める試みの両方があるのです。

「PRISM RAY」は、シャウトに寄せる程度を選ぶ

2026年のアルバム『CLIMAX』に収録された「PRISM RAY」には、声の強さを調整した具体例があります。
作曲した悠介から、英語の部分をシャウトに近い感じで歌ってほしいと要望があったものの、葉月は、完全なシャウトにすると曲の中でうるさくなってしまうと考え、抑え気味に歌いました。
一方、それに応じる合いの手には、自身のシャウトを入れています。

lynch.「PRISM RAY」公式音源(2026年)。

同じ曲でも、主になる歌と、そこへ加える声では役割が違います。
両方を一律に激しくするのではなく、声の質感と強さを配置しているのです。

同作の「PARASITIC E.D.E.N」では、何か声を入れてほしいと依頼された部分に、語りを選びました。
シャウトを入れるには長い箇所だったため、曲から浮かんだサイバーパンク的なイメージを、話す声で表したという説明です。
声を置く場所の長さや曲の世界によって、旋律を歌う、叫ぶ、語るという選択そのものを変えています。

高さだけでなく、休める場所の少なさも難しさになる

『CLIMAX』で歌うのが手強い曲を尋ねられた際、葉月は「SILENCE」を挙げています。
キーが高いことに加え、休むところがあまりないため、ライブでの歌唱を気にしていました。
「ZEALOT」も難しく、こちらは自分でメロディーを付けた曲だと話しています。

その説明からは、ひとつの高音が出るかどうかだけでは、一曲の歌いやすさは決まらないことが分かります。
高い声をどのくらい続けるのか、フレーズの間にどれだけ余裕があるのか。
歌う本人にとっては、旋律全体の組み立ても大切な条件になるのです。

葉月は、多少大変でも無理ではないなら、自分が最も良いと思うメロディーを選ぶと説明しています。
そのため、ツアーまでに練習が必要だと感じる曲が、作品ごとに生まれるそうです。
制作時に理想の歌を形にし、ステージで届けるために準備するという姿勢にも、声の表現を広げる意欲が表れています。

葉月は2023年の時点で、バンドとクラシックのソロで歌い方自体を変えているわけではないとも説明していました。
活動の形式を分けるだけでは見えない、曲ごとの発声の選択があります。
そうした声の引き出しを、どのように増やしてきたのかは、葉月の歌唱変遷でたどります。

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