城田優は、役の感情が高まるほど、歌を安定させるのが難しくなると話していました。
悲しい場面で本当に悲しくなり、怒りや苦しさを生身の感情として表したい。
2014年の『ファントム』に臨む本人には、その思いを保ちながら、歌も揺るがせたくないという課題がありました。
4年後のアルバム『a singer』では、舞台の感情を録音向けに調整し、完成した歌も発音から見直しています。
その間に歌をどう考え、何を選ぶようになったのか。
役として歌うことへのこだわりと、録音を細部から磨く作業をたどります。
2014年、感情を抑えずに歌を安定させたい

写真出典:エンタステージ。
画像出典:写真掲載元
『ファントム』でエリックを演じるにあたり、城田には歌い方そのものへの迷いがありました。
オペラの要素がある作品だから、オペラらしく歌うほうがよいのではないか。
そう考えていた本人を励ましたのは、作曲者モーリー・イェストンです。
城田がイェストンのピアノで歌った際、作曲者はロックスターのような城田のままでよいという方向を示したそうです。
作品を書いた人から背中を押されたことで、自信を持てたと振り返っています。
作品の印象に合わせて歌を変えようとしたところから、自分の持ち味を信じて役へ向かうきっかけになりました。
一方、世界のミュージカル俳優と自分を比べ、本人が足りないと感じていたのは歌の安定感でした。
強く感情を表していても、歌がぶれない人たちがいる。
自分は気持ちが高ぶると声まで揺れてしまい、涙などに邪魔されることもあると話しています。
ただ、感情を弱めれば解決するとは考えていませんでした。
『ロミオ&ジュリエット』では、マイクが入っていない場面でも叫び、先輩から十分伝わっていると声をかけられたといいます。
それでも本人には、そこで抑えると人物としての実感が崩れてしまうという思いがありました。
この葛藤は、『ファントム』の歌でも起きています。
後年の振り返りでは、稽古の初めに泣いてしまい、演出家からこらえて歌うよう求められた曲があったと明かしました。
歌う人物の気持ちに深く入ることと、その歌を最後まで成立させることが、同時に求められていたのです。
2014年の稽古を伝えた取材には、休憩に入っても、気になる部分を一人で歌っていた姿が残っています。
本人が望んでいたのは、心が動いた勢いを保ちながら、それを歌として届けられることでした。
『ファントム』2014年9月11日の公開稽古・取材映像
2018年、舞台の歌をそのまま録音へ移さない
2018年10月に発表した『a singer』は、長年のミュージカル経験を一枚にまとめたアルバムです。
自分が出演した舞台の歌に加え、映画のミュージカルソングも選んでいます。
舞台をよく知る人にも、城田が歌うことを初めて知った人にも届く作品を考えていました。
その録音で本人が挙げた目安は、劇場で歌うときの8割ほどの感情です。
音量を2割下げるという意味ではありません。
物語の人物として歌いながら、CDの一曲として少し整えた形にする、という感情の込め方の説明でした。
劇場では、歌が始まる前の芝居があり、人物の置かれた状況があり、その日の客席の空気もあります。
録音を聴く人には、そうした場面が目の前にあるとは限りません。
城田は、舞台の感情をそのまま持ち込むのではなく、一曲を通して人物の思いが伝わるよう調整しています。
だからといって、すべての曲を穏やかにしたわけでもありません。
『ファントム』から収めた「母は僕を産んだ」は、本人がアルバムの中で最も感情を込めたと語る曲です。
稽古で涙をこらえることに苦労した記憶があるほど、強く心の動く歌を、録音でも大切にしていました。
舞台で人物の感情を出し切りたいと考えていた城田が、録音では、聴かれる場所に合わせて表現の強さを選んでいます。
CDと劇場の印象が違っていても、その違いから、歌が生まれる場面を知りたくなる。
アルバムを聴いた人に舞台へ来てほしいという願いも、その歌の整え方につながっていました。
演じてきた役から離れ、別の人物の歌にも向かう

写真出典:Billboard JAPAN。
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過去の舞台経験をまとめるアルバムでも、出演時と同じ役の歌ばかりを選んだわけではありません。
「闇が広がる」では、『エリザベート』の舞台でトートを演じてきた城田が、ルドルフを担当しました。
トートを歌うのは、ラミン・カリムルーです。
何度も舞台で歌った側から、舞台では歌っていなかった側へ回る。
その配役が、この録音ならではの楽しみだと本人は話しています。
ラミンと声を張って重ねるサビのハーモニーも、気に入っている部分でした。
二人は『4Stars』で共演しており、今回の参加も、城田が直接声をかけたことで実現しました。
録音では、日本語で歌うラミンに、城田が言葉の意味や発音を伝えています。
自分も英語の発音を見てもらいながら、別の曲では、共演者の日本語を確かめる側に回っていました。
対して、スペイン語で歌う「イザベル」は、役の人物にならず、自分の感覚で歌う曲でした。
城田は以前からこの曲を好み、コンサートでも歌っていました。
自分のルーツに関わる言語を、一曲はアルバムに入れたいという思いがあったのです。
2018年の録音では、クラシカルな原曲をそのまま再現するのでなく、テンポを上げ、ラテンのリズムを取り入れる方向を希望しました。
役の気持ちを表す歌と、本人の好みや感覚を前に出す歌。
『a singer』には、その両方が収められています。
舞台で培った表現を土台にしながら、録音では、誰として歌うか、誰と歌うかも選び直す。
出演作の記念として歌を残すだけではない、アルバムならではの自由がありました。
英語の発音は、完成後にも録り直して磨いた
日本語、英語、スペイン語を用いたこの制作で、城田がとくに力を注いだのは英語の発音でした。
日常会話ができても、それで歌の細かな音まで十分だとはしていません。
海外で聴かれる可能性も考え、英語の歌を、その言葉としてきちんと届けようとしていました。
英語を確かめる協力者には録音ブースへ入ってもらい、歌っているその場で指摘を受けています。
日本語のカタカナにすると同じように見える母音でも、実際の音には微妙な違いがある。
その一つ一つを直し、いったん完成した後も聴き返して、気になる箇所を録り直したそうです。
とくに難しかったのが、「ザ・グレイテスト・ショー」でした。
映画『グレイテスト・ショーマン』からの選曲では、本人は「ア・ミリオン・ドリームズ」を気に入っていましたが、プロデューサーから、映画を象徴するこの曲も入れてはどうかと提案されています。
そこから挑戦した歌は、冒頭から次々と英語が流れ、初めは歌えないと思うほどだったといいます。
繰り返し歌い、発音を確かめることで、難しいと思った曲も形にしていきました。
「マイ・フェイヴァリット・シングス」についても、英語が速く、発音が難しいと話しています。
華やかなミュージカルソングを録音に残す裏には、言葉を何度も磨く作業がありました。
2014年の城田は、強い感情を生かしたまま歌を安定させたいと願っていました。
2018年の制作から見えてくるのは、感情を込める強さ、歌う役、言葉の細部を、一曲ずつ選び直す姿です。
目の前の観客へ届けてきた歌を、繰り返し聴かれる録音としてどう残すか。
『a singer』は、その問いに、歌い手としての判断を重ねた作品でした。
日本語の音を選ぶ本人のルールや、言語による声の使い方については、城田優の歌い方で取り上げています。







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