近藤真彦の歌い方・発声|『愚か者』で考える、強く歌う声と張り上げない声

2025年7月放送のSound Inn Sに出演した近藤真彦 シンガー
2025年7月放送のSound Inn Sに出演した近藤真彦

1987年の『愚か者』と、1989年の『アンダルシアに憧れて』。
近藤真彦は、この二曲を歌った2025年のステージについて、今回は強めに歌ったと話しています。
その一方、テレビの前で一緒に歌う人には、あまり声を張り上げず、優しく歌ってほしいと伝えました。

この二つの話から分かるのは、近藤が、この曲を歌う強さを一つに決めていないことです。
本人が話す、声の使い方の具体的な選択を見ていきます。

ライブでは強めに|その場の演奏と一緒に歌う声

2025年3月放送の『歌える!J-POP 黄金のヒットパレード決定版!』で、近藤は『愚か者』と『アンダルシアに憧れて』を披露しました。
本人が、個人的に一、二を争うほど好きなボーカルナンバーとして挙げている二曲です。

このときの伴奏は、ハラミちゃんのピアノ、シシド・カフカのドラム、廣津留すみれのバイオリンでした。
ボーカルにはYU-KIも加わり、観客の前で共演しています。
その収録を終えた近藤は、ライブだったので、比較的強めに歌ったと説明しました。

ここで本人が挙げている理由は、ライブで歌うという条件です。
生演奏と共演者の声があるステージで、今回は強めに歌うことを選んだのです。

2022年公開のインタビューに掲載された近藤真彦の歌唱写真
2022年公開のインタビューに掲載された近藤真彦の歌唱写真。
画像出典:写真掲載元

同じ曲でも、歌を支える楽器が変われば、声の向き合う相手も変わります。
2025年7月の『Sound Inn S』では、『アンダルシアに憧れて』を船山基紀の編曲で披露しました。
番組の公式レポートが紹介しているのは、アコースティックギターを前に出した、フラメンコを思わせるアレンジです。
3月のピアノ、ドラム、バイオリンとの共演とは、伴奏の表情が違います。

この番組では、『愚か者』にも島田昌典による新しい編曲が用意されました。
本人は、生バンドや共演者を前に、改めて緊張しながら心を込めて歌ったと振り返っています。
長く歌ってきた代表曲にも、その日の演奏と向き合う新鮮さがあるのです。

録音とライブを聴き比べる際には、声だけでなく、フレーズの前後で鳴る楽器にも耳を向けると面白くなります。
ギターの響きを受けて次の言葉へ進むのか、共演者の声と重なっていくのか。
近藤が話した「今回は強めに」という選択を、演奏全体の中に置いて考えられます。

張り上げない声|優しく歌うときにも、言葉を残す

同じ取材で、近藤は、家で一緒に歌う視聴者には、声をあまり張り上げず、言葉を一つずつ大切にして優しく歌ってほしいと伝えました。
本人のステージでの歌い方と、視聴者への助言は分けて受け取れます。
自分はライブで強めに歌ったうえで、一緒に歌う人には、優しい声で言葉を届ける歌い方を勧めています。

近藤が一緒に挙げたのは、優しく歌うことと、言葉を大切にすることでした。
大きな声を出すことだけに意識を集めず、一つの言葉をどう歌うかへ目を向ける考え方です。
『アンダルシアに憧れて』については、本人が、優しい気持ちになれる歌だとも話しています。
強さのある曲でも、歌詞から受け取った気持ちまで荒々しくする必要はないのでしょう。

1989年発表の『アンダルシアに憧れて』の録音を聴く際にも、声の大きさと、言葉の輪郭を一緒に意識すると、強さがどう歌の印象につながるかを追えます。

初期の勢い|整え切らない声が、曲の人物を伝えた

制作に携わった鎌田俊哉は、若い近藤の録音を、最初から最後まで全力で歌っていたと回想しています。
エンジニアがフェーダーを下げるほどだったという話には、声を抑えて整えるより、まず曲へぶつかっていく当時の姿が表れています。
鎌田が『スニーカーぶる〜す』や『ギンギラギンにさりげなく』に感じた魅力も、ひたむきさや情熱でした。

これは、粗い声なら何でも魅力になるという意味ではありません。
若者の強がりや切迫した気持ちを歌う曲では、滑らかに運ぶことだけが言葉の説得力になるわけでもない。
制作現場で見ていた人が歌声の勢いと人物の印象を結びつけている点に、近藤の歌を考える手がかりがあります。

その関係が具体的に分かるのが、『ブルージーンズ メモリー』の台詞です。
2022年の文化放送出演時、近藤は、最初に用意されていたのは、好意を繰り返し告げる内容だったと明かしました。
ところが、録音でその言葉を口にできず、変更をお願いしたといいます。
完成した曲では、別れを受け入れられない気持ちをぶつける台詞になっています。

メロディーを外れて話す場面では、言葉を口にする人の性格がいっそう前に出ます。
甘く告げるより、強がりを含む言葉なら自分で言える。
本人が語ったこの変更を知ると、印象的な台詞の強さを、単なる大声以上のものとして受け取れます。
歌う声と話す声をつなぐところにも、近藤らしさがあるのです。

自分の声を土台に|うまく聞かせるために飾りすぎない

近藤が歌の表現で大切にしているのは、自分らしい歌い方です。
山下達郎から、近藤にしかできない歌い方があると助言された経験を話しています。
その言葉を受けて、うまく聞かせようと小細工をするより、曲をまっすぐ歌うことを選びました。

2025年7月放送のSound Inn Sに出演した近藤真彦(左)
2025年7月放送のSound Inn Sに出演した近藤真彦(左)。
画像出典:写真掲載元

2025年、歌のオーディション番組で審査員を務めた際には、その歌に声質が合っているかを見るとも話しました。
審査する側でも、声と曲の相性を大切にしています。
自分にしかできない歌い方を大切にすることと、曲に合う声へ目を向けること。
この二つを合わせると、声の強さを選ぶ際にも、単に大きく聞かせること以外の基準が見えてきます。

そのまっすぐさを支えているのは、一人で何でも背負うことだけではありません。
野村義男とのツアーについて近藤は、ギターを生かしたロック寄りの選曲にし、音楽面を野村に任せて、自分は目の前の曲を歌うことに集中できると話しています。
一方、2022年の単独ツアーでは22曲を一人で歌うため、十分な準備が必要だったとも語りました。
着替えの間に少し休むほかは、歌が続いていく公演です。
一曲のサビを力強く歌うことと、その声で次の曲、さらに翌日の公演まで届けることは、本人にとってつながった課題でした。

曲へ力を注ぐには、共演者への信頼も、一公演を歌い切る準備も要る。
舞台上の勢いを本人の気合いだけで説明せず、その歌を成立させる条件まで見ると、強く歌うという言葉の中身が具体的になります。

声を強く出すか、張り上げずに歌うか。
その選択を、曲を歌う場面と、届けたい言葉に結びつけて考える。
近藤が具体的に語った二曲の歌い方からは、声の強さを固定せずに使う考え方が見えてきます。

『愚か者』を歌い続ける中で本人が感じた変化は、近藤真彦の歌唱変遷でたどっています。

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