「I Believe in a Thing Called Love」の歌声には、初めて聴いた人を戸惑わせるところがあります。
The Darknessのジャスティン・ホーキンスが高い声でサビを歌うと、あまりの大げささに笑ってしまう。でも、つい続きを聴きたくなる。
その反応は、バンドの外の人だけのものではありませんでした。
ギタリストで弟のダン・ホーキンスも、初めてあのサビを聴いたときには、これでは笑われてしまうと思ったのです。
それでも歌声は残り、2003年の代表曲になりました。
ジャスティンの歌では、大げささが、曲の勢いや感情を伝える大事な部分になっています。
弟さえ、最初はあのサビを止めたかった
曲を作っていたのは、ダンとベースのフランキー・ポーレインが住んでいたロンドンのフラットでした。
練習場所を借りるお金がなく、ジャスティンが訪ねてきて、アコースティックギターで曲を考えていたといいます。
ジャスティンが出したリフを、ダンはすぐに気に入りました。
しかし、続けて歌ったサビには、ダンは戸惑いました。
あまりに耳に残りすぎて、冗談の曲として受け取られるのではないか。バンド内でも、それまでの曲からはみ出して感じられたのです。
ダンは、サビ以外の部分をもっと格好よく、ロックらしくしようとしました。
ジャスティンの歌をやめさせる代わりに、その歌が収まる曲を作っていったわけです。
そして実際にライブで演奏すると、観客は喜びました。
聴き慣れた今では、あの歌い方以外は考えにくいかもしれません。
けれど、最初から全員に受け入れられる声だったわけではなかった。
少しやりすぎに感じる歌と、それを支える演奏の組み合わせが、この曲の顔になったのです。
大げさな歌い方は、曲を考えるときにも役立っていた

ジャスティンの高音では、裏声、つまりファルセットが強い印象を残します。
ただ、その特徴的な歌い方は、完成した曲を派手に飾るためだけに生まれたものではありません。
本人は初期を振り返り、デモで歌のアイデアを考える際に、大げさな歌い方のほうがやりやすく、メンバーも気に入ってくれたと話しています。
大げさに歌いながら旋律を考える方法が、そのままバンドを印象づける歌い方になっていった。
そう考えると、あの歌い方を単なる悪ふざけとして片づけるのは早すぎます。
本人にとっては、旋律を思いつき、仲間に伝えるための実用的な方法でもあったのです。
もちろん、初めて聴く人が驚いたり笑ったりするのも、この声の特徴でしょう。
しかし、その反応を避けて無難な歌に直していたら、ダンが最初に戸惑ったサビも、あれほど強くは残らなかったはずです。
「Love Is Only a Feeling」では、愛の歌を思いきり歌う
同じ『Permission to Land』に入っている「Love Is Only a Feeling」では、ジャスティンは堂々としたロックのバラードを目指していました。
本人は、Aerosmithのアルバムにあるような、大きなバラードを作りたかったと説明しています。
声もギターも主役になれる、あの堂々とした種類の曲です。
歌っているのは、恋愛のすばらしさと、それに夢中になりすぎないよう自分へ言い聞かせる気持ち。
愛を遠回しな言い方で済ませず、正面から書きたいと考えていました。
ほかの曲より歌詞に時間をかけ、学校で知った詩の言葉も思い出しながら作ったといいます。
だから、この曲で大げさに歌うことは、愛の歌をからかうこととは違います。
壮大なバラードの形を本気で楽しみ、その中で、恋に浮き立つ気持ちも不安も歌う。
普段の軽口と、歌の中の思いが、いつも同じ軽さとは限らないのです。
ジャスティンは、笑わせる役目だけを引き受けているわけでもありません。
自分の仕事には、楽しませることだけでなく、悲しい気持ちにさせることも含まれると話しています。
「I Believe in a Thing Called Love」で声に驚いたあとにこの曲へ進むと、同じ大きな歌い方で、どんな感情を歌おうとしているかにも目が向きます。
失敗したくない舞台では、スタジオを借りて準備した
2022年、Foo Fightersのテイラー・ホーキンスを追悼する公演に参加したとき、ジャスティンはいつもとは違う緊張を感じていました。
テイラーはジャスティンにとって大切な音楽仲間であり、The Darknessのほかのメンバーにも親しい存在だったからです。
デイヴ・グロールから連絡を受けたジャスティンは、この公演で失敗したくないと思った。
そこでスタジオを借り、きちんと準備したと振り返っています。
本人は自分らしくない行動だったと冗談めかしますが、大切な相手のために歌う重みを感じていたことが伝わります。
この公演ではAC/DCのブライアン・ジョンソンとも共演し、後日、彼から電話をもらいました。
憧れの歌手と親しく話せることに驚いたというジャスティンは、ここでは派手なスターであると同時に、好きな音楽の前で緊張する一人の歌手でもあります。
愉快に振る舞う人が、すべての舞台に気楽な気持ちで上がっているわけではない。
大切な場面では準備をし、歌を届けたい相手を思う。その姿も、いつもの大胆な歌声と同じ人のものです。
笑えるほど歌い、それでも歌を軽く扱わない
ジャスティンの歌を面白くしているのは、声が高いことに加えて、聴く側が照れそうなほど大きく感情を出してしまうところです。
恋の歌なら堂々と歌い、耳に残りすぎるサビも引っ込めない。
それを仲間が曲として支えることで、少し変わった声の人、というだけでは終わらない歌になりました。
最初にダンが心配したように、笑われてしまう可能性はあった。
でも、笑ったあとにもう一度聴きたいと思えるなら、その大げささは曲の邪魔をしていません。
「I Believe in a Thing Called Love」は、歌いすぎに思える声を、歌いたくなるサビへ変えた曲なのです。
一方、本人は後年、毎回同じ高音を期待されることから離れ、低い声でも歌いたいと考えるようになります。
その選択は、ジャスティン・ホーキンスの歌声の変遷でたどっています。
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