ばんばひろふみの歌い方|丸く柔らかい声と、曲によって変わる歌唱の重さ

ばんばひろふみの取材写真(2018年、ラジオ関西) ばんばひろふみ
ばんばひろふみの取材写真(2018年、ラジオ関西)

柔らかい声といっても、どの曲でも同じように歌っているのでしょうか。
ばんばひろふみの録音には、声の丸さにひかれたという感想も、重い歌唱が印象に残ったという感想もあります。
曲ごとの声の質感と、録音の現場で歌い直していたという本人の話から、ばんばの歌い方を考えます。

ボーカル収録について語る映像(2026年、本人公開)

丸く柔らかい声と、ゆったりした歌

1983年の『今はまだDreamer』に収められた「うろこ雲の絵」には、ばんばの丸く柔らかい声が心に合うという聴き手の感想があります。
もともとは別の歌手の録音に親しんでいた人が、年月を経て、ばんばの歌唱へ引き込まれるようになったという話です。

その曲を誰の声で聴くかによって、同じ旋律の受け止め方も変わる。
この感想の中心は、声の高さではなく、丸さや柔らかさという質感でした。

この人が先に親しんでいたのは、笑福亭鶴瓶によるカバーでした。
ばんばの録音を聴き直すうち、同じ曲でも、自分が年齢を重ねた今の気持ちにはこちらの声が合うと感じるようになったそうです。
録音そのものが変わったのではなく、聴き手と声の関係が変わった例としても興味深い感想です。
強い一声で気持ちを動かすだけでなく、繰り返し聴くなかで親しみが増していく声の魅力が伝わります。

2005年の「のんびりと ゆっくりと」は、題名のとおり、ゆったりした曲です。
この録音を聴いた人からは、ばんばの甘い歌唱が加わることで、ほんわかした世界になるという感想が出ています。

この曲では、題名に通じる言葉を繰り返す歌い出しも、耳に残る要素になっています。
先の聴き手も、最初は物足りなく思ったのに、何度か聴くうちに頭から離れなくなったと書いていました。
ゆったりした曲の運びに甘い声が重なることで、急いで結論へ向かわないような親しさが生まれる。
そのように受け取られた歌唱として、「うろこ雲の絵」と並べてみると面白くなります。

どちらの感想も柔らかな印象ですが、そのまま「いつも穏やかに歌う人」と考えると、次の曲の重さは捉えにくくなります。

「それも人生」には、重さのある歌唱という見方も

2012年の『メイド イン 京都』に収録された、茶木みやこのカバー「それも人生」には、別の反応があります。
ブルース色のある重いアレンジに対し、ばんばも重さを感じさせる歌唱をしている、という聴き方です。

柔らかな声の持ち味があっても、伴奏や歌う内容が変われば、重さを感じさせる歌にもなる。
その違いは、本人が録音で何を確かめていたかという話につながります。

柔らかな声の持ち主が、ジョン・レノンにひかれた理由

穏やかな歌の印象からは意外かもしれませんが、ばんばが音楽へ踏み出すきっかけになったのはビートルズでした。
2018年の取材では、とりわけジョン・レノンの声と力強さにひかれたと話しています。
中学生のとき、レコード店で初めてその音楽に触れ、それまで習っていたバイオリンからギターへ持ち替えたそうです。

この憧れは、ばんばがジョンと同じ声で歌うという意味ではありません。
柔らかい声を好む聴き手の評価とは別に、本人には、声からロックの力を受け取った経験があるのです。
「それも人生」の重さを感じさせる歌を、優しい歌の例外として切り離すよりも、ばんばの音楽への関心の広さのなかに置いてみたくなります。

歌う機会が減った2020年にも、ビートルズは身近な存在でした。
森川美穂とのラジオでの対談では、しばらくステージに立てず、ちゃんと歌えるか心配だと話しています。
そのため、川原を歩く際に周りに人がいないことを確かめ、ときどき大きな声でビートルズを歌っていたそうです。
ステージの外でも、好きな歌を実際に声にしていたことがわかる話です。

ばんばひろふみの公式プロフィール掲載写真
ばんばひろふみの公式プロフィール掲載写真。
画像出典:写真掲載元

録音では、身近な人の指摘を受けて歌い直すことも

2012年の歌入れでは、スタジオを訪れた妻が、どこがよくないか、もう少しどう歌うとよいかを遠慮なく伝えていたそうです。
ある箇所のニュアンスが足りないと言われると、ばんばは歌い直し、もう一度その耳で確かめてもらいました。
スタッフが本人へ言いにくい指摘を妻がしてくれる、というやりとりもあったといいます。

長く歌っている本人にも、歌えているという感覚と、聴き手に表情が届いていることは同じではない。
身近な耳からの指摘を頼りに、曲に必要な表情へ近づけていた録音です。

カバー曲を、自分の歌として収める難しさ

舞台で歌ってきた「胸が痛い」は歌い方を思い描けた一方、初めて取り組む「北山杉」「あじさいの街」は、自分の歌にするまで苦労したと話しています。
声の丸さや甘さだけでなく、その曲の言葉を自分のものにできるかが、本人にとっての課題でした。

憂歌団の「胸が痛い」は、聴いて気に入り、以前からステージで取り上げていた曲です。
録音では、ただ元の歌を再現する段階から、自分の作品として残す段階へ進むことを考えていました。
歌い慣れていることと、録音に残したい表現ができあがっていることは、必ずしも同じではないのでしょう。
このカバーには、ばんばが以前からブルースを好み、歌っていたという背景もあります。

柔らかい声で何でも同じように包むのではなく、歌い慣れた曲と初めて歌う曲、それぞれで表現を探す。
妻の指摘を受けて歌い直したという話も合わせると、持ち味に任せきりにしない録音の姿が見えてきます。
「それも人生」と「胸が痛い」を続けて聴くなら、同じアルバムに収めたブルースに通じる曲を、どんな表情で歌っているかが聴きどころになりそうです。

弾き語りとバンドでは、声を囲む音も変わる

2018年の取材では、普段はギターでの弾き語りや、ギターとキーボードを加えたトリオで歌うことが多いと紹介されています。
一方、その年の神戸チキンジョージ公演では、本人を含む8人のバンドでステージに立ちました。
その手応えが、同じ編成で次の公演へ向かう自信につながったと話しています。

神戸公演を聴いた人の記録では、「最終フライト05便」のハードな演奏や、久々に生で聴いた「Tenderness」が、とりわけ印象に残っていました。
ここで挙げられている迫力は、歌声だけに由来するものではありません。
弾き語りでは言葉と旋律へ目を向けやすく、バンドでは周囲の音も含めて歌の勢いを受け取る。
そうした聴く状況の違いも、ばんばの歌が柔らかくも力強くも感じられる理由を考える手がかりになります。

長年の歌を捉え直した再録と、歌唱を控えるという選択については、ばんばひろふみの歌唱変遷でたどっています。

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