羊宮妃那の歌唱変遷|「誰か」への叫びが、「君」へ届ける歌になるまで

羊宮妃那(2025年の取材記事より) シンガー
羊宮妃那(2025年の取材記事より)

MyGO!!!!!で高松燈を演じる羊宮妃那は、初期の歌を、まだ顔の見えない誰かへの叫びだったと振り返っています。
その歌の中に、やがて感謝を伝えたい相手が現れ、さらに、自分から会いに行きたいという気持ちが生まれました。

歌を届ける相手との関係も、変わってきました。
役としての燈と、実際にステージに立つ羊宮が、誰へ、どんな思いで歌を届けるか。
初期の「迷星叫」から、2025年の「往欄印」までをたどります。

「迷星叫」―初ライブ「僕たちはここで叫ぶ」(2022年7月3日)

初期の練習では、楽器の中で声が埋もれていた

MyGO!!!!!は、アニメの登場人物を声優が演じ、現実でもバンドとして演奏するプロジェクトです。
2022年の始動当初は、メンバーの顔や名前を明かさず活動していました。
羊宮も、表に名前が出る前から、燈としての歌に向き合っていました。

個別のレッスンで良いと言われた表現でも、バンド全体の練習へ持っていくと、生楽器の中に声が埋もれてしまう。
本人は、そんな難しさが続いたと話しています。
繊細な感情を表したいと思っても、合奏の中では思ったように届かない時期でした。

周りも頑張っているのに、自分が前へ進めない。
うまくいった部分も失敗した部分も、自分の中だけで考え込んでしまったと振り返っています。
合奏の練習では、楽器同士の合わせ方への感想が多くなります。
当時の羊宮には、それが、自分の歌が下手すぎて何も言ってもらえないのではないか、と感じられたそうです。
自分から悩みを伝えないまま考え込んでいたことも、後に話しています。
人前で声を出すことと、楽器の中で歌として届けることは、同じではありませんでした。

この出発を知ると、初期の力のある歌も、最初から何の迷いもなく出てきたものとは見えなくなります。
役の気持ちを守りながら、歌が届く形を探す作業が、その前にありました。

2023年4月、顔とキャスト名を明かした4th LIVEでも、羊宮は考えることで頭がいっぱいだったといいます。
公演を終えてから、支えてきたスタッフに良かったと言われ、涙があふれました。
ひとりで抱えていた歌を、多くの人が支えていたと実感した時間でもありました。
顔を明かした瞬間に、歌の迷いがすべて消えたという話ではありません。
役に向き合う気持ちは、その前から続いていました。

2023年「音一会」、歌を受け取る「君」が見えた

2023年にシングルとして発売された「音一会」は、羊宮にとって、歌を届ける相手の変化を感じる曲です。
それまでの「迷星叫」などは、同じ思いを抱く、まだ誰か分からない相手へ届けばよいという歌だったと話しています。
自分の心の中にある叫びを、外へ出すような段階でした。

「音一会」には、いてくれたからこそ見える景色が変わった、と感謝を伝えたい相手がいます。
羊宮は、この曲で初めて、歌の届く先の「君」が現れたと受け止めていました。
歌う意味が、思いを吐き出すことから、受け取ってくれた人へ返すことにも広がっています。

「音一会」―公式MV(2023年発売シングル)

同じ強さの声でも、まだ会ったことのない人へ投げる叫びと、目の前の相手へ返す思いでは、歌う時に見ているものが違います。
羊宮が語る燈の変化は、上手くなったかどうかという評価だけでは拾いきれない、相手との距離の変化でした。

2024年、曲とステージに合わせて叫びを選ぶ

羊宮妃那(左)と立石凛(2024年の取材記事より)
羊宮妃那(左)と立石凛(2024年の取材記事より)。
画像出典:写真掲載元

羊宮が転機として挙げたのは、2024年のZEPP TOUR「彷徨する渇望」です。
何公演も続く中で、役として見せたい成長、公演のテーマ、客席が楽しめる表現が、いつも同じ方向にまとまるとは限りませんでした。
どれを大切にするか、選ぶ場面が増えたと話しています。

そこで、毎回ただ上達していく姿を見せるのでなく、公演ごとに燈の違う成長を表そうとしました。
羊宮自身の進歩をそのまま見せるだけでは、本人のアーティストライブになってしまう。
燈ならどう変わるかを考えることが、歌う場所が広がってからも残る課題だったのです。

2024年のアルバム『跡暖空』では、どこまで感情を爆発させ、どこで抑えるかが、より大切になっていました。
録音を重ねて表現の選択肢が増えるほど、その加減も細かく考えるようになったといいます。

本人によると、初期には叫びが徐々に強くなっていきました。
しかし、その頃には、燈は叫ばなくても届ける力を持っていると感じていました。
そこで、サビをどれほど強めるかなどを、制作側と相談しながら歌っています。

本人が特に好きだと話した「歩拾道」には、受け取ってきた優しさを、今度は誰かへ渡したいという気持ちを読み取っていました。
その温かさの手前には、周りが進む速さについていけず、気持ちが狭まってしまうような感覚もあります。
それでも、自分の歩み方で見てきたからこそ、受け取れたものがある。
羊宮は、誰かの言葉を優しさだったと知り直すことと、今度は自分が手渡したいと思うことのつながりを、大切に受け止めていました。
叫びを必要とする場面だけでなく、温かいものを受け取った後の表情も、歌の中へ入ってきたのです。

「歩拾道」―劇場版の公式スペシャルMV(2024年)

ただし、年を追って燈が成長したから、すべての曲を強く、あるいは柔らかく歌うようになったという話でもありません。
羊宮は、曲ごとの世界に燈が向き合い、歌を合わせていく感覚も説明しています。
一つの歌い方を更新して全曲へ当てはめるのではなく、選べる表現が増えていました。

2025年「往欄印」、返ってきた声を受けて会いに行く

青い背景の前で顔を傾けた羊宮妃那。2025年の往欄印インタビュー掲載写真。
羊宮妃那(2025年の「往欄印」インタビュー掲載写真)。
画像出典:アニメイトタイムズ

2025年の「往欄印」は、その相手との関係を、もう一歩先へ進める曲でした。
羊宮は、初ライブ「僕たちはここで叫ぶ」から、同年のツアー「心のはしを辿って」へ続く道を、この曲の中に感じています。

この歌で受け取ったのは、自信を持って相手に向かう気持ちだけではありません。
人と分かち合いたいと思っても、何をしてあげられるか、何を言えばよいかは簡単に分からない。
届かないかもしれないのに、それでも届けたいと思ってしまうところに、燈の大事な気持ちを感じていました。
相手が見えた後にも、迷いが残っている歌なのです。

最初は、一方へ向いていると思っていた気持ちに、ライブの客席から反応が返ってくる。
それが温かく、心強いものになり、怖さがあっても、会いに行きたい、届けたいと思える相手ができる。
羊宮は、その気持ちの力を、観客と一緒に作ってきたものとして語りました。

「往欄印」―公式MV(2025年)

取材の時点でも、ツアーの大阪公演を終えた羊宮は、千秋楽へ向けて自分と向き合っている最中でした。
練習して準備を整えながら、その場の客席の熱やメンバーの音からしか生まれないものも大切にしたい。
練習した表現に、その日の客席やメンバーから受け取ったものが重なっていく。
羊宮は、そんなライブの歌を大切にしようとしていました。

初期の声が楽器に埋もれてしまった頃から、「音一会」で受け取る相手を知り、叫ばずに届ける加減も選ぶようになる。
その先の「往欄印」では、自分から相手へ向かう思いを歌っています。
羊宮の変遷は、迷いや叫びに、受け取った声への応答が重なっていく歩みです。

母音のつなぎ方や、叫びを使わずに歌う具体的な選択は、羊宮妃那の歌い方で取り上げています。

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