葛葉の歌の歩みには、歌える曲が増えたこととともに、一曲の表情をどう作るかを覚えていった変化があります。
デビュー期には、人前で歌うことや、初めてのスタジオ録音に必死だったと話していました。
そこから、作り手の助言を受け取り、ラップやバラードで異なる表現へ挑む経験を重ねています。
「Black Crack」公式MV。
にじさんじのバーチャルライバーとして配信を続け、叶とのユニットChroNoiRでも活動する葛葉。
歌に向き合う姿勢の変化を、ソロとユニットの制作の話からたどります。
「KING」で広がった、歌を待つ人とのつながり
葛葉は2022年のReal Soundの取材で、最初はファンに喜んでもらいたいという気持ちから、「歌ってみた」に挑んだと説明しています。
ゲーム配信から活動を始め、ここまで本格的に音楽へ進むことは想定していなかったといいます。
本人にとってファンは、同じクラスの友達のように、面白いものを見つけたら共有する相手でした。
だから歌を出す時にも、果たして求められているのかという戸惑いがあり、喜んでもらえたことに驚いたと話しています。
舞台での経験も、音楽との距離を変えました。
2022年のBillboard JAPANで振り返ったのは、2019年に初めてステージで歌い、客席の歓声を受け取った時のことです。
普段の配信で流れる文字のコメントとは違う反応が、歌と自分を組み合わせれば何かできるかもしれない、という実感につながっていました。
その歌を、より多くの人へ届けた一曲が、Kanariaの「KING」のカバーでした。
本人も、この曲をきっかけに自分を知る人が大きく増えたと振り返っています。
葛葉による「KING」の公式カバー動画。
最初から自分の歌で何を成し遂げるかが決まっていたというより、歌を出すと喜んでくれる人がいて、その反応を受けて次の挑戦へ向かう。
配信で親しまれていた葛葉に、歌を待つ人が増えていった時期でした。
『Sweet Bite』で、歌詞から歌い方を考えるようになった
2022年3月、葛葉はミニアルバム『Sweet Bite』でメジャーデビューします。
ここでは、用意された歌を覚えるだけでなく、歌詞の世界に合う表現を探す作業が始まりました。
Skream!の取材によると、届いたデモを聴いて練習し、歌詞の意味を考え、同じジャンルの曲から歌い方のヒントも得ながら、録音へ備えていました。
それでも最初のスタジオでは、自分が必死に歌う姿を見られるのが恥ずかしく、カーテンを閉める必要があったといいます。
その最初の録音が、「Bad Bitter」でした。
一曲ずつ何日もかけて録る間に、ディレクターとの距離も縮まり、教わりながらスタジオに慣れていきます。
本人が成長として挙げたのは、まず、その恥ずかしさを乗り越えられたことでした。
「Bad Bitter」では、余裕があるように見せる歌を、本人は必死に歌っていたと説明しています。
その違いが面白いところです。
歌い手自身に余裕があるかどうかと、聴き手へどんな人物像を届けるかは、同じではありません。
録音を通じて、歌の中の自分を作る経験も重ねていました。
「Bad Bitter」公式MV。
本人が挙げた変化は、音楽を漠然と聴く状態から、どう歌うとどう伝わるかを考えるようになったことでした。
歌詞を読み、作り手と話し、自分の声で表す。
『Sweet Bite』は、その作業を学ぶ場にもなっています。
「Black Crack」では、作品から受け取った気持ちを込める
2023年のシングル「Black Crack」は、アニメ『グッド・ナイト・ワールド』のオープニングテーマです。
葛葉はレーベルの公式インタビューで、好きな激しいサウンドの曲でありながら、歌うこと自体は難しかったと話しました。
そのうえで考えたのが、原作を読んで感じた気持ちを、歌へどう込めるかということでした。
デビュー作で歌詞を読み取ることを学んだ歌い手が、今度は一つの作品を受け取り、その感情を主題歌へ渡していく。
ここでは、曲の勢いと、何を思って歌うかが結びついています。
同じシングルの「Dummy Break」でも、言葉の多さに苦労しながら、次第に盛り上がる曲を歌い切ったと振り返っています。
激しい曲が好きという自分の軸を持ちつつ、曲ごとに求められる難しさと向き合っていました。
この時期、本人は、シングルの三曲とも自分らしさがあることを、制作陣が自分を理解してくれた結果として受け止めています。
そのうえで、次は切ない曲などにも挑戦したいと話していました。
得意な激しさを確かめた経験が、別の表情を試したいという意欲と並んでいたのです。
ChroNoiRでは、歌の表情が次の曲を生んだ
2024年のChroNoiRのアルバム『Wonder Wander World』では、ラップとバラードの両方で挑戦が広がります。
葛葉はQJWebの取材で、nqrse提供の「VVS」を、それまでで最も難しい曲の一つとして挙げました。
叶も言葉を音へ割り振る難しさに触れており、ラップの経験があっても、簡単に乗りこなせる曲ではなかったことが分かります。
ChroNoiR「VVS」公式MV。

画像出典:画像掲載元
もう一つの転機は、ヒグチアイ提供の「Twilight」でした。
ANYCOLORの制作チーム取材でA&Rが明かしたのは、別の収録曲「Wanderers」の録音で、たなかの提案を二人がすぐに吸収し、歌へ表情を乗せていたという話です。
そこで見えた力が、本格的なバラードへ挑む「Twilight」の制作につながりました。
ただ、周囲が可能性を感じたからといって、本人が最初から歌えると確信していたわけではありません。
マネージャーによると、「Twilight」のデモを聴いた葛葉も、これを歌えるだろうかと不安を見せていました。
それでも、信頼する作り手が用意してくれた曲を全力で歌おうと取り組んだといいます。
ChroNoiR「Twilight」公式MV。
さらに、録音での二人の表現を受け、当初は途中からリズムを入れる予定だった曲が、最後までほとんどリズムを置かない形へ変わったといいます。
用意された曲へ歌を合わせるだけでなく、歌の表現が、曲の仕上げ方にも影響していました。
葛葉のマネージャーは、提案を受けて歌へ反映することを、本人の強みとして説明しています。
作り手から教わる時間は、歌い手の可能性を見つけ、一曲の姿を変える時間にもなっていました。
「ギミモ」では、歌と舞台の見せ方を一緒に磨く
2025年の「ギミモ」は、チャンネル登録者200万人の節目に向け、nqrseへ依頼したオリジナル曲です。
ANYCOLOR MAGAZINEの本人取材では、とにかく全力で歌おうと思ったことと、めろちんにダンスを教わって取り組んだことを話しています。
「ギミモ」公式MV。
振り付けの動画を繰り返し見て覚え、歌と一緒に舞台で見せるための準備も重ねる。
2025年6月11日の200万人記念ライブでは、椅子を使ったダンスにも取り組んでいます。
マネージャーによると、当初は振り付けを依頼していためろちんに、最終的にはステージでの見せ方まで相談しました。
葛葉も、かっこよく見せる方法を教えてもらえることを、安心につなげていました。
歌唱の表現やダンスに余裕がないと話していたデビュー期から、届ける形を増やしていく歩みが見えます。
葛葉にとって歌は、録音した一曲としても、ファンの前で見せる舞台としても育っていました。
「ギミモ」―2025年6月11日の200万人記念ライブ(公式歌唱編の26分36秒から)
『Adamantite』で届いた、歌い回しとラップへの評価
2026年7月のミニアルバム『Adamantite』には、作り手側から見た、現在の葛葉の歌を知る言葉があります。

画像出典:画像掲載元
「わかんないです!」を提供したEveは、葛葉がデモの仮歌を繰り返し聴き、細かな歌い回しまで受け取ってくれたとコメントしています。
また、「Close 2 U」を手掛けた梅田サイファーのKennyDoesは、全編ラップを作りたいという依頼に応え、難しい曲を用意したうえで、期待以上の歌が返ってきたと評価しました。
公式公開音源。
歌詞をどう歌えばよいか悩み、録音で教わっていた時期から、細部を受け取り、難しい曲へ自分の歌を返す段階へ。
葛葉の変遷は、声の派手さだけでなく、作り手とのやり取りから何を吸収し、どんな表情へ変えるかに表れています。
歌の強さを選ぶことや、ラップの言葉を崩すことなど、一曲の中での声の扱いは、葛葉の歌い方で取り上げています。







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