エミリー・アームストロングの歌では、強烈なスクリームが印象に残ります。
では、叫びを長く続けられることが、そのまま歌の迫力になるのでしょうか。
「Heavy Is The Crown」の録音についての説明は、それだけでは決まらないことを教えてくれます。
マイク・シノダによると、この曲では長さの異なる叫びを録音し、曲に合うテイクを選んだといいます。
エミリーの歌を考えるうえでは、叫ぶ能力に加えて、どんな声をどこで使うかという選択にも注目したくなります。
Dead Sara時代の柔らかな歌と、リンキン・パークの既存曲を歌う準備にも、その視点が通じています。
「Heavy Is The Crown」公式MV(2024年・League of Legends Worldsアンセム)。
「Heavy Is The Crown」――長く叫べることと、採用する長さは別
「Heavy Is The Crown」の長いスクリームについて、シノダは2024年のAltWireの取材で制作意図を説明しています。
チェスター・ベニントンが「Given Up」で披露した長い叫びを意識した構成で、エミリーは少し長いテイクも短いテイクも録音したそうです。
採用したものは少し短く、そのほうが曲に合い、チェスターへの敬意にもつながると感じたといいます。
これは、叫びの長さを曲の構成として選んだ具体例です。
伸ばせるだけ伸ばすのか、次の展開が始まる位置へ収めるのかで、一つの声が担う役割は変わります。
エミリーのスクリームも、持続力だけを切り取るより、その声を置く場所と終わらせる位置を含めて捉えると、制作上の判断が見えてきます。
頭の中で求めた声を、練習で形にする
エミリー自身は、特徴的な歌声が自然に完成していたとは説明していません。
2012年のHARD FORCEの取材では、もともとギタリストを目指していたものの、自分が想像する音を出せる歌い手が見つからず、歌うようになったと話しています。
良い歌手を聴き、何年も歌を練習して、頭の中にあった音を形にしていったという回顧です。
同じ取材で、ジャニス・ジョプリンらとの比較についても、誰かに似せようとするより、自分のやりたいことをしていると語りました。
荒い声という共通点だけで、同じ歌い方だと決めることはできません。
エミリーがどんな声を欲しがり、それを曲の中でどう使うかまで見ることで、叫びの印象の奥にある本人の選択を追えます。
「Weatherman」は、楽器の動きへ声で応じる
Dead Saraの「Weatherman」は、声と楽器の関係がよく分かる制作例です。
Loudwireの取材では、Siouxsie Medleyがリフを弾き、エミリーがその上で歌い始め、全員の演奏から骨組みが生まれたと説明されています。
さらにベースが加わったことで、ヴァースの形も変わったといいます。
この場合、歌は完成した伴奏へ一方的に乗るものではありません。
楽器が作る反復に声が応じ、別の楽器が入ることで、歌の周りの流れも変わっていく。
「Weatherman」を聴く時は、声の強さとともに、ギターのリフが繰り返されるところと、歌の言葉が進むところを比べると、バンドの中での歌の役割を考えやすくなります。

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柔らかな声も、Dead Sara時代から表現の一部だった
激しい声の印象が強いエミリーですが、柔らかな旋律を届ける歌も、以前から紹介されています。
2015年のCraveOnstageによる「Something Good」のアコースティック演奏を、執筆者のJohnny Firecloudは、繊細で穏やかな声の魅力が表れたものと評しました。
「Sorry for It All」についても、Medleyは、穏やかな曲が後半へ向けて勢いを増す点を挙げています。
一曲の中に強さの変化があることは、Dead Saraの初期から話されていた特徴です。
叫びでは声の荒さや勢いが前面に出ますが、柔らかな歌では、旋律と言葉をどう運ぶかが伝わり方を左右します。
同じ歌手の中に両方の選択肢があると捉えると、激しい声を使わない部分も、次の叫びまでの待ち時間ではなく、一つの表現として受け取れます。
この「Something Good」の演奏は、CraveOnstageの公式掲載ページで紹介されています。
2018年には、別の曲「Anybody」でも、通常のMVに加えて編成を絞った「Stripped」版が公開されました。
声を取り巻く音の量を変え、同じ曲を異なる形で届ける選択が残されています。
Dead Sara「Anybody」公式Stripped版(2018年)。
「Crawling」――自分の声を生かすために、曲のキーを合わせる
リンキン・パークの既存曲を歌う際には、声を出す側と、伴奏を作る側が一緒に条件を整えています。
コリン・ブリテンは、2026年公開の映画『Unshatter』の中で、エミリーが自然に歌えるよう、既存曲のキーを何度も変えて試したと説明しました。
元の曲のエネルギーや形を保つことも、その調整の目的でした。
キーを変えると、旋律全体の高さが移ります。
同じメロディーでも、どの高さで歌うかによって、歌手が使いやすい声の領域は変わります。
エミリーの場合も、歌手だけが声を合わせるのではなく、曲の高さも一緒に検討していたことになります。
ジョー・ハーンが準備の初めに挙げたのは「Crawling」です。
本人の歌い方として成立することを重視したという説明からは、声色をなぞることより、曲の感情を自分の声で引き受けることに重点があったと読み取れます。
2024年9月5日の再始動ライブで披露された「Crawling」は、そうした準備を経て歌われた曲の一つです。
2024年9月5日の公式配信ライブ(10分17秒の「Crawling」から)。
ライブでは、その場の空気で言葉の表情も動く
録音で声を選ぶことに加え、ライブで曲をどう動かすかも、本人が語っています。
2018年のIMPRINTの取材では、公演ごとに雰囲気が違い、感情や言葉の言い回しが少し変わることもあると説明しました。
その時にライブで歌う好きな曲として挙げたのは、「Radio One Two」でした。
録音された形を知った上で実演に接するなら、同じ言葉のどこを強め、どこを伸ばし、どう次へ進むかが比較の手掛かりになります。
毎回すべてを変えるという意味ではなく、その場で受け取ったものを歌へ反映できる余地がある、という話です。
「Heavy Is The Crown」で曲に合うテイクを選んだことと、ライブで言葉の表情が動くことを合わせると、迫力を支えているのは、声の性質と、その場面での判断の両方だと分かります。
長い声をどこで終えるか、旋律を柔らかく届ける場面を作るか、自分の声に合う高さで歌えるようにするか。
エミリーの歌い方には、こうした具体的な選択が重なっています。
スクリームの迫力と、それ以外の声を届ける工夫を一緒に見ることで、一曲の中で声が果たす役割を考えやすくなります。
時期ごとの背景は、エミリー・アームストロングの歌声の変遷でたどっています。

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