苑(摩天楼オペラ)の歌い方|一オクターブ上の裏声と、力を抜いて歌う選択

苑(2024年7月12日、名古屋ElectricLadyLand公演/撮影:Mickey Tanaka) シンガー
苑(2024年7月12日、名古屋ElectricLadyLand公演/撮影:Mickey Tanaka)

摩天楼オペラの「Round & Round」には、女性の声なのかと尋ねられたハーモニーがある。
その部分を歌っているのは苑本人で、一オクターブ上のファルセットを使っているという。

苑の歌い方には、こうした裏声の選択に加えて、上下のハーモニーを重ねる工夫や、力を抜いて歌う表現がある。
本人が明かした録音の話を手がかりに、声の役割を曲ごとに見ていこう。

「Round & Round」(2015年、シングル『ether』収録)の権利者提供音源。

「Round & Round」、一オクターブ上のファルセットで声色を変える

「Round & Round」は、2015年のシングル『ether』に収録された曲だ。
Vifの取材で、高いハーモニーは女性の声なのかと質問された際、キーボードの彩雨は、苑の声だと答えている。
続けて苑は、その部分を一オクターブ上で、ファルセットで歌っていると説明した。

ファルセットは、裏声と呼ばれる発声の一つだ。
ここでは本人が発声の種類と音の高さの両方を明かしているため、高いハーモニーの作り方を具体的に捉えられる。

苑は、いろいろな声色に聴こえることを喜んでいた。
この部分の高い声は、主役の歌に別の声色を添える役割を持っていると読める。
どこまで高い音が出るかという関心に、録音の中でその声を何に使うかという視点を加えられる一曲だ。

「喝采と激情のグロリア」、本人の上下のハーモニーと合唱が重なる

声を重ねる使い方では、2013年の「喝采と激情のグロリア」も興味深い。
同名アルバムの取材で、苑は大サビの一部を聴きどころに挙げていた。

「喝采と激情のグロリア」(2013年)の公式ミュージックビデオ。

Vifでの本人の説明によると、そこでは自分で歌った上のハーモニーと下のハーモニーを重ね、さらに合唱の歌い手たちの声も加えている。
合唱が入るほかの部分と比べても、この場面は声の重なりが多いという。

上と下のハーモニーは、主旋律とは異なる高さの旋律を歌うことだ。
苑自身の声で上下の線を作り、その上に別の歌い手たちの合唱が加わる。
本人の歌声と合唱、それぞれの役割を知ると、録音の厚みを作る工夫が分かる。

「Round & Round」では裏声による声色の違いが話題になり、この曲では本人の声を上下に重ねる方法が説明された。
一つの主旋律を歌うことに加えて、別の高さを受け持つ歌も、摩天楼オペラの響きを形作っているのである。

「Silence」は、高い音が続く中で裏声を添える

2020年のEP『Chronos』の全曲解説でも、苑は声を重ねる場所を具体的に説明している。
「Silence」は歌のキーが意外に高く、その高さが続くため、歌入れに最も力を注いだ曲だという。
サビの上のハーモニーで一瞬ファルセットになるところがあり、そのJ-POPらしい感触を気に入っていると話していた。

一曲の難しさは、最高音を一度出せるかどうかだけでは決まらない。
高いところで歌い続ける時間も関わってくる。
その中で一瞬の裏声をどう添えるか、という聴き方をすると、「Silence」の歌唱を長さと音色の両方から捉えられる。

同じEPの「Kiss」については、サビに約7声を重ねたと明かしている。
一方で、本人は歌いやすい曲だと考え、カラオケでも親しまれることを願っていた。
主旋律の歌いやすさと、録音に含まれる声の数は別の要素である。
聴き手が口ずさみやすい旋律の周りにも、多くの声を置く作り方があるのだ。

表題曲「Chronos」では、日本語のシャウトと、冒頭のアカペラにハーモニーを入れることを、自分の挑戦として挙げている。
強い声で言葉を放つことと、伴奏のない場所で声を重ねること。
同じ作品の中でも、声を使う課題が曲ごとに異なっている。

苑(摩天楼オペラ公式プロフィール掲載写真)
苑(摩天楼オペラ公式プロフィール掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

「actor」、力を抜いて歌い、最後に力を入れる

2019年の『Human Dignity』に収録された「actor」では、歌うときの力の配分に、本人の意図が表れている。

「actor」(2019年、『Human Dignity』収録)の権利者提供音源。

BARKSの取材で苑は、この曲を少し枯れた感じで歌いたかったと説明している。
元気いっぱいでも、艶っぽくても曲に合わないと考え、肩の力を抜く感覚で歌ったという。
そして、最後の最後に力を入れるイメージを持っていた。

歌の最初から強い表情を出し続けるのではなく、抑えた表情から、最後に力を込めるところへ向かう。
この順序を知ると、声の強さを曲全体でどう配分するかに注目できる。

「Cee」では、自分の声を曲の質感になじませる

『Human Dignity』の「Cee」には、さらに違う声の置き方がある。
DI:GA ONLINEの取材によると、曲の冒頭に気だるい雰囲気を出すため、苑が声を録ったという。
彩雨は、その声を重ね、ボコーダーによる加工も加えて仕上げたと説明している。

使用した素材は、苑の歌った10本とボコーダーを合わせた11本だった。
苑は録音のとき、自分の個性を消すつもりで取り組んでいたという。
実際に聴き手から自分の声だと分かられず、少し寂しかったというやり取りもある。

この例では、歌い手の声色と、加工や重ね方が一緒に曲の空気を作っている。
目立つ主旋律を担当するだけでなく、音の背景として溶け込む声も歌えることが重要なのだ。
「喝采と激情のグロリア」の大きな合唱とはまた違う、声を材料にした響きの作り方である。

歌いたい表現から曲を作り、旋律に言葉を乗せる

2013年の「Freesia」は、鍵盤によるシタールの音色と、苑の異国情緒を感じさせる歌が話題になった曲だ。
苑は、この歌い方をやりたくて曲を作ったと説明している。
以前はできなかった唱法を使えるようになったことが、曲を作るきっかけになったという。
この場合は、用意された曲に歌い方を合わせるだけでなく、試したい歌唱表現から曲が生まれている。

また、XANVALAとの対談では、自分で曲を作るときも、最初は意味のある歌詞を付けずに旋律を歌い、後から言葉を乗せると話している。
対談相手の巽は、摩天楼オペラの曲では言葉のはまり方が気持ちいいと評していた。
曲の音の流れを先に作り、そこへ言葉を置く手順が、歌詞の聴こえ方を考える入口になる。

声色を変えること、主旋律を支える声を重ねること、言葉を旋律にはめること。
苑が明かす制作の話を並べると、歌い方を考える作業が、歌入れ以前の曲作りから始まっていることが分かる。

裏声で別の声色を添え、上下のハーモニーで厚みを作り、力を抜いた歌から最後の力強さへつなげる。
苑が語った曲ごとの例には、一つ一つの声に曲の中での役割を持たせる工夫がある。
その声をどこで、何のために使うかまで含めると、彼の歌い方を具体的に捉えやすくなる。

ライブのシャウトや、ソロでの小さな声の経験が歌にどう加わったかは、苑の歌唱変遷でたどっている。

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