サージ・タンキアンの歌い方には、強烈な叫びの印象があります。
ただ、その特徴を声量や荒さだけで捉えると、なぜ曲によってこれほど表情が変わるのかが分かりません。
声を押し出す場面と、明瞭に響かせる場面。
大きく歌う場面と、近く語りかけるように歌う場面。
その選択を、本人が語った録音や公演の具体例から見ていきます。
叫ぶ声だけで、一曲を埋め尽くさない
「Chop Suey!」では、激しい演奏が落ち着くことで、歌の旋律が際立つところに注目できます。
険しい声が続くかと思うと、旋律を歌う場面が現れる。
聴き手が受け取る強さは、最大の声量だけでは決まりません。
本人も、騒がしい音の中から出る叫びより、静けさから出る叫びのほうが強いという考えを話しています。
これは、声をどれだけ荒らすかという発声の話と、声をどんな音の中に置くかという構成の話が、切り離せないことを示しています。
サージの歌では、前後の静けさも含めて声の力を受け取りたいところです。
自分の声を、曲の中で探してきた
サージは、歌い始めたころに、影響を受けた人の声から抜け出して自分の声を探していたと語っています。
独特の歌唱を、生まれつき完成していた特技と考えると、この試行錯誤が見えなくなります。
サージはSoil時代を振り返り、叫ぶことと歌おうとすることが入り交じっていたと話しました。
最初に一つのきれいな発声を決め、それを曲へ当てはめたのではなく、激しく複雑な音楽の中で表現を見つけてきた人です。
叫びと旋律の両方が歌に残っていることには、そうした出発点があります。
一方で、本人は、長年の経験を通して叫び方やうなり方を工夫してきたとも話しています。
昔の録音と同じ荒さが出るかどうかだけを尺度にすると、声の扱い方を変えてきた経験まで見落としてしまいます。
短く刻む言葉と、大きく歌う旋律
2007年の「Elect The Dead」でも、サージの声には、8分音符を刻むような語り口が残っています。
一方で、「Empty Walls」や「Saving Us」のコーラスには、感情が大きく広がる聴きどころがあります。
短い単位で言葉を運ぶ声と、曲の感情を受け止める旋律が、同じ作品にあるのです。
歌を一つの長い線として聴くだけでなく、言葉がどのくらい細かく区切られているかに注目すると、声の別の働きが見えます。
一語ずつ刻む場面では、言葉そのものがリズムを作る。
そこから旋律を歌う場面へ移ることで、フレーズのまとまりも変わります。
サージの表情の多さには、声色とともに、言葉を運ぶ単位の違いも関わっています。
ロックとオーケストラでは、声の届け方が違う
発声の選択が最も具体的に分かるのは、「Elect The Dead Symphony」の経験です。
サージは、ロックでは電気楽器と同じ音の領域で競うため、声を押し出し、荒さを伴う表現になると説明しました。
対して、オーケストラには、明瞭でしっかり届く声が合ったといいます。
大人数の伴奏だから、声もただ大きくすればよいわけではありません。
伴奏がどんな音で空間を満たしているかによって、声を前に出す方法も変わります。
ここで本人が話しているのは、曲に合わせた響かせ方の調整です。
「Empty Walls」— オークランド公演(2009年収録/2010年公開)
この公演の準備では、曲をピアノと歌まで戻してから、弦楽器などを加える構成を考えています。
歌の線を残し、その周囲を別の楽器で作り直したのです。
同じ「Empty Walls」をロック版とオーケストラ版で比べるなら、旋律が同じでも、声が伴奏の中でどう立つかに注目できます。

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深い声で、聴き手との距離を近づける
「Jazz-Iz-Christ」の「Distant Thing」には、もう一つの明確な選択があります。
この曲はもともとミュージカル「Prometheus Bound」のために作られ、舞台では女優が大きく力強い声で歌っていました。
サージは自分の録音では、深い声で、もっと個人的で親密な表現にしたと説明しています。
曲自体も、暗いシンセサイザー中心の形から、舞台のリハーサルでジャズの方向へ編曲し直されたものです。
深い声を、威圧感よりも、近さを作るために選んでいます。
ピアノと声だけにすると、言葉の役割が変わる
「I’m Counting On You」のカバーでは、伴奏はアコースティックピアノです。
サージは、シンプルなピアノと声の組み合わせによって、歌詞のメッセージを届けたいと説明しています。
ここで目指しているのは、ロックバンドの大きな音を越えて歌うこととは違う関係です。
伴奏を簡潔にする判断そのものが、声をどう聴いてもらうかにつながっています。
歌い手の力を、音数の多さや高音の派手さだけで示す必要はありません。
一つの言葉を歌として差し出す声と、それを支えるピアノ。
その関係が、曲の内容へ意識を向ける入り口になります。
そもそも「Elect The Dead」の曲も、ピアノやアコースティックギターから書き始めたものでした。
本人は歌声の響きまで含めて制作に関わり、自分が望む音へ近づけています。
激しいロックの曲でも、作曲の最初から最後まで同じ編成とは限りません。
声をどこに置くかを、編曲と一緒に考えているのです。

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誰に呼びかけるかで、歌の表情を見つける
「Rumi」では、家で作曲中に遊んでいた息子へ、名前を歌って呼びかけたことが曲の種になりました。
本人は、デモに残ったその繊細さや無防備な感じを美しいと思い、歌の中心に据えています。
そこへ、息子と同じ名前を持つ詩人ルーミーへの思いも重なりました。
誰かへ呼びかけた声から、曲の表現を見つける。
政治的な主張を大勢へ届ける歌と、身近な相手を歌へ招き入れる声は、同じ歌い手の中に共存しています。
自分以外の声も、曲を決める
System Of A Downでダロン・マラキアンと歌を分け合う際にも、サージは固定された役割より、曲に必要な声を優先する考えを示しました。
どちらの声を使うかは、単なる歌唱量の配分ではなく、曲を作る判断の一つです。
ビック・ルンガとの「Things Unspoken」は、異なる声を組み合わせる別の例です。
二人の声が織り合わさるデュエットです。
一人で歌を支えるときと、相手の声と並ぶときでは、聴き手が受け取る声の輪郭も変わります。
「Things Unspoken」— Bic Rungaとのデュエット(2025年発表・公式音源)
サージ・タンキアンの歌い方には、荒い声と澄んだ声、大きく届く歌と親密な歌の間を選ぶ判断があります。
オーケストラの音に合う響き、ジャズでの深い声、ピアノとともに伝える言葉、息子へ呼びかけた声。
具体例を並べると、声の強さを一種類に固定しないところに、この歌手の面白さが見えてきます。
そうした表現がどのように広がってきたかは、サージ・タンキアンの歌唱変遷でたどっています。

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