ブライアン・ジョンソンの声には、一言で誰か分かる強さがあります。
高く、ざらついていて、演奏に向かって飛び出してくるような歌声です。
ただ、その迫力を生身の声量だけで説明しようとすると、録音やライブを支える人たちの証言と食い違います。
高音の印象を入り口に、語るような歌い出し、低いブルースの声、歌うための環境まで見ていくと、彼の歌い方はずっと立体的になります。
迫力のある声と、大きな声量は同じことではない
『Black Ice』期のライブの音響を担当したポール・ブースロイドは、ブライアンの声は個性的だが、生の声量が極端に大きいわけではないと説明しています。
声の性質と歌い方のため、巨大なギターの音に埋もれずに届けるには工夫が必要でした。
マイクが周囲の楽器を拾いすぎないことも、重要な条件になります。
この話から分かるのは、客席に届く迫力には、声そのものの特徴と音響の仕事が関わっていることです。
ブースロイドは、公演の進行に合わせてマイクの増幅を調整することにも触れています。
高音を支えるのは、出せる音を確実に捉えること
『Back In Black』を録ったトニー・プラットは、本人が声を温めた後、録音室と調整室を行き来して温度や湿度が変わるのを避けたと話しています。
人に見つめられず歌えるよう、周囲に仕切りも置きました。
高音を録る現場では、本人が歌える状態を整えることにも気を配っていたのです。
また、何度も際限なく歌わせたという説明ではありません。
十分に完成度の高い歌を複数録り、そこから良い部分を組み合わせたといいます。
強い声が出た瞬間を、作品へつなぐ仕事です。

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「Rock And Roll Ain't Noise Pollution」の語り口
鋭い高音と対照的なのが、「Rock And Roll Ain't Noise Pollution」の冒頭です。
ブライアンは、マット・ラングからイントロに何か話してほしいと言われ、米国南部の説教師を思わせる語りを試したと振り返っています。
その一回が採用されるとは思っていなかったそうです。
高音を伸ばす前に、言葉で誰かに呼びかける。
この話し方そのものが、曲の入り口を作っています。
マイクを持って動けることが、歌いやすさにつながる
『Black Ice』の録音で、ブライアンは手持ちのマイクを使っています。
エンジニアのマイク・フレイザーによれば、最初の仮歌は調整室で歌い、本番の多くはブレンダン・オブライエンと別室で録りました。
本人の動きを残したまま、歌を仕上げられる環境だったのです。
一方、手に持って動くマイクには、扱ったときの低い雑音も入ります。
フレイザーは、それを取り除く調整を説明しています。
自由に歌わせることと、そのまま何の処理もせず収めることは別です。
歌手の動きを尊重し、その声が伝わるように整える関係がありました。
同じ荒さでも、曲によって表情が変わる
『Black Ice』の「Spoilin' For A Fight」には、相手に食ってかかるようなうなりや叫びがあります。
声のざらつきが、挑むような態度と結びついています。
音色の特徴が、そのまま曲の人物像を作る例といえるでしょう。
一方、「Rock N Roll Dream」では、彼の歌のソウルが際立ちます。
相手に挑む荒々しさと、感情を込めた歌の深さ。
同じアルバムでも、聴き手が声から受け取るものは一つではありません。
ざらついた声という説明だけでは、こうした曲ごとの表情を取りこぼしてしまいます。
「Demon Fire」の低い声と、「Wild Reputation」の人物像
『POWER UP』の「Demon Fire」では、低い声のざらつきが別の役割を持ちます。
大きく広がるサビに対し、低くかすれた声の部分は、曲に暗い色を添えています。
鋭さを上へ突き抜けさせるだけでなく、低い位置に置いて、不穏な雰囲気を作る例と読めます。
強烈な声の持ち主が低く歌うことにも、曲の景色を変える意味があるのです。
「Wild Reputation」では、話すような声が人物像へつながります。
うなる語りの部分には、西部劇のカウボーイを演じるような面白さがあります。
「Rock And Roll Ain't Noise Pollution」の説教師と合わせて考えると、ブライアンは言葉を語る場面で、違う人物の顔を声に載せています。
「Killing Floor」では、低い声のざらつきを生かす
スラッシュが「Killing Floor」に求めたのは、ブライアンの低めの声でした。
スラッシュは、原曲のハウリン・ウルフを思わせる、ざらついた声域で歌ってくれたと話しています。
スラッシュにとっては、録音前から思い描いていた響きでした。
ざらつきの個性をどの高さで生かすかも、表現の選択になります。

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作曲者の考えに近づくため、歌い直す
『POWER UP』の制作について、ブライアンは、歌った一節を聴き直し、自分で良くできると思えば再び試したと語っています。
判断を支えたのはオブライエンでした。
その基準には、作者が思い描いている歌へ近づきたいという考えがありました。
あの声さえ出れば完成、とは本人も考えていません。
曲が求めるものを確かめ、出てきた歌を聞き直す工程があります。
強烈な個性を持ちながら、歌の方向を人と相談できることも、彼の表現を支える一面です。
本番前の準備にも、本人らしい方法があります。
本人は、舞台へ出るのを待ちながら歩き、最初の曲を頭の中で通して歌うと話していました。
客席に届く第一声の前に、歌はすでに本人の中で始まっています。
ブライアンの歌い方を形作るのは、強い高音だけではありません。
話すように始めるのか、低くうなるのか、動きながら歌えるのか、録った歌が曲に合っているのか。
こうした具体的な選択に目を向けると、聴き慣れた声の奥にも発見があります。
時期をまたいだ変化は、ブライアン・ジョンソン(AC/DC)の歌唱変遷でたどっています。

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