宇都宮隆が、自分の歌の特徴として最初に挙げたのは、声の高さでも、派手な歌い回しでもなく、歌詞でした。
聴く人に言葉を届けること。
そして、そのために曲のリズムへうまく乗ること。
本人にとって、この二つは別々の課題ではありません。
「Get Wild」を思い浮かべると、その話が少し意外に感じられるかもしれません。
印象に残るのは、シンセサイザーの音や、走り出したくなる曲の勢い。
歌詞を大事にするといっても、ゆっくり一語ずつ説明するように歌えばよいわけではありません。
曲の勢いを保ったまま、言葉も届くように歌う必要があります。
宇都宮は、TM NETWORKでもソロでも、歌への基本的な意識は変えていないと話しています。
一方で、歌う音楽は大きく変わります。
「Get Wild」の新録音から、洋楽の伴奏を組み合わせた昭和歌謡まで。
周りの音が変わるたびに、言葉をどう歌えば届くのかを考える。
その仕事をたどると、涼しげな印象の歌の裏側が見えてきます。
歌い慣れた「Get Wild」も、録り直すと早口だった
2024年、Netflix映画『シティーハンター』のために「Get Wild Continual」が作られました。
1987年の代表曲を、新しい伴奏と歌で録り直したものです。
長年歌ってきた宇都宮も、改めて録音すると、ずいぶん早口な曲だと感じたそうです。
本人が意識したのは、曲全体の雰囲気に声を合わせ、歌詞を伝えることでした。
音に乗って滑らかに歌うことと、一つ一つの言葉を聴き取れるようにすること。
「Get Wild」の歌を考えるなら、その両方に耳を向けたいところです。
サビの勢いだけを待つのではなく、そこへ進む途中で、言葉が次々に続いていく部分も気になってきます。
新録では、サビへ向かうBメロに、オリジナルにはなかった低いハーモニーも加わりました。
宇都宮が木根尚登に提案したもので、主旋律の下をもう一つの声が支えます。
よく知る歌でも、声の組み合わせを変える余地があったのです。
ここでは、宇都宮の歌い回しに加えて、木根の声が重なる場所も聴きどころになります。
自分の声の出し方だけでなく、一緒に歌う声にも案を出す。
歌い慣れた曲だからこそ試せる工夫も、この新録にはありました。
昭和歌謡のカバーで、いつもの歌い方が通じなくなる
宇都宮のソロ活動には、2015年に始まった、歌謡曲と洋楽を組み合わせる「それゆけ歌酔曲!!」があります。
懐かしい曲を、当時の伴奏のまま順に歌うライブではありません。
例えば2023年には、山口百恵の「ロックンロール・ウィドウ」に、グレン・フライの「The Heat Is On」を組み合わせました。
由紀さおりの「夜明けのスキャット」と、ポリスの「Roxanne」という組み合わせもあります。
知っている歌が、別の曲の音と出会う企画です。
始まりにあったのは、昔の歌を、元の歌い方とは違う形で歌えないかという宇都宮の考えでした。
ところが、遊び心から始めた企画は、本人の予想よりも大変になります。
最初に軽く合わせた時には、周囲の反応もよかった。
それが、リハーサルで細部を詰めるほど、どう歌えばいいのか分からない箇所が出てきたといいます。
自分の曲を録音する時より苦労した、という振り返りが印象的です。
元の歌を覚えているだけでは、新しい伴奏での歌い方まで決まらない。
歌を乗せるリズムが変われば、慣れた歌い回しも見直す必要があるのでしょう。
完成したステージを気楽に楽しめるのは、歌手と演奏者が、その組み合わせを先に試しているからです。

この企画で歌われた曲は、ソロアルバムにもつながりました。
2018年の『mile stone』には、岩崎宏美の「思秋期」と、山本リンダの「どうにもとまらない」のカバーが入っています。
同じアルバムには「GET WILD PANDEMIC」も収録されています。
TMの代表曲と昭和歌謡が、宇都宮一人の歌の中で隣り合っているのです。
「思秋期」は、岩崎宏美の歌として覚えている人も多いでしょう。
その記憶を持ったまま宇都宮のカバーへ進むと、曲を知る楽しさに、別の歌い手で聴く楽しさが加わります。
「Get Wild」の人、という印象だけでは選ばなかった曲にも、同じ声を通じて出会えます。
アンコールに選んだのは、体力も集中力も使う曲
歌う曲への向き合い方は、ライブの終わり方にも表れます。
2019年の「Dragon The Carnival」は、ソロ公演でありながら全編をTM NETWORKの曲で組んだツアーでした。
キーボード三人とギターという編成で、三人のキーボーディストが分担して編曲しています。
アンコールは当初、もっとアップテンポの曲で終える予定でした。
しかし宇都宮は、考えた末に「SEVEN DAYS WAR」と「Human System」を日替わりで歌うことにしました。
本人にとって、どちらも体力と集中力を使う曲。
できれば公演の中盤に歌いたいほどでしたが、ライブ全体の完成度を考えて、最後に置いたのです。
勢いのある曲ほど歌手の負担が大きい、とは限らないことが分かります。
聴き手には落ち着いて聴こえる歌でも、歌う側は集中を使い続けている。
宇都宮の歌を「力まず歌っている」と感じた時にも、その印象と、本人の仕事の大きさは分けて考えたくなります。
疲れも出る終盤に、その二曲を歌う。
本人の負担を知ると、アンコールは余力で歌うおまけではなく、公演を完成させるための歌だったと分かります。

2026年にも「歌酔曲」の活動は続き、宇都宮は、選曲と編曲を一組のものとして考えています。
聴き慣れない曲でも、ライブをきっかけに原曲を調べたという便りが届くことがあるそうです。
歌手が伴奏に合わせて歌い方を探した先で、聴く人の好きな曲も増えていく。
長く歌い続けることの楽しさが、そんなところにもあります。
宇都宮隆の歌は、言葉をはっきり発音すれば完成する、というものではないのでしょう。
「Get Wild」では次々に続く言葉を曲の勢いの中で歌い、歌謡曲のカバーでは新しい伴奏に合う歌い方を探す。
ライブでは、集中力を使う曲を最後まで届けるために、曲順まで考える。
歌詞を届けたいという同じ考えが、場面によって違う仕事になるのです。
次に「Get Wild」を聴く時は、印象的なシンセサイザーに加えて、そこを進んでいく言葉にも耳を向けてみてください。
リズムの勢いを止めず、歌詞の意味も追えるように歌う。
宇都宮が大切にしてきたのは、その二つを一度に聴き手へ届けることでした。






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