アダム・ランバートは、歌えることを証明するために、いつも大きく歌い続けなければならなかったのでしょうか。
2015年の本人の話からは、むしろ別の望みが見えてきます。
声の技を見せることから、曲の雰囲気や声色を楽しむことへ、関心が移っていたのです。
ところが、その後もQueenでは大きな曲を歌い、ソロでは大胆なカバーを作り、舞台では役に合わせて声を変えていきます。
派手な歌い方をやめて、静かな歌手になったという歩みではありません。
2009年のデビューから2024年のブロードウェイまで、アダムが自分の声にどんな役割を与えてきたかをたどります。
2009〜2010年:舞台で育った歌手が、テレビの向こうへ
『アメリカン・アイドル』に登場する前から、アダムはミュージカルの舞台に立っていました。
『ウィキッド』のツアーやロサンゼルス公演にも参加しており、歌で役柄を伝える経験を重ねていたのです。
2009年の番組では準優勝し、同年にデビューアルバム『For Your Entertainment』を発表しました。
ただ、この頃のアダムを「高音で驚かせる人」だけで説明すると、初期の曲の違いが見えにくくなります。
本人は2010年、「Whataya Want from Me」では弱さや率直さを表していたと話しています。
派手に見える歌手が、相手に向かって不安を隠さず歌う。
その取り合わせも、デビュー当時からあった魅力でした。
2009年のアルバムに入った「Whataya Want from Me」は、そうした初期の魅力を知る一曲です。
後年の抑えた歌い方へ進む前にも、アダムには強気な曲とは違う感情を歌う場所がありました。
2010年の初のヘッドラインツアーでも、彼は曲を並べるだけでは満足していません。
曲から次の曲へ進む理由を、舞台全体の物語や見た目も含めて作ろうとしていました。
一曲で目を引くテレビの歌唱から、観客を一晩楽しませる公演へと、歌を考える単位が広がっています。

2011〜2014年:Queenの名曲を任される
2009年の番組決勝で、アダムはブライアン・メイ、ロジャー・テイラーと共演しました。
その縁は2011年のMTVヨーロッパ・ミュージック・アワード、2012年の公演へと続き、2014年には本格的なツアーに発展します。
ここでは、自分のデビュー曲を紹介するのとは違う課題がありました。
客席の多くが、フレディ・マーキュリーの歌で曲を覚えていたのです。
アダムは、原曲への敬意を示しながら自分の工夫を加える方法を探しました。
最初は疑うように見ていた人も、数曲が進むと楽しんでくれる。
本人は、そんな毎晩の経験が挑戦になったと振り返っています。
ここで得たものは、難しい曲を歌い切る経験だけではありません。
ロック、ポップ、ファンクなど、Queenの曲がさまざまな音楽を行き来していたことも、アダムを後押ししました。
一つのジャンルに収まらなくても、歌で人の気持ちを動かせばよい。
その考えが、次のソロ作品へ向かう自信につながっていきます。
Queenの曲を歌う際、何を原曲から受け継ぎ、どこを変えるのかという工夫は、アダム・ランバートの歌い方で「Somebody to Love」や「Love Kills」を通して見ています。
2015年:「Ghost Town」で、声を見せる目的が変わる
大きな会場でQueenを歌っていたアダムが、ソロでも同じ迫力を追い求めたとは限りません。
3作目の『The Original High』では、本人が普段クラブや友人との集まりで聴いている音楽へ近づこうとしました。
自分の歌唱力はもう知ってもらえたから、今度は雰囲気や声色を大切にしたいと考えたのです。

「Ghost Town」が描くのは、夢を持って大都会へ来たのに、望んでいたものが手に入らず、空しさを抱える感覚です。
制作に再び加わったマックス・マーティンとシェルバックとともに、アダムは自分の生活に近い題材を、ダンス音楽の中で歌いました。
勇ましく自分を押し出すだけでは表せない気持ちが、この曲にはあります。
アダムは当時、若い頃ほど技を見せつける必要を感じなくなったとも話しています。
それは歌への自信を失ったからではなく、自信がついてきたからこその変化でした。
声の力をいつも証明しなくてもよくなった分、歌に別の表情を持たせる余裕ができたのでしょう。
それでも、アルバムから大きなバラードを全部なくしたわけではありません。
リズムを楽しむ曲がそろったところで、もっと大きく歌う曲も必要だと考え、「There I Said It」を加えています。
高音を封印するのではなく、アルバムの中で使う場所を選ぶようになった、と見るほうが近そうです。
2018〜2023年:カバーで、自分の解釈をさらに大きくする
2018年にケネディ・センター名誉賞の催しで歌ったシェールの「Believe」は、後のカバーアルバムへつながる経験になりました。
アダムはダンス曲を、弦楽器を伴うバラードへ変えています。
本人によれば、その反響の大きさが、よく知られた曲を大胆に作り替える『High Drama』の発想につながりました。
2020年の『Velvet』では制作への関与も深め、その経験を2023年の『High Drama』に生かしました。
自分が求める音を以前よりはっきり伝え、制作陣がどのように曲を組み立てるかも理解できるようになったと話しています。
歌い方の希望を、伴奏やアレンジも含めた曲全体の形に反映させやすくなったのでしょう。
『High Drama』の「Getting Older」は、ビリー・アイリッシュの曲です。
アダムがひかれたのは、年齢の違う自分にも当てはまる歌詞でした。
年を重ね、以前好きだったこととの関係が変わる感覚を、彼は自分の歌として受け止めています。
デビューから長く歌ってきたアダムにも、若いビリーが書いた戸惑いが通じていた。
そう知ると、年を重ねる歌が、年配の人だけのものではないことに気づきます。
カバーを通して、違う世代の二人が抱える似た気持ちまで見えてくるのが、この選曲の面白さです。
2024年:『キャバレー』で、役の変化を歌い分ける
2024年、アダムは『キャバレー』の司会者、Emcee役でブロードウェイの舞台に立ちます。
『アメリカン・アイドル』へ進む前に歩いていた、ミュージカルの道へ戻る機会でもありました。
この役は、同じ調子で歌っていればよい役ではありません。
物語の舞台となるクラブで客を楽しませる面もあれば、物語が暗く進むにつれて違う表情を見せる面もあります。
アダムは、場面ごとの変身に合わせて、声を使う高さや歌い方も変えられると話しています。
ふざけた楽しさのある歌と、繊細な響きを求める歌、そして「I Don’t Care Much」のようなバラード。
同じ人物を演じる一晩の中で、歌の性格が変わります。
大きな声の見せ場だけを待っていると、こうした切り替えを聴き逃してしまうかもしれません。
高音を生かす場面を、自分で選べるようになった
アダムの歩みは、派手だった歌手が次第におとなしくなる、という一直線の変化ではありません。
初期から弱さを歌う曲があり、2015年に抑えた表現へ関心を向けた後も、必要なら大きく歌い上げています。
変わったのは、その力を使う場面を選ぶ自由の大きさでした。
テレビで一曲の印象を残す歌、Queenの客席が記憶している歌、クラブで流れる自分の歌、舞台の役として歌う曲。
場所が変わるたびに、同じ声に求められることも変わります。
その違いに合わせて歌えることが、アダムの活動を広げてきました。
初期の「Whataya Want from Me」へ戻ると、後年の表現につながる弱さや率直さも、すでにそこにあります。
高音の鮮やかさに加えて、その声で何を伝えようとしているかを追うと、時代ごとの曲がもっとつながって聴けるはずです。
こちらの記事もおすすめ






コメント