小野大輔の歌声はどう変わった?「熱烈ANSWER」から『musée』まで、演じる歌の変遷

小野大輔 公式プロフィール写真 シンガー

声優の小野大輔が歌う曲には、まっすぐなラブソングも、ダンサーを率いるショーのような曲もあります。この幅は、初めから同じやり方で歌い続けた結果ではありません。本人が明確な転機として挙げるのは、2010年の「熱烈ANSWER」です。さらに2021年には、声優として大切にしてきた「言葉をはっきり伝える」習慣を、ある曲であえて手放しました。

歌声が高くなった、低くなったという単純な話ではなく、曲の中で誰になり、言葉をどう届けるかが変わっていった過程です。2007年のデビュー作から2025年の『musée』まで、作品と本人の発言をたどります。

2007年『ひねもす』――恋の歌をまっすぐ届ける出発点

小野大輔は2007年6月、ミニアルバム『ひねもす』でアーティスト活動を始めました。レーベルが示したアルバムの共通テーマはラブソング。最後の「だいすき」は本人が作詞し、曲ごとに別の恋愛の形を置く構成です。声優として役を演じてきた人が、自分の名義ではどんな言葉を歌うか。その最初の答えがここにあります。

後年、小野はこの時期を含む「熱烈ANSWER」以前の楽曲について、渡辺拓也から提供された感情的なJ-POPをまっすぐ歌っていた、と振り返りました。演じることを捨てていたわけではありません。それでも、この段階で前に出ていたのは、歌の主人公を大きく作り込む演出よりも、恋の言葉を正面から差し出す表現だったというのが本人の整理です。

2009年のアルバム『風花』に収録された「春空」も、後のダンス曲とは異なる初期の歌をたどるための一曲です。初期作を、後年の派手なステージがまだ完成していない作品として扱うだけでは、この後の展開が見えません。まっすぐ歌う選択がまずあり、その上に別の役柄を増やしていったのです。

2010年「熱烈ANSWER」――「歌う自分」から「演じる自分」へ

2010年12月の「熱烈ANSWER」は、アニメ『バトルスピリッツ ブレイヴ』のエンディング曲です。発売当時のレーベルも、それまでの小野の曲とは違うファンキーな作品だと説明しています。2022年の羽多野渉との対談で、小野本人はさらに踏み込んで、この曲から「演じること」に完全に振り切ったと述べました。

ここで変わったのは、単に伴奏が踊れる音になったことだけではありません。2007年の恋の歌では、小野が言葉をどう誠実に届けるかが中心でした。「熱烈ANSWER」では、タイアップ作品の熱量と楽曲の大胆さを引き受け、一曲のための人物像を立ち上げる方向へ重心が移ります。本人は、この選択が後の音楽性の広さにつながったとも話しています。

「熱烈ANSWER」の公式盤には当時のプロモーション映像を収めたDVDがあります。現在確認できたレーベルの動画一覧には同曲そのものの掲載動画がないため、ここは別の曲の映像で代用しません。2013年には、対照的な性格の二枚のミニアルバム『UP STAIRS』『DOWN STAIRS』を同時に発表しました。レーベルが前者を面白さ、後者をクールさを表現する作品と位置づけたことからも、「一人の歌手が一つの声色を守る」より、曲ごとに見せ方を変える方針がはっきりします。

2014〜18年――役の表現を、踊るステージへ広げた時期

2014年の「Mission D」は、レーベルが大胆でセクシーなダンス曲と紹介したシングルです。チームDというダンサーたちを率いた映像も作られ、歌の人物像は、録音だけでなく身体の動きや舞台の構成まで含むものになりました。翌2015年の『Doors』では複数のジャンルを一枚に入れ、2016年には日本武道館で初のワンマンライブを開催します。

小野大輔 2015年『Doors』本人写真のジャケット
2015年『Doors』のジャケットに使用された小野大輔本人の写真。画像出典:公式掲載元

2015年の「パノラマ・ミラー・ツアー」は『Doors』の一曲。2014年の「Mission D」と並べると、踊る曲が単発の挑戦ではなく、作品ごとに異なる場面を作るための持ち札になったことが分かります。ただし、映像の衣装や演出だけから声の出し方が変わったとは決められません。ここで確認できるのは、本人が語った「演じる歌」を、ライブの見せ方にまで広げたという制作上の変化です。

2018年のアルバム『STARTRAIN』には、本人が詞を書いた表題曲に加え、渡辺拓也の「オリオンの夜」「ヒーロー」も入っています。初期に近い作家とのつながりを残したまま、ダンス曲や物語性のある曲を同じアルバムに収めた点が大切です。「熱烈ANSWER」の転機は、まっすぐ歌う方法を捨てる転向ではなく、演じる方法を増やす転機だったと、この選曲からも読み取れます。

2020〜21年――踊りながら歌う難しさと、シンプルな編成での再発見

2020年の『STARGAZER』は宇宙をモチーフにした作品で、「Firebird」「ROCKET MAN」「Dear」などを収録しています。2021年のライブを振り返る取材で、小野は「Firebird」について、見せるダンスと歌を両立させるのが難しかったと話しました。踊る楽曲で自在に見えるステージも、本人にとっては歌と動きの両方を形にする挑戦だったのです。

同じ取材で別の転機として挙げたのが、「Dear」をアコースティックギターと歌った場面です。編成がシンプルだったからこそ、歌うという行為を根本から考え直したと本人は述べています。大きなショーを経た後に、足し算ではなく、伴奏の少ない場で声と向き合い直す。これも、2021年の小野に起きた変化です。公式に掲載された2021年公演の映像は公演全体の告知映像であり、「Dear」一曲のフル映像と取り違えないでください。

2021年TRD――声優の明瞭な発音を、曲のために一度外す

2021年には近藤孝行とのユニットTRDで「Take You Higher」を制作しました。小野が取材で説明した録音時の難しさは具体的です。作曲家R・O・Nの細かなリズムに合わせるため、日本語でも語頭の音を発しないように指示された箇所があったといいます。小野にとって、明瞭に言葉を伝えることは声優の仕事から来る自分の特徴でした。その音をあえて省くのは、従来の習慣と反対の選択だったのです。

歌詞の意味を捨てたわけではありません。意味を説明するように一音ずつ立てるより、言葉をリズムの一部として流すほうが、この曲の音楽になる。小野は何度も録音を試し、その方法を自分にとって新しい発見だったと話しています。「熱烈ANSWER」が人物像の選び方を変えた転機なら、TRDでは一語の発音という小さな単位にも選択肢が増えました。

2022年『Sounds of Love』――歌の前に物語を置く

2022年の『Sounds of Love』は、曲の前に小説家・青山美智子が書いた短い「Prologue」の朗読を置いたアルバムです。「DING DONG」は大人の恋、「また会う時は」は上田麗奈とのデュエット、「SUPER SHOCK」は羽多野渉との対決を描く曲。歌い手が一人で次々にキャラクターを替えるというだけでなく、朗読、共演者、作家を交えて一つずつ異なる場面を作っています。

小野が「SUPER SHOCK」で求めたのは、仲の良い声優二人をそのまま歌にすることではありません。羽多野とのライバル関係から着想を得ながら、曲では二人が別の役を演じて戦う構図にしたと明かしています。一方、豊永利行の書いた「Self Satisfaction」は、デビュー作『ひねもす』の「だいすき」を今の自分から見直す発想で作られました。初期へ戻る曲でも、2007年の自分をそのまま再現するのではなく、年月を経た意味を与えています。

2025年『musée』――声を一つの展示室に閉じ込めない

2025年の『musée』では、美術館という枠の中に、シドのメンバーによる「シャドウ」、ゴスペラーズの安岡優による「モナリザ」、ヒップホップを意識した「OVERLAY」などを置きました。小野は「モナリザ」を、コロナ禍のライブで声を出せなかった観客の微笑みと結びつけて説明しています。ここから声そのものの新しい技術を断定することはできませんが、共演者や観客の記憶を、どの曲を歌うかという選択に反映したことは分かります。

小野大輔の変遷を一本の線にするなら、2007年の恋の歌を起点に、2010年には演じる人物像を前に出し、2010年代半ばには舞台全体でその人物を見せ、2021年には発音の単位まで曲に合わせて変えるようになった、という流れです。大きな演出とシンプルな編成の両方を試した後、2022年以降は朗読や共演者も歌の場面づくりに加わりました。年代の違いより一曲の中で何をどう選ぶかを知りたい方は、小野大輔の歌い方で具体的な曲を比べてみてください。

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