昆夏美の発声を考えるとき、手がかりになるのは、声の出し方をどう選んでいるかです。
息をどこで区切るか、音を揺らすか、地声で出せる音をそのまま地声で歌うか。
本人の取材には、曲や役に合わせて、その選択を変えた具体的な話があります。
「ISOtone」と「Sleep without a memory」、そして『マチルダ』のミス・ハニーを題材に、発声と表現のつながりを見ていきます。
「私は想像する」|滑らかさより、言葉一つずつの力を選ぶ
2013年の「私は想像する」で、昆が難しいと感じたのは、言葉を一つずつ力強く歌うことでした。
ミュージカルで身につけた、滑らかにフレーズをつなぐ感覚が、ロックの曲ではそのまま使えなかったそうです。
単に大きな声を出せば迫力が出るとも考えていませんでした。
曲の動きに合わせて歌い、格好よさの中に影を感じる表現を目指しています。
作詞・作曲の石川智晶は、自分が入れたデモの歌い方に昆を合わせることを求めず、昆の声を生かして制作しました。
本人も、決まった型に縛られなかったことで、気持ちの面ではリラックスできたと話しています。
歌の形を探す難しさと、自分の表現を試せる余地の両方があった録音です。
一方、同じアニメの挿入歌「ココロ」は、ゆったりした曲でした。
石川から演じるように歌う方向を示され、昆はミュージカルに近い感情の込め方で臨めたそうです。
同じ作品の歌でも、言葉を強く立てる曲と、慣れたフレーズ感で歌える曲がありました。
「ISOtone」|息を細かく吸い、フレーズの進み方を変える
昆夏美は2015年のリスアニ!の取材で、ミュージカルでは大きく息を吸い、フレーズを大きく感じて歌ってきたと説明しています。
その感覚を本人は、横へ流れるような歌唱として捉えていました。
ところが「ISOtone」では、そのまま歌うと曲が平らに感じられてしまう。
そこで意識したのが、拍ごとの動きと、短く区切った吸気でした。
体全体でリズムを取り、息を細切れに吸って、テンポを感じながら歌っていったそうです。
この話では、息を入れる間隔が表現に関わっています。
大きなひと続きのフレーズとして扱っていたものを、曲のリズムに合わせて組み直す。
歌詞の勢いを保つために、呼吸の取り方から歌唱を変えた例です。

撮影:小坂茂雄/出典:音楽ナタリー。
画像出典:写真掲載元
本人は、激しく歌いながらも、重くしすぎないバランスを探したと話しています。
曲の勢いを保つために、フレーズの感じ方も調整していました。
息の区切りは、その曲に必要な動きを作るための選択でした。
歌詞には生死や犠牲を思わせる重い内容もあり、昆は、その意味に引っ張られて歌まで重くなりすぎないように考えています。
4時間のプリプロダクションを2回行い、最初とは大きく違う歌い方へたどり着きました。
言葉の内容を受け止めながら、ロックの勢いも保つために、呼吸とリズムを詰めていたのです。
「Sleep without a memory」|ビブラートを使わず、フレーズを短くする
同じシングルに収録された「Sleep without a memory」では、昆夏美はビブラートをあえて使わずに歌ったと説明しています。
息を細かく切り、フレーズを短くすることも意識したそうです。
この曲で本人が結びつけているのは、ビブラートの有無と、フレーズの扱い方です。
音を揺らさないという選択を、短く区切った呼吸と一緒に使っていました。
フレーズを短くするために、息と音の揺れの両方を調整した例といえます。
「ISOtone」で息の取り方を変えたことに続き、こちらでは音の揺れも含めて調整しています。
呼吸とビブラートを別々の技術として考えるだけでなく、両方を使って、曲に合うフレーズの長さを作っていたことが分かります。
「Despair Syndrome」|優しく歌う感覚と、録音の聞こえ方
同じシングルのロックバラード「Despair Syndrome」では、別の調整がありました。
優しく歌おうとすると、自分の予想よりも重く聞こえてしまったそうです。
そこで「ISOtone」のように、もっと外へ発散する方向も試しています。
本人は、歌ってから聴き返す作業を繰り返して、この曲を作ったと説明しました。
歌っているときに優しさを感じていても、録音で受け取れる表情が同じとは限らない。
内側の感覚と、実際に聞こえる歌を照らし合わせ、曲に合う力の出し方を探しています。
ビブラートを控えた「Sleep without a memory」と併せて考えると、同じ作品内でも、声を整える方法が一つではなかったことが分かります。
ミス・ハニー|地声で出せる音でも、その声が役に合うかを考える
『マチルダ』のミス・ハニーでは、別の発声の判断がありました。
2023年のAudienceの取材で昆夏美が語っているのは、自分の地声で出せる音域でも、地声で歌うと役の繊細さや奥行きが出ないと感じたことです。
地声で出せることと、その声が人物に合うことは、それぞれ考える必要がある。
ハニーの声を探す過程では、声が伝える人物像も判断の基準になっていました。

写真出典:Audience。
画像出典:写真掲載元
調整するときは、喉に声をどう当てると感じるか、どんな響きになるかを、自分の感覚を頼りに何度も試したそうです。
それに加え、歌唱指導や演出家、同じ役を演じる咲妃みゆにも聞いて、声を確かめていました。
内側の感覚と、外で聴いている人の反応を行き来しながら、役に合う声を探したのです。
それまで演じた強い女性の役では、持っているエネルギーを全部出すことが必要でした。
しかしハニーを同じように歌うと、一人で未来を切り開ける人物に見えてしまうと感じたそうです。
声の力を選ぶことが、その人の弱さや迷いを舞台に残す役づくりにもなっていました。
デュエットでは、相手との力の釣り合いを探す
二人で歌うとき、昆が大切にするのはパワーのバランスです。
共演を重ねた相手とは自然に合う部分もありますが、初めての相手には、どんな距離で歌うかを感じ取る必要があると話しています。
ついていくのか、寄り添うのか、自分が引っ張るのか、正面から向き合うのか。
相手の声を受けて、自分の出方を選ぶのです。
本人は、実際には細かなことを考えすぎず、二人で空気を作って楽しんでいるとも説明しました。
一人で完結した歌を並べるより、相手がいることで生まれる表現を大切にしていることが伝わります。
昆夏美の歌い方には、息の区切り、音の揺れ、声の選択を、表現したいものに合わせる判断があります。
曲にリズムが必要なら呼吸の間隔を変え、フレーズを広げすぎたくなければビブラートを控え、人物の繊細さが必要なら地声で出せる音にも別の出し方を探す。
その細かな選び方が、曲や役によって歌声を変える土台になっています。
こうした考え方に至った歩みは、昆夏美の歌唱変遷でたどっています。







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