Anlyの歌い方|「カラノココロ」の速い言葉と伸ばす声をどう使い分ける?

2017年のAnly Anly

Anlyの「カラノココロ」は、言葉が細かく続く部分と、声を大きく開いて歌う部分が一曲の中にあります。
アニメ『NARUTO-ナルト-疾風伝』の主題歌として知った人には勢いのある歌という印象が強いかもしれません。
しかし、本人の取材を読むと、速い日本語の言葉をどう歌うか、音程が大きく動くメロディをどうポップスにするか、二つの課題を同時に扱った曲だったと分かります。

曲の中で声を選び分けるところに、Anlyの歌の面白さがあります。
いつどのように表現が広がったかはAnlyの歌唱変遷で扱っています。

「カラノココロ」には、細かい言葉と大きな音程差が同居する

「カラノココロ」のメロディについてAnlyは、高校時代に歌った合唱やイタリア歌曲の影響があり、一オクターブを超えて飛ぶような動きをポップスへ変えられたと説明しています。
一方、言葉の細かい部分には、エド・シーランを通じて親しんだラップの影響を挙げました。
高い音を出せることだけでも、リズムに言葉を乗せられることだけでも、この曲は成立しません。

細かい言葉の箇所では、一音を長く響かせるより、言葉の切れ目とリズムが先に伝わることが重要です。
Anly自身、日本語でラップに近い歌い方を試したかったと述べ、韻を踏む難しさがありながら、歌い込むと口に馴染む楽しさを感じたと話しています。
完成した歌だけを見て最初から簡単だったと考えると、この曲で試したことを見落とします。

対して、上へ跳ぶメロディや伸ばすフレーズでは、言葉を細かく刻むときとは違う広がりが求められます。
一つの声色をそのまま押し通すよりも、言葉を刻むところと、旋律の広がりを聴かせるところを分けて捉えると、歌い方を考えやすくなります。

2022年のライブで歌うAnly
ライブで歌うAnly。
出典:VANITYMIX

声を明るくすることと、常に強く歌うことは同じではない

Anlyは「太陽に笑え」より「カラノココロ」のほうが声を明るく使えたと語りました。
しかし、「明るい声」は全曲を押し通すための指示ではありません。
同じ2017年のシングルには、高校時代に作った「だから」も収められています。
伴奏は当時の録音を残し、歌だけを新たに録った曲で、本人は飾らずに歌うことを意識したと述べました。

「だから」も合わせて考えると、「カラノココロ」の勢いをAnlyの唯一の歌い方と決めつけずに済みます。
力を抜いた声にも曲の居場所があり、同じ歌手が同じ時期に違う距離感の声を選んでいたからです。
さらに「初恋」では、本人が低い音域を普段以上に使い、肩の力を抜くことを意識したと話しています。
静かな曲を歌うときに必要なのは、単に音量を下げることではなく、その曲の言葉に合った声の置き方を選ぶことなのでしょう。

「初恋」の低い声を巡る本人の説明は、声の高さと力の入れ方を必ずしも一緒に変える必要がないことを教えてくれます。
同じ歌手でも、跳躍の大きい「カラノココロ」と、肩の力を抜きたい「初恋」では目指す距離感が異なります。

「Angel voice」では、声楽の響きが曲の中心になる

合唱やイタリア歌曲の経験は、速い言葉を歌うために手放したものではありません。
2022年の『QUARTER』に収録した「Angel voice」について、Anlyは声楽的な歌声を生かせる曲になったと説明しています。
「カラノココロ」でポップスの中へ持ち込んだものを、別の曲では違う形で前面に出せるのです。

この曲は、NHKの番組「見たことのない文化財」のテーマ曲になりました。
Anlyは東京国立博物館で展示を見て、文化財の歴史と、亡くなった人を弔う行為や祈りとのつながりを感じたと話しています。
そこで、聴き手が自分の内側の声に耳を傾け、心を静められるような歌へと仕上げました。
声楽的な響きは、単に立派な声を聴かせるためではなく、この曲の祈りや静けさへ向かう表現として捉えられます。

「初恋」で低い声を使うことと、「Angel voice」で声楽的な響きを生かすことは、別々の選択です。
柔らかな曲なら必ず声を小さくする、力強い曲なら必ず高く張るという組み合わせにはなりません。
Anlyの場合、曲が向かう感情を考えてから、持っている声のどの面を使うかを選ぶ、と見る方が自然でしょう。

ループ演奏では、自分の声を伴奏にも主旋律にも使う

Anlyのもう一つの特徴は、ループペダルを使った一人のライブです。
2018年の公演を取材した記者は、ギターやリズムに加えてコーラスをその場で録り、上に歌を重ねたと報告しています。
2019年公演の公式映像「Do Do Do」は、この方法がステージでどう使われるかを確認できる後年の資料です。

ここでいう「声を重ねる」は、録音されたコーラスの上からただ大きく歌うことではありません。
先に置く声をどの長さで繰り返し、いま歌う声をどう際立たせるかを一人で選ぶことです。
コーラスを増やせば必ず良くなるわけでもありません。
ライブの報告には、ループを組みながら観客と言葉を交わし、曲によってラップ、伸ばす声、ハーモニーを使い分けた様子が残っています。

音を積む装置があっても、客席に届く中心の言葉がぼやけては曲の意味が弱まります。
Anlyの歌い方を考えるとき、声の「数」だけでなく、どの声を前面に置くかという役割分担を見ると、ループ演奏の面白さが分かります。

アコースティックギターを弾くAnly
ギターを弾くAnly。
出典:音楽ナタリー

強いサウンドでも、言葉まで強く突き放さない

2023年の「EYE」にも、伴奏の印象だけでは決められない歌の向きがあります。
ドラマ『ハレーションラブ』の脚本を読んだAnlyは、登場人物の関係を書き直しながら、誰が何と向き合うべきなのかを考えました。
鋭いサウンドになった一方で、言葉は優しく書きたかったと、本人はBillboard JAPANの取材で話しています。

曲の問いかけは、物語の人物や聴き手に、その先をどうしたいか考えてもらうためのものです。
音が激しいから、歌う人もすべての言葉を怒りとしてぶつければよい、とは限りません。
ここでも大切なのは、声を強くするかどうかの前に、その一言をどんな気持ちで相手へ向けるかです。
「カラノココロ」の速い言葉にも、「EYE」の問いかけにも、言い切る勢いだけでは拾いきれない、言葉の宛先があります。

速さと高さを誇るより、曲ごとの言葉の届き方を選ぶ

「カラノココロ」のラップに近い言葉、音程が大きく上がるフレーズ、「だから」の飾らない歌、「Do Do Do」の声の重ね方。
並べると多芸さが目立ちますが、技を全部同時に見せることがAnlyの目的ではないはずです。
それぞれの曲で、言葉を前に出すのか、長い音で開くのか、先に録った声で支えるのかが違います。

読者が「カラノココロ」を歌うなら、原曲の声色をそのまま再現しようとする前に、細かい言葉を急いで潰していないか、長い音を無理に押していないかを分けて考えるとよいでしょう。
本人の声質や訓練をそのまま移せるわけではありません。
まず曲のどこで何を伝えたいかを区切り、自分が無理なく出せる高さと速さで試す。
そのほうが、Anlyの歌から学べる「選ぶ」という発想に近づきます。

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