片平里菜の歌声はどう変わった? 「女の子は泣かない」をもう一度歌うまで

ギターを持つ片平里菜 シンガー

「女の子は泣かない」は、片平里菜が初めから自分の歌だと思えていた曲ではない。
友人の恋から生まれた言葉に、自分の気持ちがあとから追いついた。
そして2026年、歌詞をそのまま残し、今の自分で歌った再録版を発表する。
励ましていた女の子を、今度は包み込むように歌いたい。
その変化の間には、強く張る声を求めた時期も、バンドに支えられて優しさを出した録音もあった。

「女の子は泣かない」と、歌っていた自分との距離

2014年1月に発売した2枚目のシングル「女の子は泣かない」は、友人の実話を膨らませて作った曲だ。
発売日の本人ブログでは、傷ついて涙を流しながらも、自分らしく輝こうとする女の子への応援歌だと説明している。
曲名には泣かないとあっても、涙をこらえ続ける人物を描いていたわけではない。

完成した音にも驚きがあった。
片平が好んで聴いていたのは、もっとシンプルな洋楽だったが、島田昌典の編曲で、思いがけず明るくきらめくポップスになったという。
多くの人へ届きそうだと感じ、仕上がりも気に入っていた。

その一方で、歌の主人公との距離はすぐには埋まらなかった。
後の取材では、友人の話からさらりと書け、周囲の期待が膨らむ間も、自分の感情は入り込めなかったと振り返る。
同じように他の物語から書いた曲でも、普通は自分の気持ちを重ねられたのに、この曲だけは違った。
曲を作り上げることと、自分の歌として受け止めることの間に、時間が必要だったのだ。

初期には「Hey boy!」や「Oh JANE」のような曲もあり、勝ち気さや前へ進む力を表す歌が増えていく。
しかし片平は、曲ごとに違う人物を歌っていた。
「Hey boy!」の主人公は「女の子は泣かない」とは別の性格だと本人が書いているように、すべてがそのまま本人の分身だったわけではない。

デビュー期の片平里菜
2013年の取材時の片平里菜。
出典:音楽ナタリー

「最高の仕打ち」を、バンドに預けられるまで

2016年のアルバムの表題曲「最高の仕打ち」は、HAWAIIAN6の安野勇太のギターと片平の歌を中心に録られた。
最初からこの形だけを考えていたのではなく、当初はバンド編曲を進めていたという。
ところが、アルバムの発売が決まる頃にも引っかかりが残り、改めて話し合って、歌とギターで録ることになった。

そのためらいを、片平は2018年の取材で明かしている。
10代から抱えていたわだかまりを解き放ってくれた大切な曲で、音を足すことで軽く扱われたようになるのが怖かったのだ。
弾き語りのライブでは、きれいに整えるより、地声で張るように歌うことを選んでいた。
肉声に聴き手が集中してくれると、こちらも届けたい気持ちが強くなるという。

2016年『最高の仕打ち』収録音源。

転機は、歌い続けて曲への自信が育ったことだった。
2016年にはTHE BACK HORNとの対バンで、彼らの編曲による同曲を一緒に演奏している。
2018年にベスト盤『fragment』へ再録する際には、その手応えを持って菅波栄純へ編曲を任せた。
かつて怖くて踏み出せなかった形を、今なら発表できると思えたのだ。

さらに菅波は、歌い方にも助言した。
バンドが力強さを担うのだから、片平は優しさを出したほうがいい、と話し合ったという。
本人は、相手に問いかけるような少し距離を取った歌にしたと説明している。
大きな伴奏に負けまいと声を張り足すのでなく、伴奏へ役割を渡して歌の表情を変えた。

2018年『fragment』収録の再録版。

2019年の取材でも、バンドがリズムや厚みを作ることで、歌い方が変わり、曲がすっと入ってくる感覚があったと話す。
歌とギターで感情をさらけ出す緊張感も大切にしながら、別の届け方を選べるようになった。
2016年の原盤と2018年の「New Recording」は、その選択を別々の演奏として残している。

聴き手に受け取られて、自分の歌になっていく

この頃は、歌う相手との関係も考え直していた。
2019年に振り返った片平によると、2017年には、なぜそのライブへ出て誰へ歌うのかを見いだせない時期があったという。
2018年に事務所を離れた際も、以前の環境を悪いと思ったのではなく、自分の意思で決める必要を感じたと話している。
『fragment』の曲や順序を自分で選ぶ作業も、その決断の一つだった。

過去の作品を見つめ直すと、作った頃にはそれほど好きと思えなかった曲が、愛おしくなっていた。
自分の手を離れて聴かれ、さまざまな思いを重ねてもらった曲は、部屋で一人で作った時とは違う存在になっていたのだ。
「女の子は泣かない」も、まさにそうした曲だった。

2019年のラジオで、片平は、何度も人前で歌い、好きだと言われるうちに、完全に自分の歌になったと語っている。
友人の恋から始まった歌を、聴き手と繰り返す時間が本人の経験へ変えた。
書いた直後に入り込めなかった気持ちも、歌うことを通じて追いついてきた。

同年2月24日のZepp DiverCity公演でも、過去の曲を今の歌い方で届けたいと話していた。
公演評は「Oh JANE」を勇ましく、「異例のひと」を囁くように歌ったと伝える。
曲の年代をそのまま再現するのでなく、今の自分が選ぶ表情で歌う。
2017年のアルバム『愛のせい』に収めた「異例のひと」も、そうして歌い続けるレパートリーになっていた。

2017年『愛のせい』収録音源。

2019年取材時の片平里菜
2019年の取材時の片平里菜。
出典:SPICE

「Darling」の頃から、自分に合う声を探す

2020年の『HEY! Darling EP』では、歌うことをさらに自分の声の問題として考えている。
当時のラジオでは、曲を作る中で、伝えることや自分の声が共通する主題だと気づき、それを作品の軸にしたと話した。
曲の内容と、それを届ける声とを、一緒に見つめる作品だった。

2026年の取材で本人が、自分の声を見つめ直す起点として挙げたのも「Darling」の頃だ。
2020年前後から自分の声と向き合い、力強さを持ち味として残しながらも、その時の年齢や体に合う歌い方を探し始めたという。
バンドへ力強さを預けた再録の後、歌そのものの力加減も選び直していった。
後の「愛するたびに」の余白は、突然現れたものではなかった。

旅と社会への歌を経て、恋の歌へ戻る

2023年の『Redemption』やシングル「予兆」では、社会的なメッセージを強く打ち出した。
本人は後に、恋愛の共感を求められるイメージが自分から離れて広がっていたことや、そこへの反動、ロックの先輩たちから受けた影響もあったと振り返る。
自分が歌いたいことを表に出せたことで、再び恋の歌も自然に書けるようになったという。

「予兆」――2023年『Redemption』収録版

各地を巡る活動も続いた。
2024年4月20日には『Redemption』のツアーを日比谷野外音楽堂で締めくくり、「いつの日か」を歌っている。
その演奏は、翌年に公式映像として公開された。

約13カ月、73本に及ぶ『風の吹くまま』ツアーでは、各地の人々と交流しながら歌い歩いた。
2025年、沖縄で慰霊の日を過ごす中から生まれたのが「夏の祈りのなかで」だ。
旅で積み重ねた平和への思いを沖縄の風景と重ね、録音にはORANGE RANGEのYOHが三線で参加した。
聴く人の暮らしや土地の営みが、自分の歌へ入り込むようになっていた。

その経験を経た2026年、片平は、20代の頃にはロックの強さや自己主張する女性に憧れ、力強い高音や勢いのある曲が多かったと話している。
今望んでいるのは「強くなろうとしない強さ」だという。
弱さや傷を抱えたままの人を受け入れることにも、強さを感じるようになった。

「愛するたびに」の録音では、前年に一緒にツアーをしたバンドの、音を削っても音楽が成立する感覚に惹かれた。
以前は自分のギターと歌に音を足していくイメージだったが、今回は声が埋もれずに存在できる余白を求めたという。
声を小さくすることだけに頼らず、その声を支える演奏も選んでいた。

2026年の再録で、昔の自分と聴き手を包む

「女の子は泣かない 弾き語り room ver.」は、2026年4月のシングル『愛するたびに』に収められた。
「うたのふるさと」を録音している最中に、このシングルへ入れたら面白いのではと思いつき、その場で録ることになったという。
歌詞を変えるという発想すらなかった。
葛藤しながら歌っていた昔の自分も、聴いてくれた女の子たちも、一緒に抱きしめられる作品にしたかったのだ。

録音はスタジオで行い、小さな同じ部屋で歌っているような距離にしてほしいと、エンジニアへ依頼した。
「room ver.」という親密な音作りも、本人の望んだ表現だった。
歌う気持ちと音作りの両方で、近くにいる感じを目指している。

2026年『愛するたびに』収録の再録版。

届けたい相手の暮らしも変わっていた。
片平は、この曲と人生を歩んだ同世代のファンの中には、結婚や子育てでライブから足が遠のいた人もいるだろうと話す。
そうした人へもう一度この歌と、今の自分のラブソングを届けたかった。
再録は、昔の作品を振り返るだけでなく、会場へ来られなくなった人とも歌で出会い直す機会になる。

2014年には友人を励ましていた歌が、今は若かった自分や、同じ曲と年を重ねた聴き手をも受け止める。
言葉をそのまま残したからこそ、歌う人と聴く人が過ごした時間が加わる。
片平の歌声の変化をたどると、強く言い切る力とともに、相手の弱さを置いておける場所を作る力が育ってきたことが見えてくる。

曲の中で語尾や息、声の強さをどう選ぶかは、片平里菜の歌い方で別の角度から考える。

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