ダリル・ホール(Hall & Oates)の歌声の変遷|若い頃の高音から、今の声で歌うヒット曲へ

2023年、ハイド・パーク公演で歌うダリル・ホール シンガー
Raph_PH / CC BY 2.0

若い頃のダリル・ホールの高音が好きだった人にとって、近年の歌い方は、少し意外に感じられるかもしれません。
覚えていたメロディーを変えたり、声を伸ばす代わりに言葉を話すように歌ったりする場面があるからです。
本人も、かつてのように高い声を出せる感覚を、一部失ったと話しています。

それでもダリルは、2025年に紹介されたインタビューで、今の声を気に入っていると語りました。
以前より柔らかくなった声が、自分の感情やソウルの表現に合っていると感じているのです。
聴き手が懐かしむ高音と、本人が今の声で歌いたいこと。その違いを考えると、歌声の変化は、衰えたかどうかの一言では片づけにくくなります。

変化をたどる曲の一つが、1980年のホール&オーツのアルバム『Voices』に収められた「Everytime You Go Away」です。
ダリルはこの曲を、後年、ゲストとの共演でも、自分のピアノを中心にした公演でも歌ってきました。
まずは1980年のスタジオ録音。のちに相手や演奏の形が変わっても歌い続けた、一曲の出発点です。

最初から、二人の声が合っていたわけではない

ダリルの歌を振り返るとき、ホール&オーツは欠かせません。
ただ、ダリルとジョン・オーツは、出会った時点ですでに声の組み合わせが完成していたわけではありませんでした。
ジョンは、最初に一緒に曲を作った頃、二人の声はうまく混ざらなかったと振り返っています。

当時、ジョンはフォークの音楽に親しみ、ダリルはソウルを歌っていました。
単に高い声と低い声を重ねれば解決する話ではなく、二人が持ち込んだ歌の感覚そのものが違っていたのです。
ジョンは、1972年の「Lilly (Are You Happy)」の頃に、二人の声の使い方をつかみ始めたと説明しています。

その翌年の『Abandoned Luncheonette』には、二人で書いた「She’s Gone」が入ります。
ダリルは、この曲とプロデューサーのアリフ・マーディンの仕事を高く評価しています。
後年のヒット曲から二人を知ると、最初から相性のよい声がそろっていたように思えますが、そこに至るまでには、一緒に歌って使い方を探す時間があったのでした。

若いダリルの高音も、こうした曲や相手のいる場所で聴かれてきました。
どこまで高い音が出るかだけでなく、誰とどの曲を歌っていたかを知ると、昔の声を思い出す手がかりも増えます。

ダリル・ホールとジョン・オーツ
ダリル・ホールとジョン・オーツ。写真:Gary Harris / CC BY-SA 2.0

同じ曲を、別の相手と歌うようになった

1980年代のヒット曲は、その録音で覚えている人が大勢います。
一方、歌手には、何十年も同じ曲を歌う時間が続きます。
ダリルは、昔のヒット曲を繰り返すことへの疲れを語る一方、ソロの曲を改めて取り上げることや、別の歌手と共演することに楽しさを見いだしていました。

2007年に始まった『Live from Daryl’s House』は、その共演を継続して見られる場所になりました。
ゲストを迎えて、ダリルの曲とゲストの曲を一緒に演奏する番組です。
番組のたびに歌う相手が変わるので、同じヒット曲でも、いつものデュオやツアーとは違う歌になります。

「Everytime You Go Away」も、その一つです。
2016年にエル・キングを迎えた第77回では、1980年の録音とは違う相手と、この曲を歌っています。
冒頭のスタジオ版とこちらの共演版では、録音環境も伴奏も違います。それでも、ダリル一人の声を追う箇所と、もう一人の歌手の声を聴く箇所ができたことで、同じ歌を別の組み合わせで楽しめます。

ここで、二つの録音の音色の差をすべて年齢のせいにするのは早計でしょう。
一人で主旋律を歌うスタジオ録音と、ゲストと歌う番組収録では、歌手の役割も違います。
声が変わったかという問いに加えて、今回は相手とどう歌うのか、という問いが生まれているのです。

若い頃の録音を残したまま、同じ曲に別の歌唱が増えていく。
ダリルの活動を長く追う面白さは、昔の名曲を聴けることに加えて、その曲で次に誰と何をするのかを楽しみにできることにもあります。

高音は変わった。それでも、昔の曲を手放したわけではない

2023年、ハイド・パーク公演でのダリル・ホール
2023年、ハイド・パーク公演でのダリル・ホール。写真:Raph_PH / CC BY 2.0

2023年の日本公演では、若い頃と同じ高音ではないと指摘される一方、「Everytime You Go Away」は、グランドピアノを中心に、ゴスペル色を強めた演奏として評されました。
声の変化がある中で、曲をどう演奏するかも変えていたわけです。

さらに2025年3月のサンアントニオ公演評では、「Kiss on My List」「Private Eyes」「Rich Girl」と続くヒット曲で、ダリルが歌のメロディーを変え、ときには語るように歌ったことが伝えられています。
このとき、バンドの伴奏やコーラスが、聴き手になじみのあるフレーズを支えていました。ダリルが歌い回しを変える間も、バンドと一緒にヒット曲を聴かせていたのです。

昔の旋律をそのまま一緒に歌いたい人には、物足りないところもあるでしょう。
反対に、よく知っている曲だからこそ、歌い手が違う歌い方を試すのを面白く感じる人もいるはずです。
今の歌を評価するために、若い頃の高音を好きだった気持ちまで取り消す必要はありません。

ただし、こうした歌い回しの変更が、すべて年齢によるものだとは断定できません。
ダリルは以前から、曲の終わりなどで即興的に歌う人でした。
その歌い方は、ダリル・ホールの歌い方で、録音時のエピソードと共演の方法から詳しく見ています。

確かに変わった声があり、昔から変えることを好んできた歌い方もある。
近年のステージには、その二つが同時に表れています。
一音だけを取り出して昔と比べるより、一曲をどう組み立て直しているかまで見ると、今のダリルがしていることを捉えやすくなります。

今の声には、今の曲もある

ダリルは、過去のヒット曲だけを歌っているわけではありません。
2024年には、ソロ・アルバム『D』を発表しました。ソロの新作としては、2011年の『Laughing Down Crying』以来、13年ぶりです。
制作の中心になったのは、長年の友人であるデイヴ・スチュワートとの共同作業でした。

ダリルは『D』について、曲を書いたあとでアルバム全体に、自分がつらい状態から抜け出していく物語があると気づいた、と説明しています。
収録曲「Rather Be a Fool」も、本人にとって自伝的な歌でした。
若い頃の自分を再現するためではなく、その時点の自分の経験を歌う曲が、ここにはあります。

2025年6月27日放送の『Live from Daryl’s House』第91回では、デイヴ・スチュワート、ヴァネッサ・アモロッシと「Rather Be a Fool」を演奏しています。
アルバムを作った相手と新しい曲を歌う場面からは、共演を重ねる活動が、昔の曲だけに向けられたものではないことも分かります。

若い頃の歌には、今は同じようには出せない高音があります。
近年の歌には、同じ曲のメロディーを変える場面があり、声の柔らかさを好む本人の考えがあり、今の経験から書かれた新しい曲があります。
昔のダリルが好きだった人も、近年の一曲に耳を傾けるなら、「あの高音を出せるか」だけでなく、「今はこの言葉をどう歌うのか」を聴いてみたいところです。
「Everytime You Go Away」の歌い直しと「Rather Be a Fool」の新しい歌。その両方を歌っているところに、長く活動を続けてきたダリルの現在があります。

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