デイヴ・グロールは、大きな会場を歌声で引っ張る人です。
けれど、Foo Fightersの初期には、自分の声をミックスの奥へ隠したがっていました。
そこから歩みをたどると、叫ぶ力が増したというだけでは説明できない変化が見えてきます。
声を人前へ出すことに慣れ、静けさを表現の武器にし、合唱や裏声にも居場所を作っていった。
その一方で、荒々しく歌う楽しさも手放していません。
1995〜1997年、自分の声を隠したかった時期
1995年のファースト・アルバムへ向かう頃、デイヴは自分の歌声をまだ十分につかめていませんでした。
約一年半のツアーで歌いやすい範囲を知り、歌うことに慣れていったと振り返っています。
1997年の『The Colour and the Shape』では、ギル・ノートンとの制作が転機になりました。
声や歌詞への自信がなく、歌をミックスに埋めたがっていたデイヴは、彼の助けで不安を乗り越えていきます。
初期の転機は、使える音域が増えたという記録より、自分の声を聴き手へ差し出せるようになったことにあります。
歌を隠す側から、客席と共有する側へ。
その変化があってこそ、以後の大きなサビも、単なる音量以上の意味を持つようになります。
1999年、叫びが目立つ時代にメロディーへ向かう
三作目の『There Is Nothing Left to Lose』(1999年)では、メロディーを前に出しました。
当時のニュー・メタルの、静かなヴァースから大声のサビへ進む型に、デイヴは同じような響きを感じていたといいます。
そこで自分たちは穏やかな方向を選んだ。
「Learn to Fly」を含む時期の歌を、激しさを失った結果としてだけ捉えるべきではありません。
大きく叫べる人が、メロディーを選ぶ。
この順番が大切です。
穏やかな曲を、強く歌えない時の代用品にしていたわけではなく、どんな曲を届けたいかという制作の選択がありました。
後年の激しい作品を聴く時にも、この柔らかな側面を出発点から消さずにおきたいところです。
2005年、ロックの大音量と静かな歌を分けてみる
2005年の『In Your Honor』は、激しいロックと静かなアコースティックの二枚組になりました。
デイヴには、ラジオ向けの四分ほどの曲を作る枠から、もっと表現の幅を広げたい思いがありました。
静かな曲を一曲だけ添えるのでなく、一枚分の世界として用意したところに、この時期の踏み込みがあります。
「Virginia Moon」では、ノラ・ジョーンズとボサノヴァのデュエットへ。
デイヴは、できあがったメロディーに彼女の声が合うと考えて声をかけました。
ノラの側は、ロック・バンドとの共演だから激しい曲だろうと想像していたそうです。
実際に待っていた穏やかな歌は、共演者の予想さえ変えるものでした。
ここでは、いつもの強い声を少し弱めるだけでなく、歌が置かれる場所そのものが変わっています。
大きなギターに向かって声を張る人が、相手の声を思い浮かべながら一曲を組み立てる。
静かな側面をまとまった作品にしたことで、Foo Fightersの歌に求められる表情も広がりました。

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2007〜2011年、静けさと激しさを一曲の中へ
2007年の『Echoes, Silence, Patience & Grace』では、「Let It Die」が静かな導入から叫びへ進みます。
前作で二枚へ分けた世界を、一曲の中へ持ち込んだような構成です。
2011年の『Wasting Light』では、ガレージでテープへ録る制作が、再び大きなロックへ向かうきっかけになりました。
デイヴは、それまで約十年にわたりメロディーを追ってきたことを踏まえ、この環境とプロデューサーのブッチ・ヴィグなら、激しい作品を作るのが自然だと考えていました。
ただし、録音で聞こえる荒さを、すべて本人の喉の変化に置き換えることはできません。
「White Limo」では、マイクの声を歪みのエフェクターとギター・アンプへ通す方法が使われています。
声の出し方に加え、録音の作り方でも、歌の輪郭を荒くしていたのです。
穏やかになった後で、元へ戻った。
そんな一直線の見方より、静と動の置き方を作品ごとに変えてきたと考える方が、この時期のつながりを捉えやすくなります。
歌える範囲を広げたことが、激しい曲から離れ続けることを意味するわけでもありません。
2017〜2021年、声を重ね、裏声でも遊ぶ
2017年の『Concrete and Gold』では、グレッグ・カースティンと組みました。
デイヴは、彼がThe Bird and the Beeで作る旋律やハーモニーに惹かれ、自分たちの荒いギターと組み合わせようとしたのです。
タイトル曲では、Boyz II Menのショーン・ストックマンが何重にも声を録り、合唱の響きを作りました。
その経験から、ほかの曲でも声を積み重ねていきます。
この厚みは、デイヴ一人が大声を出した結果ではありません。
別の歌い手を迎え、複数の声を配置して、リードの周囲に大きな空間を作る。
一人の声の押し出しだけでなく、声同士の組み合わせへと、歌を大きくする方法が広がった時期です。
2021年には、Bee Geesの「You Should Be Dancing」で、ファルセットを前面に出しました。
本人にとって、それまでとは違う歌い方なのに、驚くほど歌いやすい経験だったといいます。
後悔交じりの冗談が出るほど、いつものロックの声とは別の可能性を楽しんでいました。
「You Should Be Dancing」/Studio 606でのライブ収録(2021年)。
このカバーはDee Gees名義の企画へ発展します。
デイヴは、最初の曲が楽しかったので翌日にも別の曲を録り、短い期間で形になったと振り返りました。
新しい歌手像を大仰に宣言するより、楽しんで試した声が、そのまま作品へ育っていったのです。
2023年の静かな別れ、その先の荒々しい声
2023年の『But Here We Are』は、テイラー・ホーキンスと母ヴァージニアを失った後の作品です。
「Show Me How」では娘ヴァイオレットとのハーモニーを置き、最後の「Rest」では、むき出しのデモを思わせる親密な歌から別れを伝えます。
大勢を鼓舞する声とは、違う近さが作品の中心に入りました。

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2026年の『Your Favorite Toy』では、再び荒々しいエネルギーが前に出ます。
一年以上、音や強弱を試す中でタイトル曲ができ、デイヴはアルバムの進む方向が見えたと説明しました。
「Caught in the Echo」は、自分の中で物事を整理しようとする対話から生まれた曲です。
勢いのある音の内側にも、自分へ向けた言葉があります。
タイトル曲では、歪ませたボーカルも特徴になります。
2023年の親密さから、2026年のざらついた響きへ。
声をどう録音して届けるかも、作品の違いに含まれます。
デイヴの歌は、静かになったり激しくなったりしながら、使える表現を増やしてきました。
初期に隠したかった声を、言葉の分かる声として前へ出す。
そこへ穏やかなデュエット、合唱の厚み、軽い裏声、身近な人へ語りかけるような歌が加わった。
今の叫びにも、そうした別の声を選んできた歴史が重なっています。
荒々しさを保ったまま、それだけで一曲を説明できない歌い手になったことに、デイヴの変遷の面白さがあります。
曲ごとの声の選び方は、デイヴ・グロール(Foo Fighters)の歌い方で掘り下げています。

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