デイヴ・グロールの歌というと、歪んだギターを押し返すような叫びが思い浮かびます。
ところが本人は、Bee Geesの高い裏声で歌ってみた時、意外なほど楽だったと驚いていました。
強く響く声だけが、本人にとって自然な声とは限らない。
その意外性を入り口に、静かな声、ファルセット、荒い声を、曲の中でどう選んでいるのかを見ていきます。
「Let It Die」は、小さな声から始まるから大きい
「Let It Die」の構成について、デイヴは、繊細なメロディーと指弾きから激しい叫びへ向かう対照を好むと話しています。
静かな導入では、本当にささやくような、話し声に近い歌にする。
そこから大きなクレッシェンドへ進むことを、曲のドラマとして考えていたのです。
最初から強い声で押し続ければ、終盤で増やせるものは少なくなります。
小さく始めると、聴き手が感じる声との距離も、最後の叫びが持つ大きさも変わる。
この曲では、終わりの声だけを切り出すより、そこへ向かう始まり方が重要です。
デイヴの強さは、強い声を出せることと、その声を出す場面を待てることの両方から生まれています。
本人は、この振れ幅を自分の性格にも重ねていました。
穏やかな時間も激しいものも楽しむ人だからこそ、一曲の中でも両方を表したかったのです。

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高い裏声は、叫びを細くした声ではない
「You Should Be Dancing」では、Bee Geesを思わせるファルセットで歌いました。
伴奏を録ってから声を入れたところ、本人は、これまでにない歌い方なのに、非常に容易に歌えたと驚きます。
いつもの歌を高く押し上げようとした話ではなく、曲に合わせて別の声を使った経験でした。
「You Should Be Dancing」/Studio 606でのライブ収録(2021年)。
この例が教えてくれるのは、高い音ほど一つの出し方で頑張るべきだ、という発想の狭さです。
デイヴらしさを叫びだけに限定すると、この軽い声は例外になってしまう。
けれど、曲がディスコの躍動を求める場面では、その軽さが役に立ちます。
同じ歌手の高音でも、欲しい響きが変われば、選ぶ声も変わるのです。
この企画を、デイヴは録音した中でもとても楽しい経験として振り返っています。
何かを証明するための難曲挑戦ではなく、気に入った曲を仲間と録る楽しさが先にあった。
声の選択を考える時にも、難しさを誇ることより、その曲をどう楽しみたいのかという出発点が見えてきます。
「White Limo」のざらつきには、録音の仕組みもある
「White Limo」のボーカルは、マイクを歪みのペダルへつなぎ、さらにギター・アンプへ通して録られました。
普段の歌を録る経路とは別の仕組みで、荒い質感を作っていたのです。
同じアルバムの「I Should Have Known」では、通常の声とこの加工した響きを混ぜる方法も使われています。
ここで区別したいのは、歌い手が出した声と、完成した録音で耳へ届く声です。
叫ぶ勢いに、機材が作る歪みが重なると、声の輪郭はさらに粗くなります。
完成音に近づこうとして、そのざらつきをすべて喉で再現する必要がある、と考えるのは適切ではありません。
デイヴの歌を理解するにも、声の身体的な出し方だけで一曲の質感を説明し切らないことが大切です。
また、加工された荒さと、歌の強弱は別々の選択です。
静かに始めるか、強く入るか。
録った声をどれほど歪ませるか。
この二つを分けると、「声が荒い」という一言の中に、いくつもの作り方があることが分かります。
厚い歌声のすべてが、デイヴ一人の声とは限らない
「Concrete and Gold」では、ショーン・ストックマンが合唱のために声を重ねています。
デイヴのリードの周りを、別の歌手の声が支える作りです。
曲が大きく聞こえる時、主役の声そのものが太くなったのか、周りに声が加わったのかでは意味が違います。
「White Limo」の歪みと同様、声の厚さにも録音の組み立てが関わる。
完成した一曲からデイヴの歌い方を考える時は、こうした声の役割も分けて捉えると、一人の発声へ過剰な力を求めずに済みます。
声を弱めた時には、言葉と相手が前に出る
デイヴは、アコースティックの曲では、歌も言葉もむき出しになり、隠れる場所がなくなると考えていました。
一方で、静まり返った場所で一人がギターを弾くことは、大会場の大音量と同じくらい強い体験にもなる。
小さい声を、迫力を失った声として扱っていないのです。
「Virginia Moon」でノラ・ジョーンズを誘った理由も、できた旋律に彼女の声が合うと思ったからでした。
ロックを想像していたノラを前に、デイヴ自身も緊張したと、後の二人の対話で振り返っています。
いつもの主役の声で場を押し切るより、この旋律を誰と歌えばよいか、という考え方が見えます。
静かな歌では、声の小ささそのものが目的なのではありません。
大きな音の後ろへ隠れず、メロディーや言葉、もう一人の声との関係を届けるために、響きの規模を変える。
そのため、「Virginia Moon」をロック曲の弱い版として聴くより、二人で成立させる別の歌として捉える方が、デイヴの選択をつかめます。
叫びの中でも、言葉を客席へ渡す
ギル・ノートンが求めた明瞭な歌い方に、デイヴは最初、納得していませんでした。
後に観客が一緒に歌う姿を見て、言葉を届ける意味を実感します。
声が大きければ、言葉まで届くとは限りません。
聴き手が一緒に歌えるフレーズには、勢いだけでなく、受け取れる言葉と覚えられる旋律があります。
デイヴの歌を、叫び声の迫力だけで説明すると、客席が歌い返す部分が抜け落ちてしまう。
前に出る声でありながら、聴き手にも歌う場所を渡すことが、彼のロックの歌を支えています。

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「Rest」で、声の大きさと感情の大きさが離れる
「Rest」の冒頭には、飾らない録音を思わせる、近い距離の歌があります。
最後も、力いっぱい歌い上げるより、ささやくような声が残る。
母と仲間を失った後のアルバムを閉じるこの曲では、親密さが大きな役割を持っています。
感情が強いから、声も常に強くなるとは限りません。
むしろ声が小さくなることで、言葉が個人的なものとして届くこともある。
「Let It Die」では静かな始まりが叫びを大きくし、「Rest」では最後の小さな声が別れの近さを残す。
似た声の大きさでも、一曲の中で担う役割は違っています。
デイヴの歌い方を追うなら、どこまで高く強く出るかと一緒に、どこで強い声を選ばないのかにも注目したいところです。
軽い裏声で曲の楽しさを引き出し、歪ませた録音で荒さを足し、静かな声で言葉を近づける。
その選択の幅があるから、最後に大きな声が出た時にも、それがただの音量ではなく、一曲の中で起きた出来事として届くのです。
声の使い道を広げてきた歩みは、デイヴ・グロール(Foo Fighters)の歌唱変遷でたどっています。

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