坂本英三の歌には、一声で空気を変える迫力があります。
けれども、その印象だけで歌い方を捉えると、旋律を運ぶ声や、曲の中で引く判断が見えにくくなります。
高い声を出す瞬間と、その前後の言葉をどう歌うか。
二つを一緒に見ると、メタルからアコースティックまでつながる歌の面白さが分かります。
1987年のアルバム音源(2005年再発盤)。
鋭い声を、旋律の外へ投げ出さない
「Bound to Break」のサビは、簡潔な旋律を強く印象づける歌です。
複雑な音の動きで埋めるよりも、声の勢いとフレーズのまとまりが要になります。
坂本の激しさは、旋律をなくして叫び続けることとは違います。
2013年7月のANTHEM公演でも、「Road to Nowhere」の歌は、鋭さを持ちながらメロディーを失わないものとして捉えられています。
さらにサビのコーラスが加わり、歌はバンド全体の厚みの一部になります。
単独の高音だけでなく、ほかの声や楽器の中に、歌の形が残るところが大切です。
鋭い声と、言葉が届かなくなる声は同じではありません。
歌の強さを考えるときは、最高音だけでなく、そこへ向かう旋律や、サビの言葉がどんなまとまりで残るかも手がかりになります。
一瞬の衝撃と、一曲を覚えさせる力は、別々に働くからです。
バラードでは、声の熱を長く保つ
『BLACK EMPIRE』では、表題曲の強い歌唱と、バラード「Walk Through the Night」の感情の深さが対照を作ります。
同じ歌手の熱が、速度のある曲では勢いに、バラードでは旋律を運ぶ表情になります。
静かな曲を、力のある声の休憩時間と捉える必要はありません。
「Still Loving You」を歌った2001年のCLASSIC ROCK JAMも、その側面を考える例です。
会場を引き込んだのは、シャウトの一発だけではなく、バラードを歌い上げる一曲分の表現でした。
強さを持つ声だからこそ、その力をどんな長さで届けるかが、歌の印象を変えます。
激しい声を知っている聴き手は、次にどこまで感情が開くのかを待つこともできます。
その期待を保ちながら旋律を運べば、ずっと同じ強さで押さなくても曲は前へ進みます。
坂本の歌を楽しむうえでも、声が頂点へ届く瞬間と、そこまでの時間を分けずに受け止めたいところです。
シャウトを控えて、相手の旋律を立てる
哀旋士の『HEARTSTRINGS』について、坂本は、前奏と終奏ではシャウトをあまり入れず、屍忌蛇のギターを生かしたと話しています。
歌が始まったら自分が哀愁を担い、またギターへ渡すという役割分担です。
声を出していない時間にも、歌手としての判断があります。

画像出典:画像掲載元
この作品のギターは、叙情的な旋律を大きな魅力としています。
「グランプリの鷹」や「誰がために」を、勢いだけの曲として扱わない背景がそこにあります。
歌が前へ出る部分と、ギターが感情を引き継ぐ部分を合わせて、一曲の表情になるのです。
空いている場所をすべて声で埋める必要はありません。
相手に任せた後で歌い始めると、声の登場そのものが場面の変化になります。
シャウトの多さだけを数えるよりも、その声が何を受け取り、次へ何を渡すかを見る方が、歌の設計を捉えやすくなります。
アコースティックでも、歌はリズムから離れない
坂本はギター伴奏で、歌い手が歌いやすくなる呼吸やタッチを重視しています。
「Shout! Smile! Shine!」にも、ハードロックのビートを持ち込みます。
伴奏が小さくなっても、歌の中の勢いまで小さくするとは限りません。
曲作りでも、坂本が重んじるのはリズムです。
スペイン語で歌う「焔」「いにしえ」では、意味だけでなく、その言葉の音やリズムにも魅力を感じていました。
何を歌うかと同時に、言葉がどう動くかを考えている人です。
歌を教わったサトニイは、自作曲を坂本が実演した際、サビを少し早めに入り、巻き舌を交える歌い方へ変えたと記しています。
これは特定のレッスンでの例ですが、声の強弱以外にも、言葉の入り方で曲を動かす選択があることが分かります。
フレーズをどこから始めるかによって、同じ旋律でも、前へ進む感じや落ち着き方は変わります。
坂本の歌を高音の能力だけで説明しきれないのは、こうした言葉とリズムの関係も表現に含まれるためです。
音の高さだけでなく、歌が伴奏へどう乗るかに目を向けると、違う面が見えてきます。
熱唱の横に、ささやきや笑いも置く
「Romance Promnade」の間奏には、ギターソロに代えて台詞を入れました。
歌い続ける以外の声も、曲の表情に使っているのです。
坂本自身は、熱く歌う、強く叫ぶ、色気を含んでささやく、時にはコミカルにするという選択を挙げています。
曲ごとに表情を変えながらも、聴いた人には坂本英三と分かる声であること。
激しさを唯一の正解にしていないところが、その説明からも伝わります。
2018年のアコースティック公演には、「Heavenly Days」や「ロマンスプロムナード」と、練馬マッチョマンの曲が同居していました。
会場を和ませるやり取りも含む場で、坂本は一つの強い表情だけを保つ必要がありません。
近い距離で歌を聴く機会は、こうした親しみのある面にも触れられる時間です。
一方、JAM Projectでの経験を振り返る坂本は、個々の能力に加えて、全員で歌うときのバランスを高く評価しています。
一人の声が目立つことと、声が集まって大きな歌になること。
その両方を経験してきたことも、歌う相手や場を選ばない活動につながっています。
強い声を、いつでも出せる声と思い込まない
手術後の復帰では、坂本も低いキーの曲から段階を踏み、激しい曲やシャウトへ進んでいます。
客席へ届く強烈な声の背後にも、その時の自分が歌える範囲を確かめる過程がありました。
声の迫力を、無条件に負担のない発声の証拠と考えることはできません。
2018年にANTHEMのメンバーと再び演奏した際には、一人の練習と、バンドの音を受けて歌う場との違いも語っています。
声は単独で完成するものではなく、相手の演奏やステージの緊張の中で使うものでもあります。
坂本英三の歌の面白さは、強い声を持っていることと、その声を使う場を選ぶことが共存している点にあります。
旋律を保つ、ギターへ譲る、言葉でリズムを作る、近い距離では別の表情を見せる。
その選択まで含めると、シャウトは歌全体の中で、さらに意味のある一声になります。
こうした表現が広がってきた過程は、坂本英三(ANTHEM/アニメタル)の歌唱変遷でたどれます。







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