ポルカドットスティングレイの「JO-DEKI」は、「テレキャスター・ストライプ」と同じテンポで作られている。
雫が、現メンバーでの出発点になった曲を意識したからだ。
ところが、2016年の曲と2024年の曲では、歌の中で話す人物が違う。
前者では聴き手が自分を重ねられる言葉を選び、後者では雫自身の怒りと再出発を歌った。
その間には、歌いやすい曲を自分が歌う難しさも、観客の前で歌って初めて見つかった表現もあった。
誰に届けるかを考えてきた雫が、自分の気持ちをそのまま歌にするまでをたどってみたい。
2016年、ポップに届けるために選んだ言葉と声
「テレキャスター・ストライプ」は、雫の恋愛経験をそのまま歌った曲ではない。
2016年の取材では、ヒットチャートに並ぶポップソングについて書き、恋愛とも受け取れる言葉を意図して入れたと明かしている。
まずメロディーを覚えてもらい、歌詞の一部分にそれぞれの聴き手が反応してくれればいい。
意味を一つに決めすぎないことも、届け方の工夫だった。
一方で本人は、何も考えずに作ると暗いメロディーや歌詞になりやすいとも話していた。
自然に生まれる曲調と、広い層へ届けたい音楽の間には距離がある。
ロックバンドをよく聴く人だけに向けず、ポップスを好む人にも届く存在になりたいという目標が、明るく入りやすい形を選ぶ理由になっていた。
同年の『骨抜き E.P.』では、その工夫が歌声にも及ぶ。
雫はバラードが苦手で、ゆっくりした曲を聴くと眠くなるという。
それでも「心ここに在らず」では、自分も楽しめる曲にしようとリズムを弾ませ、収録曲の中で最も声を張ったと説明している。
演奏側も、歌のための場所を考えていた。
ウエムラユウキは、同曲のベースでは音を詰めすぎず、ボーカルを邪魔しないことを意識したという。
曲をゆっくりにするだけでバラードを作るのではなく、声を前へ出す歌い方と、それを支える演奏を選んでいたのだ。

写真出典:Billboard JAPANの本人取材
2017年、みんなで歌える曲と、新しい声色への挑戦
2017年の『全知全能』では、聴き手の広がりが歌作りに影響する。
雫は、学生や若い女性のファンが増えたと話し、以前よりも皆で歌える曲を意識して増やした。
早くから新しいバンドを見つける音楽好きへ届くことに加え、サビを覚えて一緒に歌ってもらうことが、大切な狙いになった。
その具体例が「ショートショート」だ。
同年11月のラジオでは、普段の自作曲は音程の上下が激しいが、この曲はカラオケを意識し、真っすぐ歌うことを心がけたと明かしている。
歌ってすっきりする曲にしたかったのに、本人の録音はかえって難しかった。
聴き手が歌いやすいように作ることと、自分が慣れた歌い方で歌えることは、同じではなかったのである。
同じアルバムには、声の使い方を広げた曲もある。
「サレンダー」では、息を多く含ませた大人っぽい歌い方に挑んだと本人が説明している。
本人が弾きながら歌うのも難しいと話した曲で、歌とギターの演奏の両方に挑戦があった。
初期の「心ここに在らず」で声を張った選択に、新しい表現が加わっている。
「フレミング」では、さらに声をリズム楽器のように乗せ、ラップに近い歌い方を試した。
こちらも息を多く使う表現に挑んだ曲で、弾むリズムの中へ歌をどう置くかが課題になっている。
「ショートショート」で歌の運びを素直にする一方、別の曲では声色とリズムの選択肢を増やす。
一枚の中で、届きやすさと歌唱の新しい試みを同時に進めていた。
「ラブコール」は、録音前のライブで歌い方が変わった
雫は、架空の主人公を細かく決めて曲を書く人だ。
年齢、仕事、一人称まで設定する方法は、ゲームのシナリオを書く経験とも結びついている。
そんな雫に、自分自身のことを歌ってほしいと求めたのがファンだった。
2019年の『有頂天』に入る「ラブコール」は、聴きたい歌詞を尋ねたアンケートがきっかけになっている。
この曲では、歌詞だけでなく録音する歌も、聴き手とのやり取りによって変わった。
2018年末の東京公演で先に披露した時点では、まだ本番の歌を録り終えていなかったという。
仮歌ではきれいに歌っていたが、ライブを経て歌い方を変えたと、雫は翌年の取材で明かしている。
客席が盛り上がる箇所や表情を先に知れたことが、その後の録音に役立ったのだ。
「ラブコール」公式配信音源(『有頂天』、2019年)。
頭の中で想定した聴き手が、目の前の観客になったことで、完成させる歌も変わる。
自分を歌った曲を誰へ渡すのか、実際の反応を受け取ってから録音へ戻った点が、この曲の大きな出来事だった。
以下は、その先の2019年7月17日、日本武道館での「ラブコール」である。
2020年の「FREE」にも、ファンへ向けた本人の思いがある。
当時はコロナ禍でタイアップの依頼も止まり、雫は不安になっているかもしれないファンへ曲を出そうと考えた。
普段のように要望を細かく集めることを控え、自分の考えを歌詞にし、メンバーの楽器の音で構成したという。
部屋で一人で聴く人にダンス曲を届けることにも、意味を感じていた。
二曲とも、本人の気持ちを歌うために、架空の主人公を用意する必要はなかった。
ただ、その先には思いを渡したいファンがいた。
2024年の「JO-DEKI」では、さらにその出発点が変わる。
2024年、原点と同じ速さで、自分自身を歌う
「JO-DEKI」が生まれた背景には、バンドを支える体制の変化があった。
雫によれば、以前は制作以外の仕事を補う負担が増え、曲を書く時間が取れなくなっていたという。
作りたい曲が浮かばないのではなく、作るための時間を確保できない。
2023年末から2024年初めにかけて体制が変わり、制作へ集中できる環境を取り戻した。

写真出典:Billboard JAPANの本人取材
新しい曲で向き合ったのは、外から受けた理不尽さだけではなかった。
納得していないのに受け入れてしまった自分にも、雫は腹を立てていたという。
「ラブコール」や「FREE」のようにファンの求める思いを伝える曲とも違い、今回は人がどう受け取るかを気にせず、自分から出た言葉を書いた。
本人が初めての完全な自分語りと位置づける理由は、ここにある。
作詞の進み方も普段と違った。
サビのメロディーを鼻歌で歌い、同じ言葉を繰り返したいと考えたとき、「上出来」という言葉が浮かんだという。
そこから歌詞は一気に進み、普段は時間のかかる作業が驚くほど早く終わった。
主人公の資料を先に用意する作り方から、メロディーに自分の言葉が乗っていく作り方へ変わったのだ。
「上出来」は、自分を無条件に褒める言葉でもない。
過去の判断への悔しさと、これからは自分で選んで進めるという前向きさが、一緒に込められている。
雫は、歌詞だけを見れば気恥ずかしくなるところもあるが、メロディーや音に合っているため、音楽として好きな曲だと話している。
感情を吐き出した実感と、曲としての手応えが両方あった。
原点へ戻る意識は、曲調にも現れた。
「テレキャスター・ストライプ」と同じBPMを選び、音使いにも共通する要素を求めた。
MVにも過去の衣装や小道具を登場させている。
かつて聴き手が入り込めるように作ったポップな形で、今度は自分の気持ちを歌う。
同じ速さに戻った二曲は、雫が歌の主語を変えたことを示している。
続く「アウト」は、「JO-DEKI」と同時期に作られた曲だ。
激しい言葉と大きなコーラスを持つ、まっすぐなロック曲で聴き手を驚かせたかったと本人は話している。
ここでは、自分の本音を語ることよりも、ポルカが意外と試してこなかった曲調に挑む狙いがあった。
雫は同年の取材で、人から求められたものを作る楽しさを、これからも大切にしたいと語った。
「ショートショート」では一緒に歌う人を考え、「ラブコール」では目の前の反応から歌い方を変えた。
そうして聴き手に向き合ってきた人が、「JO-DEKI」では自分の言葉を先に出した。
原点と同じテンポに戻りながら、そこでまだ歌わなかった自分を前へ出したことに、この曲の転機がある。
曲の中で声やリズムをどう選ぶかは、雫の歌い方で詳しく扱う。

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