坂本英三といえば、天井を突き抜けるようなシャウトを思い浮かべる人は多いでしょう。
ANTHEMの鋭い歌、アニメタルのヒーローソング、ギター一本で届けるソロの歌。
その歩みには、強い声を磨くだけでは説明できない変化があります。
声をどこで解放し、どこで控えるかを選び、歌う場そのものを広げてきた人です。
憧れた声を、自分の声で出してみるところから
歌い手を志したきっかけは、イアン・ギランのシャウトでした。
レコードをまねて声を出し、自分にもできたことに驚いたと振り返っています。
その後ANTHEMでデビューし、1987年の脱退後には、違うジャンルの歌や作曲、ギターにも取り組みました。
声の得意技を得た後も、音楽の関心は一つに閉じていません。
1985年の『ANTHEM』、翌年の『TIGHTROPE』、1987年の『BOUND TO BREAK』が、最初の在籍期の三作です。
後の森川之雄が歌った作品と混ぜずに、この三作を一つの出発点として捉えると、坂本の歩みが追いやすくなります。
『BOUND TO BREAK』では、速度と歌の引っかかりが結びつきます。
表題曲の簡潔なサビを押し出す熱い歌唱や、「Empty Eyes」で少し入り組んだサビを担う歌には、強さと旋律の両方が必要です。
高い声の一撃だけを抜き出すと、この時期から持っていた歌の役割を見落としてしまいます。
1987年のアルバム音源(2005年再発盤)。
アニメタルで、叫びがヒーローの歌と結びつく
1996年に始まったアニメタルは、アニメや特撮の歌をメタルの編成で取り上げる企画でした。
坂本の声が向かう先に、メタルのファンだけでなく、その主題歌を知っている人たちが加わります。
1998年の『アニメタル・マラソン3〜円谷プロ編〜』には、「ウルトラマンの歌」や「ウルトラセブンの歌」などが並びます。
そこでシャウトは、ヒーローの勇ましさと結びつく声として評価されました。
懐かしい旋律に鋭い声が入ることで、記憶の中の歌が、目の前で闘うような熱を帯びるのです。
その広がりは海外でも起こりました。
2004年に初めてブラジルへ渡った坂本は、後に、中南米の観客がシャウトに沸く一方で「永遠の未来」を一緒に歌ってくれた経験を書いています。
声の激しさを喜ぶことと、歌そのものを共有することが、同じ会場にあったのです。
再結成ANTHEMでは、別の時代の曲も自分の歌へ
2001年、坂本は再結成ANTHEMの『SEVEN HILLS』に参加します。
「Grieve of Heart」「The Man with No Name」など、新しい曲を歌う体制での復帰でした。
昔の代表曲を再演するだけではなく、新しいレパートリーを増やす時間が、ここから再び始まります。
同年のCLASSIC ROCK JAMでは、レインボーの「Stargazer」とスコーピオンズの「Still Loving You」を歌っています。
長い物語を持つ曲と、感情をじっくり運ぶバラード。
早くから、大きな声を一瞬響かせることとは違う長さの中でも、歌を引き受けていました。
2010年の『PROLOGUE 1』『PROLOGUE 2』では、森川が歌った『GYPSY WAYS』『HUNTING TIME』の全曲再現にも挑みます。
坂本は別の歌手の時代の曲を、自分の歌として消化していたと評されました。
二日間で多くの曲を歌う公演でもあり、声の魅力を一曲の見せ場だけで語れない充実が見えます。
ここで広がったのは、歌える曲の数だけではありません。
自分が最初に歌った曲と、別の声で知られる曲とを、一つのステージで引き受ける役割です。
初期の自分を再現するだけでは届かない、バンドの長い歴史との関わり方でした。

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ギター一本でも、力強さを手放さない
2013年の『アコギハンサムマン1』では、自分で弾き、自分で歌う表現が前へ出ます。
坂本は、アコースティックだからといって穏やか一辺倒にせず、力強く歌う方針を話していました。
一方で、その編成ならではのくつろいだ歌い方も探っています。
小さな編成になれば、その人の声は、伴奏との関係をいっそうはっきり見せます。
声を張るときも、言葉を近くへ届けるときも、すぐ隣にあるのは自分のギターです。
バンドの音量を小さくしただけの演奏ではなく、歌の居場所を自分で作る表現として見ると、この活動の意味が分かります。
2018年の「ブレス オブ ヒーロー」では、永野CAP啓司のギターとともに、「Shout! Smile! Shine!」や「Heavenly Days」、練馬マッチョマンの曲まで披露しています。
アコースティックの場は、メタルで知られる顔の横に、恋や笑い、親しみを含む歌を並べられる場所にもなりました。
2018年「ブレス オブ ヒーロー」の公演ダイジェスト。
哀旋士では、叫ばない場所にも意思がある
同じ2013年、屍忌蛇と組んだ哀旋士では、声の配置を変えています。
坂本は『HEARTSTRINGS』の前奏や終奏でシャウトを控え、そこをギターの世界にしたと説明しました。
歌の部分で哀愁を受け持ち、再びギターへ渡すという考え方です。
「グランプリの鷹」「誰がために」などを収めたこの作品で大切なのは、激しさの中にある叙情的な旋律です。
声とギターがともに前へ出続けるより、それぞれが歌う時間を持つことで、曲の悲しさや勇ましさが伝わります。
これは、シャウトを減らせば落ち着いた歌手になる、という話ではありません。
強い声を持ったまま、使う場所を選ぶ。
その選択が、声の迫力とは別の表現の幅を作っています。
言葉を変える挑戦と、歌を取り戻す時間
2014年の『Heavenly Days』では、「焔」と「いにしえ」をスペイン語でも歌いました。
難しさはあっても、その言葉の音とリズムが好きで、歌うことに今後の可能性を感じたと話しています。
活動する国が増えただけでなく、自分の声を乗せる言葉も変えようとしていたのです。
その後、2016年11月には声帯の白板症を除去する手術を受けています。
本人が記した復帰の過程は、低いキーのアニメソングから始まり、バンドでの歌やアコースティック公演、さらにシャウトの多い曲へと、少しずつ進むものでした。
2017年6月から現場へ戻った歩みには、歌えることを確かめ直す時間がありました。

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2018年、柴田直人の還暦公演に参加した際も、坂本は歌えるかという不安を抱えていました。
リハーサルでバンドの音を受け、一人での練習とは違う緊張の中で歌ったと振り返っています。
復帰は日付一つの出来事ではなく、相手の演奏と向き合って歌を確かめる過程でもありました。
同年には『アコギハンサムマン2』に続き、バンド編成の『赤い山脈』も制作しました。
「Crazy Fire Dance」や表題曲を収めた後者では、ボーカルとギターのすべてを自分で担当しています。
声を取り戻した後、進む方向を一つに絞ったわけではありません。
ギター一本の活動と、バンドの音の中で歌う活動を、再び自分の手元に置いています。
昔の声だけを、現在の正解にしない
2026年の坂本は、若い頃にはできて今はできないことも、その逆もあると話しています。
その時点で最もよい歌を届けるという姿勢です。
本人の捉え方にも、若い声へ戻ることだけを目的としない視点があります。
同年、アニメタルは再始動し、過去の未配信音源や未公開だった映像も公開されました。
昔の記録が新しく見られるようになることと、今の坂本がステージで歌うことは、分けて受け止めたいところです。
坂本英三の変遷は、叫びを捨てて別人になる歩みではありません。
強い声をどんな旋律へ向けるか、誰の音を受け取るか、今の自分に何ができるかを選び直す歩みです。
その選択を曲ごとに見ると、よく知られたシャウトの周りにも、長く積み重ねてきた歌が見えてきます。
声の使い分けは、坂本英三(ANTHEM/アニメタル)の歌い方でも掘り下げています。







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