フィリックス/Felixの歌唱変遷|低音の役割を広げ、話しかけるソロへ

Rolling Stone UKの2024年公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kosmas Pavlos) シンガー
Rolling Stone UKの2024年公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kosmas Pavlos)

フィリックスは、自分の声を、Stray Kidsの中のベースギターのようなものと捉えています。
同じ楽器でも、扱い方によって違う感じを出せる。
低い声を持つことに加え、その声からどれだけ違う表情を引き出せるかが、本人の課題でした。

ソロ曲「Deep end」で試したのは、相手へ話しかけるように始める歌。
その後の共演や新曲にも目を向けると、低音の存在感を保ちながら、声が担う役割を広げてきたことが見えてきます。

「ReawakeR(feat. Felix of Stray Kids)」―2025年発表曲の公式MV

2021年、低い声の中で、新しい使い方を探す

2018年に韓国でデビューしたStray Kidsのメンバーとして、フィリックスは、グループの歌とラップを担ってきました。
GQ Koreaの2021年の取材で話していたのは、曲に合う感情を考え、声の色や音の高さを意識して録音することです。
すでにこの時点で、新しい声の使い方を探し始めていると説明していました。

GQ Koreaの2021年7月公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kang Hyewon)
GQ Koreaの2021年7月公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kang Hyewon)。
画像出典:写真掲載元

特徴のある声を、そのまま毎回出せばよいわけではない。
ベースギターになぞらえた本人の言葉からは、グループの中での自分の役割を理解したうえで、表現の種類を増やそうとする意識が伝わります。

2024年のRolling Stone UKの取材記事でも、Joseph Kocharianは、3RACHAがフィリックスの低い声を効果的に使い、グループの音の柱にしていると捉えています。
低音の個性は、本人の印象を残すと同時に、曲を組み立てる側にとっても重要なものでした。

2022年、「Deep end」で話しかける歌を選ぶ

2022年12月の『SKZ-REPLAY』には、メンバーそれぞれが制作したソロ曲が収められました。
フィリックスの「Deep end」も、その一曲です。
JYPの作品紹介では、失恋後の感情を、淡々とした声で表す曲として紹介されています。
収録情報は、『SKZ-REPLAY』の公式作品ページでも確認できます。

作詞・作曲に熱心なメンバーたちの姿を見ながら、自分も制作へ参加し、少しずつ経験を積む。
その中で、自分だけの歌も作ってみようと思ったと、フィリックスは翌2023年のGQ Koreaで振り返っています。
無理に形を急がず、自然に聴ける曲を目指したところ、歌詞は2〜3日、曲全体は約1週間で出来上がりました。

歌にしたのは、過去に傷ついた心を、少し距離を置いて見つめ直す経験でした。
本人は、当時を思い出して今も落ち込むというより、その頃の気持ちを覚えているから表現できたと説明しています。
オーストラリアで育つ中、友人とけんかしたり、通う学校が変わって疎遠になったりした記憶も、曲を考える材料になりました。
自分の感情を言葉にすることは、同じ気持ちを知る人へ届く歌を作ることでもあったのです。

その歌い出しは、本人の意思で選ばれたものでした。
同じ取材で、フィリックスは、伴奏なしで、本当に相手へ話すように始めたかったと説明しています。
曲全体にはピアノが合うと考え、共作したシム・ウンジへ演奏を頼みました。

GQ Koreaの2023年11月公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kim Hee June)
GQ Koreaの2023年11月公開取材に登場したフィリックス(撮影:Kim Hee June)。
画像出典:写真掲載元

それまで明るく勢いのある曲を多く歌ってきたため、この曲では、まったく違う方向へ行きたかったといいます。
目指したのは、深い海へ落ちていくような心の状態を、歌で表すことでした。

低音で強く印象づける場面から、一人の相手へ言葉を差し出す場面へ。
「Deep end」では、自分の声を目立たせるだけでなく、その声で一曲の感情を運ぶための歌い方を選んでいます。

「Deep end」―2022年発表曲(公式曲集の37分9秒から)

2024年、「Unfair」で別の人生にも声を重ねる

2024年12月の『合(HOP)』には、ソロ曲「Unfair」も収録されました。
2025年のEsquire Koreaの取材で、本人が明かした題材は『美女と野獣』です。
妹との会話をきっかけに映画を見直すと、子どもの頃には分からなかった登場人物の状況を、今なら理解できると感じました。
自分が野獣だったら何ができたか、ベルはどんな存在なのか。
物語を自分の表現で語るために、そうした想像を重ねていったのです。

「Unfair」―2024年発表曲の公式SKZ-PLAYER映像

聞き手が「Deep end」との違いを尋ねると、フィリックスは、共感するという点ではつながっていると答えています。
過去の自分の感情をたどることも、自分とは違う人生を想像することも、その気持ちを歌にして他者と分かち合うためでした。

歌唱では、声を多彩に動かしながら、自然に伝えることを課題にしています。
本人によると、「Unfair」はかなり練習を重ねた曲でした。
声の変化そのものを披露するだけでなく、その変化が一曲の感情につながるように準備する。
2021年に話していた声の表情を増やす課題が、ここではソロ曲全体の物語を担う取り組みになっています。

2025年、LiSAの高音と並ぶ低音になる

2025年には、LiSAの「ReawakeR(feat. Felix of Stray Kids)」に参加しました。
作編曲は澤野弘之。
テレビアニメ『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』のオープニングテーマです。

二組には、Stray KidsがLiSAを迎えた「Social Path(feat. LiSA)」での共演がありました。
今回はLiSAがフィリックスを招く側になります。
韓国原作のアニメという接点もあり、以前から考えていた再共演を形にする機会になったといいます。

Billboard JAPANの取材で、LiSAは、自分の高音とフィリックスの低音によって、大きな対照を持つ曲になったと話しています。
また、歌い上げる声にラップが並ぶ組み合わせも、自分名義の曲では新しい経験でした。

ここでの低い声は、曲の中へ強い印象を残すだけでなく、もう一人の歌い手との違いを作る役割も担っています。
ソロで自分の感情を運ぶ時とも、グループの一節を担う時とも、声が置かれる関係は異なります。
共演によって、自分の声が相手の声とどう並ぶかを示す機会になりました。

2026年、「Slow It Down」で立ち止まる時間を歌にする

2026年9月には、ソロ曲「Slow It Down」を発表します。
ソニーミュージックの公式コメントで、本人は、アコースティックギターのループとヒップホップのビートを組み合わせた曲だと説明しました。
速く流れる世界の中で、大切な人との時間や夢を振り返るため、少し立ち止まろうという思いを込めています。

「Slow It Down」―2026年発表曲の公式SKZ-PLAYER映像

「Deep end」で個人的な感情へ向かったソロの表現は、ここでは聴き手が足を止める時間を作ろうとしています。
どんな音の中で、何を伝えるために自分の声を使うか。
その選択を広げてきたところに、フィリックスの歩みがあります。

声の色や高さの選び方、発音への意識、相手の声との対照は、フィリックス/Felixの歌い方で取り上げています。

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