ジョングクの歌唱変遷|話し声の発見と、ソロで広がった声の選択

ジョングク(2021年のWeverse Magazineインタビューより) シンガー
ジョングク(2021年のWeverse Magazineインタビューより)

ジョングクは、自分の過去の歌を聴き、声をきれいに作ろうとし過ぎていたと感じることがあると話しています。
そこで試し始めたのが、話す時に近い、自分の声を生かして歌うことでした。
高い音や技巧を増やすだけでなく、どこまで声を飾るかも、歌を変える課題になったのです。

BTSで歌い続ける中で身につけたリズム、ガイドの歌を自分の声へ置き換える判断、ソロ曲での英語の歌唱。
2020年の「My Time」から、2023年の『GOLDEN』へ至る転機をたどると、ジョングクが声の選び方を広げてきたことが見えてきます。

「Seven (feat. Latto)」―2023年発表曲の公式MV

2020年、「My Time」に表れたリズムと声の表情

2013年にBTSのメンバーとしてデビューしたジョングクは、グループの曲の中でも、ソロ曲でも歌を担ってきました。
2020年の『MAP OF THE SOUL : 7』に収められた「My Time」は、その時点での表現を知る一曲です。

音楽ライターのRandy Suhは、Weverse Magazineで、この曲に、それまで磨いてきた技量が表れていると評しています。
ビートに対して声をずらすところ、力を緩めるところ、強く出るところを選び、曲の感情につなげているという見方でした。

「My Time」―2020年発表『MAP OF THE SOUL : 7』収録曲の公式音源

ここで評価されているのは、高音が届くかどうかだけではありません。
同じメロディーでも、どこで力を込め、どこで流れを緩めるかによって、歌の印象は変わります。
ジョングクの声は、リズムを通して感情を伝えるものとしても受け取られていました。

2021年、参考にする声から、自分の声へ

ジョングク(2021年のWeverse Magazineインタビューより)
ジョングク(2021年のWeverse Magazineインタビューより)。
画像出典:写真掲載元

世界的な成功が、そのまま本人の手応えになっていたわけではありません。
2021年の取材でジョングクは、BTSの成長に自分が追いついていないように感じ、プレッシャーを抱いていると話しました。
「Dynamite」も、望んだ表現をすべてできたとは思っていませんでした。
リミックスを聴いて歌い方のアイデアが浮かび、もう一度歌い直したくなることがあったそうです。

自分の歌を探すために続けていたのが、ほかの歌手の声や歌い方をたくさん聴き、自分ならどう歌うかを考えることでした。
誰かがこの場で歌ったらどう聞こえるかを思い浮かべ、それを自分の声へ移してみる。
他の歌を聴くことも、自分の声を探す過程になっていました。

その過程も、上達するばかりのものではありませんでした。
練習や録音を重ねる中で変化を感じても、急に思い通りに歌えなくなり、また別の歌手の歌を探したり、先輩に尋ねたりすることがあったといいます。
参考にする声は、完成した自分の歌へ飾りを足すためだけでなく、行き詰まった時に探り直す手がかりにもなっていました。

ただ、参考の歌い方をそのまま再現することが、いつも答えになるわけではありませんでした。
「Permission to Dance」では、ガイドの歌唱を追うより、自分の歌いたい感じを選んだといいます。
導入部については、プロデューサーのPdoggからも、自分の声とスタイルで行けばよいと言われました。

「Permission to Dance」―2021年発表曲の公式MV

ほかの人の歌い方を捉える力があるからこそ、その通りには歌わない判断も必要になる。
この時期のジョングクは、参考にした声と自分の声との距離を考えていました。
上手に似せることから、曲に合う自分の歌を選ぶことへ、意識が向いています。

2022年、声を飾り過ぎずに歌ってみる

翌2022年、『Proof』の取材で、ジョングクは、声を作り込むこととは別の課題を語っています。
それまでは録音できれいに聞こえる声へ意識を向けていたが、話す時に近い声でも、良い歌として聞かせたい。
声の飾りを少なくし、まっすぐな気持ちを込めようとしていました。

ジョングク(2022年のWeverse Magazineインタビューより)
ジョングク(2022年のWeverse Magazineインタビューより)。
画像出典:写真掲載元

「Yet To Come」をめぐるやりとりでも、その考えを自分の声に反映させていると説明しています。
きれいな声を作る技術を持っていても、いつもその形を選ぶとは限らない。
本人にとって、自分の声をそのまま使ってみることも、新しい挑戦でした。

「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」―2022年発表曲の公式MV

この歌い方なら何も考えず楽に歌える、という話でもありません。
本人は、飾らない自分の声を気に入れない時や、もっときれいに歌えると思う時もあると明かしています。
それでも試すことを続けていたところに、変化があります。

同じ取材で話題になった「Stay Alive」にも、その難しさが表れていました。
聞き手が元の声に近い歌唱だと指摘すると、ジョングクは、録音が思い通りにならず何度も試したと振り返っています。
プロデュースしたSUGAから細かな注文があったわけではなく、仕上がった録音も喜んでもらえた。
それでも、自分にはすんなりできなかったという感覚が残っていました。

「Stay Alive (Prod. SUGA of BTS)」―2022年発表曲の公式音源

周囲が完成した歌を認めることと、本人が録音中に感じた難しさは、同時に存在していました。
飾りを減らす方向へ進む時にも、それまで得意だったきれいな声を手放す抵抗や、自分への厳しさがあったのです。

2023年、「Seven」で録り方も変え、英語の細部をつかむ

ソロシングル「Seven」の録音では、一回のテイクを最初から最後まで通して歌う方法を試しました。
プロデューサーが通して歌った声を聴き、良い表現が出たと感じたところで次へ進める。
必要なら歌い直し、コーラスもその場で作ってみる。

ジョングクは、途中で別の作業を挟まずに歌い続けられ、録音が素早く進んだことを良い点として挙げています。
一人で練習している時とは違い、自分の声を聴いた制作相手の反応を受けながら、表現を探せる場になっていました。

また、この録音を通じ、英語で歌う時の細かな表現や、自分がどう声を出すかを、以前よりつかめたとも振り返りました。
英語の歌を発表することだけではなく、その言葉で自分がどう歌えるかを知る経験になっていたのです。

同年11月には、初のソロアルバム『GOLDEN』を発表します。
中心曲の「Standing Next to You」は、レトロなファンクを背景にした曲です。
本人はBritish GQの取材で、最初に聴いた時から舞台で歌う姿を思い描けた一方、録音は簡単ではなかったと話しています。

「Standing Next to You」―2023年発表曲の公式MV

同じ取材で挙げた目標は、さまざまなジャンルやスタイルを試し、自分のサウンドに取り組むことでした。
話し声に近い歌を見つけた後も、すべてをその声だけでそろえようとはしていません。
曲によって、自分の声にできることを確かめています。

ソロとしてアルバムを制作し、一人でステージに立ったことで、これまで知らなかった自分の良さや足りない部分にも気づいたといいます。
BTSの成長に追いつきたいと話した2021年から、今度はソロの曲を通じて、自分にはこんな表現もできる、ここは取り組む余地がある、と知っていく時間になっていました。

2026年掲載のRolling Stone AU/NZの取材でも、『GOLDEN』の歌やパフォーマンスに、もっとできたと思う部分があり、それが次の努力につながると語っています。
一つの作品を完成させても、声の探求が終わるわけではありませんでした。

ジョングクの歩みを通して見ると、他の歌手から学ぶこと、自分の話し声を試すこと、曲に合わせて別の表現を選ぶことがつながっています。
声をきれいにする方法を増やすだけでなく、その曲に何を足し、何を足さないかを考える。
そうした判断が、BTSでの歌からソロの表現へ、声の幅を広げてきました。

ガイドの歌唱との距離、声とリズムの関係、録音とライブでの考え方は、ジョングク/Jung Kookの歌い方で取り上げています。

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