ジョングクは、曲をもらうと、参考の歌唱から何を受け取り、自分は何を足して何を抜くかを考えると話しています。
ほかの歌い手の特徴をつかむ力があっても、そのまま同じように歌うとは限りません。
自分の声で、その曲が自然に聞こえる形を探しています。
その判断は、高音を出す場面だけの話ではありません。
歌い出しの声の質感、ビートとの関係、声をどこまで飾るかにも表れています。
「Seven (feat. Latto)」―2023年発表曲の公式MV
「Permission to Dance」は、ガイドに似せ過ぎない
2021年の「Permission to Dance」について、ジョングクは、ガイドで示された歌い方より、自分が歌いたい感じを選んだと説明しています。
参考の歌唱を自分の声で再現した時、かえって行き過ぎて聞こえることもあるからです。
導入部を録音する際には、Pdoggからも、自分の声とスタイルを生かすよう言われました。
参考を忠実に追えば仕上がるのではなく、その歌手の声に合うかどうかを確かめる必要がありました。
「Permission to Dance」―2021年発表曲の公式MV
同じ歌い回しでも、声が変われば、強く聞こえるところや、耳に残るところも変わります。
ジョングクが選んだのは、曲の雰囲気を受け取ったうえで、自分の声へ置き換えることでした。
歌い方を学ぶことと、そのままなぞることを分けて考えているのです。
同じ英語曲でも、「Butter」では別の難しさがありました。
本人が意識したのは、ビートの効いた弾む感じと、自分の声を合わせることです。
最初の録音では欲しい声が出ず、気に入る響きを探し続けたと振り返っています。
「Permission to Dance」で自分の感じを優先したのも、曲の特徴を無視したからではありません。
「Butter」の弾み方を探す時と同じく、参考の歌から受け取るものを、自分が出す声で確かめています。
二曲の導入を聴き比べると、声色だけでなく、ことばの勢いや運び方にも注目できます。
「My Time」では、リズムの中で声の力を動かす
2020年のソロ曲「My Time」では、声とビートの関係も、歌を捉える手がかりになります。
音楽ライターのRandy Suhは、ジョングクがビートに対して声をずらしたり、力を緩めたり、強く出たりするタイミングを評価しています。
ギターの響きに対して、声へ鋭さを加える場面にも注目していました。
「My Time」―2020年発表『MAP OF THE SOUL : 7』収録曲の公式音源
ここでの強弱は、声量を上げ下げすることだけではありません。
どのタイミングで声が前へ出るか、どこで流れを緩めるかが、聴き手の受け取る感情を変えます。
音を正しい高さで歌うことに加えて、ことばをリズムのどこへ置くかも、歌の表現になっていました。
「Seven」で、ハスキーさや揺れを足さない選択

画像出典:写真掲載元
「Seven」の発売時の取材では、聞き手のカン・ミョンソクが、ハスキーな声やビブラートを使わない、シャープなポップスの歌唱になっていると指摘しています。
ジョングクは、曲に似合う感じを探し、聴きやすく、行き過ぎない歌を目指していると応じました。
何かを足して声の個性を目立たせることだけが、表現ではありません。
声を揺らしたり、ざらつかせたりできても、その曲では使わないという選び方もあります。
「Seven」のこのやりとりは、持っている技術の量と、曲で使う技術の量が同じではないことを伝えています。
自分の色を失わず、曲にも無理をさせない。
ジョングクが考える自然さは、何も考えずに歌うことではなく、加えるものと抜くものを選んだ結果でした。
制作現場からも、その選択を支えたやりとりが伝わってきます。
「Seven」を制作したアンドリュー・ワットは、Forbesの取材で、会話で多くを話せなくても、音楽を通じて十分な対話ができたと振り返りました。
互いの第一言語が違っても、歌を聴きながら作業を進められたのです。
ジョングクが一人で正解を決めて、完成した歌を渡したわけではありません。
自分が歌ってみた声を制作陣が受け取り、その反応を踏まえて次の歌へ進む。
耳に届く自然な歌の裏側には、こうした共同作業もあります。
『Proof』の三曲は、導入に込める気持ちも違う
2022年の『Proof』では、「For Youth」「Run BTS」「Yet To Come」の導入を担当しました。
本人は「For Youth」を切ない気持ちで、「Run BTS」を昔のBTSを思い出しながら歌い、「Yet To Come」には「Life Goes On」に近い感覚で向き合ったと説明しています。
同じ歌手が歌い始めても、三曲を同じ感情でそろえてはいません。
歌い出しは、曲の世界へ入る入口です。
声の明るさや強さを比べるだけでなく、どんな気持ちを持って次のことばへ進んでいくかも聴けます。
ジョングク自身の説明を知ると、歌の第一声を選ぶ時から、曲の解釈が始まっていると分かります。
録音とライブで、同じ声の作り方に固定しない
『Proof』期の取材で、ジョングクは、録音では発声の技術より、曲の感じが重要だと話しています。
そのうえで、生で聴いて良い声と、録音した時にきれいな声を考えるため、ライブと音源には少し違いがあるとも説明しました。
音源で知っている一つの響きを、あらゆる場所で再現することだけが目標ではありません。
録音でどう聞かせるか、ステージでどう届けるかを、それぞれ考えています。
話し声に近い響きを試す時にも、きれいな声を作る時にも、曲と聞こえ方の条件が関わっていました。
英語の発音も、歌いながら自分のものにする
全編を英語で歌った『GOLDEN』について、2023年のBritish GQの取材では、韓国語での録音より疲れる面があったと話しています。
一方、発音が良くなっている実感があり、その過程で学ぶことを楽しんでいました。
英語の音を言えるようにすることと、その言葉で曲を歌いきることを、録音の中で結びつけています。
なかでも「Standing Next to You」は、本人が特に苦労したと挙げた曲でした。
聴いた時には舞台で披露する自分が思い浮かんだものの、録音が容易だったわけではありません。
曲の完成形を思い描けることと、その歌を実際に声にすることの間には、取り組むべき課題がありました。
ジョングクの言う自然な歌は、準備のいらない歌という意味ではないのでしょう。
「Butter」で欲しい響きを探したことも、英語の発音を学び続けたことも、聴き手が構えずに曲へ入れる表現につながります。
完成した声の軽やかさと、それを作る作業の手間は、矛盾しないのです。
ジョングクの歌い方は、出せる高音や声の種類を並べるだけでは見えてきません。
参考の歌を自分の声へ置き換え、リズムの中でことばを動かし、必要な時には声の装飾を減らす。
どの声が出るかに加え、その曲でどの声を選ぶかに、歌い手としての判断があります。
「My Time」から、話し声に近い歌への関心、「Seven」と『GOLDEN』での試行までの歩みは、ジョングク/Jung Kookの歌唱変遷でたどっています。







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