Hikaruの歌声の変遷|三声の中の鋭さから、一人で描く物語へ

2016年の個別取材に掲載されたHikaru(撮影:菊池貴裕) Hikaru(Kalafina)
2016年の個別取材に掲載されたHikaru(撮影:菊池貴裕)

KalafinaのHikaruといえば、切れ味のある力強い声を思い浮かべる人も多いでしょう。
高音から中音を担うその声は、三人のハーモニーの中でも、輪郭をはっきりと示してきました。

その個性は、どのように育ち、ソロの歌へつながったのでしょうか。
声が強くなったか、柔らかくなったかだけでは見えない、歌の中で引き受ける役割の変化をたどります。

一人で歌う夢から、三人で歌を作る日々へ

Hikaruはもともと、女性のソロ歌手の曲を練習し、オーディションを受けていました。
Kalafinaへの参加後もしばらくは富山から録音に通い、やがて上京します。
三人でこまめに練習し、考えを話し合えるようになったことが、ユニットとしての結びつきを深めました。

最初の録音となった「ARIA」では、緊張を抱えていたと振り返っています。
劇場版『空の境界』のために始まった活動は、その後もさまざまな作品との出会いを重ねて続いていきます。

2009年の「progressive」には、すでにライブの経験が反映されていました。
KeikoとHikaru、WakanaとHikaruという組み合わせで、同じ旋律を重ねる箇所もある曲です。
Hikaru自身は、その勢いを歌で出せたと話しています。
一人の声で押し切るのとは違う、相手が変わることで生まれる声の組み合わせが、初期から歌の土台にありました。

「Magia」で、力強い声が前へ出る

2011年の「Magia」は、シングルで初めてほぼ主旋律を任された曲でした。
Hikaruがいなければ書かなかった曲だと梶浦由記が語ったことも、本人にとって大きな出来事だったといいます。

一方、本人は当時、独特の旋律と暗い世界を持つ曲を、聴き手がどう受け取るか不安もあったと振り返っています。
『魔法少女まどか☆マギカ』を通して多くの人へ届き、自らの転機に挙げる一曲になりました。
得意な声を見つけたことと、その声が作品の中心で求められたこと。
「Magia」は、その二つが結びついた節目だったと考えられます。

ただ、強さの表現を暗い曲だけに限定していたわけではありません。
2013年には、明るい曲やかわいらしい曲にも芯のある強さを込められると、ライブを通して気づいたと語っています。
声の勢いが曲を勇ましくするだけでなく、明るい表情の奥に意志を感じさせる。
曲数が増えるにつれて、同じ持ち味の使い道も広がっていきました。

この頃、KeikoもHikaruとWakanaの声に安定感が増したと感じていました。
ライブと制作を並行する中で、リードの二人を支える側からも、その変化が分かったのです。
「signal」でのHikaruの力強い歌には、Wakanaも新たな魅力を見いだしていました。
本人だけでなく、声を重ねる相手も成長を受け取っていた点が、この時期の大切な手がかりになります。

2016年のKalafina取材写真。左からHikaru、Keiko、Wakana(撮影:菊池貴裕)
2016年のKalafina取材写真。
左からHikaru、Keiko、Wakana(撮影:菊池貴裕)。
画像出典:画像掲載元

2016〜2017年、役割を守りながら表情を変える

2016年には、長く歌ってきた二人の声にも、重ねることで初めて気づくことがあると話しています。
自分の表現したいことが増える一方で、三人で一曲を作っているという原点を意識すると、Kalafinaらしさが強く感じられた。
個人の成長を、そのまま自分だけの見せ場へ向けず、三声の関係へ戻していたのです。

2016年のアリーナ公演では、Hikaruは三人それぞれの声の持ち味を生かし、ほかの二人が引き立つ場面も作ったと話しています。
自分の見せ場だけを増やすのでなく、歌い手が替わったことを客席へ伝える。
声の違いを、舞台全体の流れにする意識がありました。

2017年の「春を待つ」は、その役割を考えるうえで興味深い曲です。
ピアノとともに一人ずつ歌を渡す構成で、HikaruもKeikoのようにカジュアルな歌い方を試しました。
ところが曲に合わず、最終的にはKalafinaでの自分らしい歌唱に戻ったといいます。
新しい歌い方を試すことと、曲の中で必要な声を選ぶことは別でした。

同じ年の「百火撩乱」では、重厚な伴奏に対して、旋律を滑らかにつなぐ歌唱に取り組みます。
鋭く歌うことの多かった本人にとって、熱い曲を滑らかに歌う感覚は、なじませるのに時間が必要でした。
得意な鋭さを保ちながら、その周囲に別の表情を置く試みが進んでいたのです。

MV短縮版

2019〜2020年、一曲すべてを自分の声で

2018年のKalafinaの活動休止を経て、2019年には、H-el-ical//名義で「pulsation」を公開します。
当初はHikaruの名を伏せていましたが、声から気づく人もいました。
その一方、Kalafinaを知らずに曲を好きになった人の存在も、ソロの活動への自信につながったといいます。

2020年のメジャーデビュー曲は「Altern-ate-」。
Hikaruが新しい課題として挙げたのは、一曲を一人の声で表現することでした。
三人でしか作れない音楽を学んだ後に、今度は一人だから出来ることを探す。
歌詞を書くことも含め、曲を考える時間そのものを楽しんでいたと話しています。

ソロの録音では、デモを聴いてHikaru自身が考えた歌い方を採用してもらっていたといいます。
与えられた役割を果たす経験に、自分から歌唱の方向を提案する経験が加わりました。

MV短縮版

2021〜2022年、曲の人物に合わせて声を選ぶ

2021年には、Kalafinaで積んだ三声の経験を、一人の表現へ置き換える作業が必要だと語っています。
ソロで低い音を歌う際にも、以前に低いハーモニーを担当した経験が生きていました。
新しい活動は、過去の声を捨てることから始まったわけではありません。

「JUST DO IT」では、新たに加藤裕介の曲と出会いました。
曲自体が格好よく出来ているからこそ、歌には息を多めにした表現も加えられたと説明しています。
伴奏の力強さを、歌でも同じように押し出す必要はない。
その余地を使って、別の魅力を加える選択でした。

2022年発表の「IMPOSSIBLE LOVE」では、英語の部分に息を混ぜ、若さと大人びた雰囲気を同居させています。
若い女性を描く歌でも、声を一種類に揃えない。
人物の気持ちを考えながら、音色を選ぶ幅が具体的に広がっていました。

ただし、発売された順番をそのまま習得の順番にすることは出来ません。

「JUST DO IT」は発売延期があり、録音は先に発売された「The Sacred Torch」より前でした。
この時期の曲は、階段のように一作ずつ進化したと並べるより、並行して試していた表現として捉えるほうが正確です。

同年のアルバム『解放区』には、自作詞の曲だけでなく、草野華余子ら外部の書き手による新曲も収められました。
自分で言葉を作る経験に、別の人が描いた言葉を歌う経験も重ねていきます。

2022年の「JUST DO IT」取材に掲載されたHikaru
2022年の「JUST DO IT」取材に掲載されたHikaru。
画像出典:画像掲載元

ソロで得たものを持ち、もう一度三声へ

2025年1月、Kalafinaは七年ぶりに三人でステージへ立ちました。
Hikaruは、自分たちの役割は変わらず、それぞれのソロで培ったものが加わったと振り返っています。
同じ三人で歌うことにも、以前とは違う経験が持ち込まれていたのです。

ソロでも2025年の『Seven Deadly Sins』、2026年の『Singularity』と作品を発表し、Hikaru名義で活動を続けています。

三声の中で自分の声を見つけ、一曲を一人で引き受け、再びほかの声と重ねる。
Hikaruの変遷をたどると、声の強さそのものよりも、その強さをどこで使い、どこで別の表情へ移るかが大切だったと分かります。
具体的な声の選び方は、Hikaru(Kalafina)の歌い方で掘り下げています。

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