KEIKO(Kalafina)の歌声の変遷|低音の役割から広がった、一人で歌う声の選択

Kalafina時代のKEIKO(2016年掲載/撮影:菊池貴裕) KEIKO(Kalafina)
Kalafina時代のKEIKO(2016年掲載/撮影:菊池貴裕)

2024年の「夕闇のうた」で、KEIKOは意外な旋律を任されました。
二つの旋律が重なるところで、自分が歌うと思っていた低い側ではなく、上の旋律を主役として歌うことになったのです。

Kalafinaの低音を支えてきた人が、その作曲者である梶浦由記の曲で、違う役割を受け取る。
そこには、長年育てた低音と、ソロで試してきた声の両方がありました。
KEIKOの歩みは、自分の得意な声を見つけ、その声に新しい選択肢を足していく過程です。

2005~2012年――低い声が、必要とされる場所を得る

歌手を目指す頃、KEIKOは自分の低い声にコンプレックスを抱いていました。
その声を聴き、低い音域の曲を書くことを楽しんでくれたのが梶浦由記です。
本人にとっての悩みが、歌手として必要とされる理由へ変わりました。

2005年にはFictionJunction KEIKOとして歌い、2008年にはKalafinaの活動が始まります。
そこでの低音は、単独で目立つためだけの声ではありません。
異なる高さ、異なる質感の声を重ねる音楽の中で、自分の位置を作っていきました。

2010年、Wakanaは、KEIKOがカラオケでは高い曲も歌うと話しています。
KEIKO自身も、Kalafinaのハーモニーに合わせるために低音を鍛えたと説明しました。
初めから低いところしか歌えなかった人、という捉え方では、この声の成り立ちを見落とします。
もともとの声に、共に歌う相手に応える訓練が重なっていました。

2012年のFictionJunctionの米国公演で、梶浦はKEIKOの低音を、複雑なコーラスを支える不可欠な声として紹介しました。
上の声が美しく重なるためには、下から受け止める声がいる。
KEIKOが育てた低音は、作り手からもその役割をはっきり求められていたのです。

2013~2017年――作品の中に、自分の感情が入ってくる

初期のKalafinaでは、まず『空の境界』などの作品世界があり、そこにふさわしい歌を届けることが大切でした。
ライブで熱くなる場面でも、三人のハーモニーを崩さない冷静さは失わない。
声を張る勢いと、重なりを守る意識が並んでいました。

KEIKOが転機に挙げたのは「アレルヤ」です。
2013年のツアーで、梶浦が福岡公演の三人を見て生み出した曲でした。
作曲者の世界へ自分たちが入るだけでなく、舞台上の自分たちから曲が生まれたことが、強く心に残ります。

さらに2014年、姪が生まれたことで、命の温かさや大切さが、身近な実感として歌に入るようになりました。
作品の感情を歌う時にも、私生活で知った感情を持ち込める。
本人は2016年、この頃から自分自身の感情を入れて歌えるようになったと振り返っています。
低音の役割は残りながら、その中に宿すものが変わっていました。

2013年の原シングル音源。

2017年の「春を待つ」では、三人のハーモニーも造語もなく、一人ずつ声を受け渡します。
KEIKOはこの曲で、いつものKalafinaの歌い方から離れ、J-POPに近いカジュアルな声を選びました。
リラックスして聴ける曲を作ろうという会話から生まれた作品です。
重厚な重なりを外した時に、一人の声がどう届くか。
ソロ以前にも、その可能性はすでに試されていました。

2020年――決まった役割から、一曲全体を選ぶ立場へ

休養の期間と2019年のKalafina解散を経て、2020年にソロ活動を始めます。
以前の役割を、そのまま一人分に広げるだけでは済まない再出発でした。

Kalafinaでは、作品の邪魔をしないよう、自分の人間らしさをどこまで出してよいか悩んだ時期もありました。
休んでいる間、テレビを見て大笑いする自分に気づき、自然な自分へ戻った感覚があったそうです。
ソロでは、そうした等身大の自分も声に出してみたい。
音楽の形を選び直す前に、歌う本人の構えがほぐれる時間がありました。

『Lantana』の取材時のKEIKO(2020年掲載/撮影:中田智章)
『Lantana』の取材時のKEIKO(2020年掲載/撮影:中田智章)。
画像出典:画像掲載元

最初の「命の花/Be Yourself」でも、歌う理由はそれぞれ違いました。
「命の花」は、旋律に惚れ込んでどうしても歌いたくなった曲。
「Be Yourself」は、普段から自分が聴いて気分を上げたくなる種類の音楽です。
自分が何を好きかを出発点に、まず声を合わせてみる。
求められる役割を果たしてきた歌手が、自分の歌う場所を探していきます。

発声にも新しい試みがありました。
「始まりは」や「Ray」のAメロでは、これまでと声の出し方を大きく変えています。
一曲を一人で歌うと、どの箇所にどんな声を置くかも自分に返ってくる。
低いパートを担うという目印に代わって、旋律や伴奏に声が心地よく合うかを探す作業が始まりました。

初アルバム『Lantana』の「七色のフィナーレ」は、梶浦の曲にKEIKOが詞を書いた作品です。
キーやテンポ、編曲を変えながら作り、歌も締め切り近くまで録り直しました。
長く一緒に仕事をしてきた相手の曲でも、ソロでの答えがすぐ出るわけではありません。
慣れた音楽の中にとどまるより、一人の作品として何ができるかを試す制作でした。

その試行を、本人は新鮮な自分の声との出会いとして受け止めています。
曲から受け取ったイメージに合う響きや音色を探して録音すると、自分にもまだ知らなかった声が見つかる。
明るく優しくなったと受け止められた歌声も、単に気分が変わった結果ではなく、曲ごとに表現を考えた結果でした。

2021~2023年――響きを保つだけでなく、言葉から歌う

2021年の『dew』は、低音を軸に、その出し方を広げたアルバムです。
「Nobody Knows You」では、ライブの大きな音の中では失われやすい、芯を抑えたささやく声を録音で試しました。
「ラテ」では、従来の胸や背中に響かせる感覚から、もっと上の位置で軽く話すような感覚へ。
これは本人の発声時の感覚で、同じ低音にも違う手触りを作ろうとしていました。

2023年の『CUTLERY』では、言葉の多い曲へ踏み込みます。
長く伸ばす音を中心に歌ってきたKEIKOにとって、「私アップデート」の細かな言葉は新しい課題でした。
「Alcohol」が歌えたからこそ、この曲も歌えた、と振り返っています。
一曲の経験が、次の一曲を可能にしていました。

『CUTLERY』の取材記事に掲載されたKEIKO(2023年掲載)
『CUTLERY』の取材記事に掲載されたKEIKO(2023年掲載)。
画像出典:画像掲載元

そのための準備は細かいものでした。
「Alcohol」では作り手とリズムを確かめ、覚えた後に、数える意識を手放していく。
自然に話しているような声は、準備を省いて生まれたものではありませんでした。

2024~2025年――増えた声を持って、梶浦の音楽と三人の歌へ

2024年の「夕闇のうた」は、アニメ『戦国妖狐 世直し姉弟編』のエンディングテーマです。
ソロ活動中もFictionJunctionで梶浦と歌っていたKEIKOにとって、離れていた相手への復帰ではありません。
一人で作ってきた音楽を、梶浦の曲で生かす機会でした。

ソロで増えた無理のない声の出し方を、梶浦との制作でも生かしています。

2025年1月には、約7年ぶりにKalafinaとして三人がそろいます。
KEIKOは、一緒に歌えた喜びを振り返りました。
Hikaruも、三人の役割は変わらず、それぞれがソロで身につけたものが加わったと話しています。
昔の位置に戻ることと、昔の声だけで歌うことは、同じではありません。

KEIKOの低音には、仲間に合わせて鍛えた技術があり、そこへ生活の中で知った感情が入り、ソロで試した軽さや高い声が加わりました。
低音という強みを失わずに、その強みだけで自分を決めなくなった。

響きの深さや言葉の出し方を曲ごとにどう変えるかは、KEIKO(Kalafina)の歌い方で詳しく取り上げています。

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