ジョンヒョンの歌には、華やかな歌唱力に圧倒される瞬間と、すぐそばで話しかけられたように感じる瞬間があります。
SHINeeの歌声として知られた彼は、ソロになると、その近さや柔らかさも作品の中心に置くようになりました。
変わったのは、歌う曲の数やジャンルだけではありません。
グループの中で声を組み合わせるところから、一曲の登場人物、さらにアルバム全体を歌う人物まで自分で考えるようになったこと。
その広がりを追うと、ジョンヒョンが自分の声に求めたものが見えてきます。
2008〜2010年――自分の声と、五人で作る声
2008年、SHINeeは「Replay」でデビューしました。
同年のアルバム『The SHINee World』には、ジョンヒョン一人で歌う「Y Si Fuera Ella」も収録されています。
正式なソロデビューを迎えるずっと前から、グループの中には、彼の声だけで一曲を担う場所があったのです。
ただ、初期のジョンヒョンが取り組んでいたのは、個人の声を際立たせることだけではありませんでした。
2010年の「Your Name」について、本人は録音した声が約140トラックにもなったと説明しています。
ハーモニー、アドリブ、息の音まで重ねて、曲の表情を作っていたのです。
「Replay」の印象から変わってきたという反応も受け止めながら、同じものを繰り返すより、さまざまな曲を自分たちらしく表現したいと考えていました。
目立つ旋律を一人で歌うことと、声を幾重にも組み合わせること。
その両方が、すでに初期の活動にあります。
後のソロ作品を考えるときも、この出発点は大切です。
歌手としてのジョンヒョンは、自分の声を大きく聴かせるだけでなく、ほかの声と一緒になったときに何が生まれるかを経験していました。
2015年の『BASE』――細い裏声も、自分を示す武器になる
2015年1月、初のソロミニアルバム『BASE』が発表されます。
SHINeeでの歌唱やダンス、バラードの印象から、ソロにもその延長を期待していた人にとって、ソウルやR&Bを軸にした作品は意外なものでした。
アイアン、Zion.T、ユンナ、フィソンといった顔ぶれとの協働によって、彼の声を取り巻く音も変わります。
「Crazy」についての本人の説明が、その変化をよく表しています。
アイアンの太く荒々しい声が、自分の細いファルセットを引き立てるというのです。
ここでのファルセットは裏声のこと。
声を太く強くする方向にそろえるのではなく、質の違う声を組み合わせることが、曲の魅力になっていました。
ソロでは全編を自分で背負う一方で、共演者の声に任せる場所も作れる。
その関係を選べるところに、『BASE』の新しさがあります。
五人の中でどう響くかを考えていた声が、曲ごとに異なる相手と出会い、自分の輪郭を描き直していきました。

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ソロ活動が始まっても、SHINeeの声を作る仕事は続いていました。
同年の「Odd Eye」では作詞・作曲に参加し、自分はメンバーそれぞれの特徴をよく表せるはずだと考えて制作しています。
グループのために曲を書くことには、挑戦する怖さもあったと話していました。
一人の歌手として前へ出る時期に、同時に、ほかの四人の個性をどう生かすかにも向き合っていたのです。
同じ年の『Story Op.1』――一日の終わりに届く柔らかさ
その年の9月には、小品集『Story Op.1』が続きます。
ジョンヒョンがDJを務めたラジオで披露していた自作曲を、新たにアレンジして収めた作品です。
「End of a Day」では、ピアノと柔らかな歌声が、疲れて帰る人をねぎらう言葉を支えます。
『BASE』のソロ歌手と、夜のラジオから生まれた歌の語り手が、同じ年に並んだことになります。
ラジオを始めたことは、本人にとって大きな転機でした。
自分が経験していない暮らしを、リスナーの話を通して近くに感じられるようになったと振り返っています。
自分の思いを届けるだけでなく、聞いている人がどんな一日を過ごしたのかを受け取る。
そのやり取りから生まれた曲には、相手の日常へ声を届けるという、具体的な目的がありました。
「End of a Day」の穏やかさを、勢いが弱くなった結果と考える必要はないでしょう。
目の前に想定する相手と、その人に伝えたいことが変われば、歌声に求める役割も変わります。
鮮やかな個性を示すソロと、誰かの帰宅を待つような歌。
この二つを行き来できたことが、2015年の大きな広がりでした。
2016年の『She Is』――一枚を通して、一人の男を演じる
2016年のアルバム『She Is』では、さらに別の作り方を選びます。
ジョンヒョンは、面白く魅力的で、ときにはいたずらもする一人の青年を思い描き、その人物が9曲を歌うつもりで制作したと話しています。
自分の経験をそのまま歌うだけではなく、想像した人物になって歌うことが、アルバムの方向を決めました。
『Story Op.1』のアコースティックな感情表現に対し、こちらの中心は踊れる音楽です。
本人は『BASE』から続く作品とも捉えていました。
夜の静かな歌を経て、今度は恋をしている人物の活気や色気へ向かう。
新しい作品が前作を打ち消すのでなく、歌の中で生きられる人物が増えていくのです。
歌い方の具体的な選択も、その中で進みます。
「AURORA」では、本人が敬愛していたプリンスの感性やイメージを、自分なりに解釈して歌ったと説明しています。
憧れの音楽を聴いてきた時間が、曲作りに加え、声でどんな雰囲気を描くかにもつながっていました。
そして「AURORA」は、以前の曲「NEON」の複雑な和声やリズムを発展させようとした曲でもあります。
本人が歌ううえで求めたのは、そこにもう少し余裕を持たせることでした。
複雑な曲だから声もせわしなくする、という選択ではない。
音楽の細かさの中でどうくつろいで歌うかまで、自分で考えていたのです。
2017年の「Lonely」――二人の声で、同じ場所の孤独を描く
2017年の『Story Op.2』では、テヨンを迎えた「Lonely」が発表されます。
楽器を絞った構成の中で、二人は会話するように歌を交わします。
一緒にいても孤独を感じることと、一人のほうが楽だと感じること。
同じ言葉に簡単にまとめられない気持ちを、二つの声で表している曲です。
ジョンヒョンがデュエットに求めたのは、より多くの声で物語を伝えることでした。
テヨンの持つ孤独な雰囲気や、彼女自身の確かな世界が、歌詞を表してくれると考えたのです。
自分以外の歌手が何を表現できるかまで思い描き、作品を作る。
ソロで描く世界は、独唱の中だけで深まっていったわけではありません。

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2018年の『Poet | Artist』に残された、複数の声の表情
ジョンヒョンは2017年12月に亡くなり、準備していたアルバム『Poet | Artist』は2018年1月に発表されました。
「Shinin’」を中心に届けられた作品です。
そこには、踊れる明るさから静かなバラードまで、彼が育ててきた表現が並んでいます。
たとえば「Rewind」には、ため息のように控えめな旋律と、踊れるピアノハウスの組み合わせがあります。
「Grease」では、歌とラップが交わります。
一つの声の強さを最後まで押し通すのではなく、リズムや言葉の性格によって声の振る舞いを変える。
この作品でも、その選択の幅が失われていません。
ジョンヒョンの歌声の変遷は、強い声が柔らかい声に置き換わった、という一本道ではありません。
グループの中で重ねる声、共演者と違いを生かす声、日常に寄り添う声、架空の人物として恋をする声へと、表現の行き先が増えていった歩みです。
同じ歌手の作品なのに、曲が変わると、声を届ける相手まで違って感じられる。
その違いを作る裏声や呼吸の選択については、ジョンヒョンの歌い方の記事で詳しく掘り下げています。

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