山中柔太朗の歌い方を考えるとき、入口になるのは柔らかな声です。
けれど、本人が語る録音の話には、がなりを直した経験も、自分から違う歌い方を提案した経験も出てきます。
いつも同じ声のまま歌っているわけではありません。
柔らかさを残すとき、クセを加えるとき、短い言葉に存在感を持たせるとき。
作品ごとの違いから、彼が声をどう使っているのかを見ていきます。
柔らかく運ぶ声が、曲全体の基準になる
「愛と合図」では、山中が先に録音し、その歌い方をほかのメンバーが意識して歌いました。
板垣瑞生が説明したのは、ふわっとして、フラットに運ぶ独特の声です。
ここでいうフラットは、音程が低く外れているという意味ではありません。
強い抑揚で押す声とは違う、歌の運び方を表した言葉として読むと、山中の持ち味が分かります。
その声は、周囲に埋もれるだけの弱さではなく、曲の方向を決める個性にもなります。
一人が力を込めて目立つことと、全員が同じ空気で歌うための起点になること。
グループの歌では、どちらも大切な役割です。
山中の声を考えるときには、この後者の働きにも耳を向けたくなります。
「Kiss Plan」について本人が勧めていたのも、ユニゾンのサビと、それぞれの個性が出るソロパートの聴き比べでした。
全員の声が重なる部分だけで声質を判断するより、山中の声が一人で届くところへ意識を向ける。
混ざる声と独立する声を分けて聴くと、同じグループの中で彼が作る印象をつかみやすくなります。
「ブルーシャワー」の抜け感は、青春の明るさに儚さを加える
「ブルーシャワー」で佐野勇斗が評価したのは、山中の声にある色っぽさと抜け感でした。
吉田仁人も、この曲では儚さを担う声だと捉えています。
全員が同じ力強さを出すのではなく、少し違う温度の声が入ることで、爽快な曲の中に大人っぽい表情が生まれます。
二番のサビ前では、佐野と山中が同じ旋律を歌う形が採用されました。
細かな歌割りは録音時点で決まっておらず、二人のユニゾンがきれいだったと評価された結果だといいます。
違う声質をそろえて消すのではなく、二人を重ねたときの響きが曲に選ばれた例です。

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ファルセットは、夢の世界を壊さずに広げる
ソロ曲「秘密のパレード〜誰もいない夢の街で〜」を披露した2024年12月の大阪城ホールでは、飾り気のないファルセットが、幻想的な舞台に響きました。
ファルセットは、ここでは柔らかい高音の表現として捉えると分かりやすいでしょう。
声の強さを誇示するよりも、夢の街という曲の景色を保ちながら、上へ広がる声を使っています。
同じツアーの11月3日、さいたまスーパーアリーナ公演でも、山中は優しく繊細に歌い、ライオンのマスコットと一緒に踊っています。
大きな会場で一人になっても、彼らしい声の細やかさが、物語の案内役になる。
ソロだから必ず強く歌い上げる、という考え方から離れると、この曲での声の選択が見えてきます。
「秘密のパレード〜誰もいない夢の街で〜」2024年のMV
切なく儚い声が生きる「last moment」の2023年横浜アリーナ公演とも、並べて考えたくなります。
別れの歌では切なさにつながる声の繊細さが、ソロ曲では夢の世界を描く。
似た柔らかさでも、作品が求める感情によって働き方は変わります。
がなりを出せることと、その曲で使うことは別
「Bad Liar」では、山中は桑田佳祐を意識した歌い方で練習していました。
気持ちがよくなるとがなるクセがあり、この曲ではかなり直したと話しています。
柔らかい声だけの歌い手と考えていると、意外に感じる録音の話です。
粗さのある声を出せるかどうかより、曲の中でどこまで出すかが問題になっているのです。
声にクセが出ることを、そのまま表現の完成とするわけではない。
好きな歌手から受け取った歌い方を試し、仕上がりに合わせて引いていく。
この調整も、山中の歌い方を支える大切な部分でしょう。
「Bad Liar」2024年11月4日・さいたまスーパーアリーナ公演
一方、「エビバディグッジョブ!」では、自ら録り直して桑田を思わせる表現を試し、一部が採用されました。
本人にとっては、「give you」のような魅せる曲のほうが歌い方をすぐ決めやすく、にぎやかな曲は練習してイメージを固める必要があるそうです。
声の選び方は曲との相性によって違い、採用するクセの量も一定ではありません。
短いセリフにも、声の違いと間の意味がある
「Over The Storm」のサビ前では、山中と板垣が同じ短い決め言葉を担当しました。
先に録った山中の声を聴き、板垣は同じにならないよう自分の表現を考えたといいます。
ほんの短い声でも、二人の違いは曲の中で働く。
長く歌う場面だけが、歌い手の個性を伝える場所ではありません。
2026年の「時空超えてユニバース」でも、サビ前のひと言は、複数の案を録音して選ばれました。
山中は、何でも速く進む時代に、あえて待たせる面白さを込めたと説明しています。
音を伸ばしたり高くしたりする代わりに、曲の流れを一瞬止める言葉で、聴き手の注意を引き寄せる。
声の置き方そのものが、表現になる場面です。
誰として歌うのかを決めると、同じ声にも違う表情が出る
鶴 and 亀の「LOVE 2000」では、山中は映画で演じた美鶴として歌い方を少し変えました。
髙松アロハは、その声を大人っぽいと感じています。
普段の自分をそのまま見せるのではなく、役の人物像を通して曲へ入る。
俳優として役を考えることが、歌でも一つの手がかりになっています。
山中は、髙松のまっすぐな歌い方をこの曲に合うと評価する一方、自分はどう表すかを考えないとできないとも話していました。
自然に感情が出る相手を見て、自分との違いを理解しているのです。
歌う前に表情を決めることも、その人なりの歌への入り方になります。

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実際、柔らかな山中の声と明るい髙松の声の組み合わせは、同じ曲を二人で歌う面白さにつながっています。
声を似せ合うことだけが、共演のまとまりではありません。
違いを残して歌うことで、それぞれの人物が見える歌になるのです。
山中柔太朗の歌い方は、柔らかい声を出発点に、曲ごとに必要な表情を選ぶ歌です。
ファルセットで景色を広げること、がなりを調整すること、短い言葉で間を作ること、人物の気持ちを声へ移すこと。
音量や高音だけを基準にせず、その声が曲の中で何をしているかを見ると、彼の魅力はぐっと具体的になります。
その選択肢を増やしてきた歩みは、山中柔太朗の歌唱変遷で紹介しています。

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