KAMIJO(Versailles)の歌い方|母音に嘆きを宿し、旋律をしなやかにつなぐ声

2024年8月のKAMIJOのアーティスト写真 KAMIJO(Versailles)
2024年8月のKAMIJOのアーティスト写真

KAMIJOの歌を、声の太さだけで捉えると、見落としてしまう表情があります。
高音で張るところ、母音を変えながら伸ばすところ、裏声を選ぶ曲。
一つの声をどう響かせ、どの人物の言葉として届けるかに、歌の面白さがあります。

口の開け方を変え、長い母音に表情をつける

「美しい日々の欠片」には、発声の選択が感情へ直結する具体的な場面があります。
ギターソロ直前の、相手のそばにいると伝えるフレーズです。
KAMIJOは、その終わりを伸ばす際、口の開け方を変えて母音も変化させたと説明しています。
音を長く保つだけでなく、その途中で声の響きを動かし、嘆きを深める。
歌詞の意味を、母音の形にまで落とし込んだ歌唱です。

ロングトーンを見るときは、長さや音程に目が向きがちです。
けれど、一つの音の中で声の表情がどう動くかも、歌の大事な部分です。
この曲なら、言葉の終わりからギターへ渡る瞬間までを一続きに追うと、歌がどこに感情を集めているかを捉えやすくなります。

抑えた歌と、高音で張る歌を組み合わせる

『Heart』の「サンクチュアリ」は、サビ前を抑え、サビで高音を張る幅を、本人が聴いてみたくて作った曲です。
高い音だけを目立たせるのではなく、その前の抑制まで含めて一つの表現になっています。
「Romantique」では、聴き手を口説く気持ちで歌を書いたとも話していました。
太い声を出せることに加え、その声で愛しさを表すことにも関心があるのです。

「Eye of Providence」で選んだのは、ファルセットでした。
本人には、この曲に自分の高い声が必要だという感覚がありました。
ただ、普通に高音を歌うことには気持ちが向かなかった。
そこで、自分に合う高音を探した結果、裏声にたどり着いたといいます。
高い音へ届くかどうかと、その曲に似合う高い声かどうかは、別の問いです。
張り上げた勢いを増す以外にも、声の質を替えて曲の輪郭を作る方法がある。
この曲のファルセットには、そんな意図的な選択が表れています。

「fairytale」では、声の華やかさやブレスで遊べると話しています。
無邪気な気持ちを描く曲では、いたずらを楽しむように歌える。
重厚な作品の中に、軽やかな声の余地もあります。

2024年「美しい日々の欠片」の取材に掲載されたKAMIJO
2024年「美しい日々の欠片」の取材に掲載されたKAMIJO。
画像出典:画像掲載元

バイオリンのように、音と音の間を歌う

「Royal Blood」では、バイオリンのように滑らかに旋律を歌うことを目指しました。
音をつなぐレガートと、音高の間を滑るポルタメントを、歌謡曲にも通じる感覚として捉えていました。
次の音へどう移るかまでが、旋律の表情になります。

声と楽器の関係にも、この考え方はつながります。
『Sang』の制作では、KAMIJOはギターの旋律と歌を別々に考えるより、主旋律をどのパートが担当するかを重視していました。
楽器が奏でた線を、声が引き継ぐ。
声の後を、また別の楽器が受け取る。
伴奏の上で歌だけを大きくするというより、曲の中を走る一本の旋律を歌い手も担っているのです。
そのため、歌の入り方と終わり方を、直前直後の楽器と合わせて追うことにも意味があります。
声だけを取り出して聴くと見えにくい、受け渡しの表現です。

英語と日本語で、言葉のリズムを選ぶ

KAMIJOは、英語を使うと子音やアクセントの位置が変わり、フレーズの置き方や余白も変わると説明しています。
彼の感覚では、日本語は旋律に沿って流れ、英語は拍に対して立体的に着地する。
言語全般の決まりというより、自分の旋律に言葉を当てるときの感覚です。
同じ気持ちを歌うにも、語の選び方によって鋭く伝えたり、抽象的な余韻を残したりできると考えています。
発音を整えることに加え、言葉そのものを音として捉える。
歌のリズムは、そこからも作られます。

「TEMPLE -Blood sucking for praying-」は、その選択が曲の中で見える例です。
英語で旋律とリズムを生かしながら、言いたいことを集めた一節は日本語で残しました。
流れに乗せる言葉と、意味を強く届ける言葉を、一曲の中で組み合わせています。
言語の切り替わりも、声の聴きどころです。

叫びを出発点にする曲もある

「Vampire Rock Star」は、タイトルを叫ぶ声から生まれた曲です。
KAMIJOは、まずその叫びがあり、そこから曲を組み立てたと説明しています。
滑らかな旋律を歌う発想とは、作り始める順番が違います。
短い声の勢いを、曲全体へ育てていく。
優雅な人物像の中に、観客を巻き込むロックの声もあるのです。

「The Anthem」では、一緒に歌う相手として観客の声を迎えています。
KAMIJOは、これからどんなライブをしたいかを考え、途中に皆で歌える場面を設けました。
歌手の声を聴き手が受け取るだけでなく、聴き手も同じ歌へ入ってくる。
一人で細かな感情を描く場面とは、声の届き方が変わります。
本人が曲に込めたのは、音楽で聴き手の人生を守れたらという思いでした。
自分の歌う理由を言葉にし、その歌を会場で共有する。
声の表現は、一人の音色や技術から、相手と歌う場の作り方にまで広がっています。

2024年のロンドン公演でも、声の表情は場面ごとに切り替わっていました。
「運命」では、バンドが退き、KAMIJOが一人で歌う場面が設けられています。
重い演奏を離れた柔らかなバラードと、「Sang I」の終盤に交えた荒々しい声。
同じ公演の中に、近く語りかける場面と、観客の拳や掛け声を誘う場面が共存していました。
録音ごとの音作りとは別に、ライブでは編成と曲順も、声をどう受け取るかに関わります。

2024年の取材に掲載されたKAMIJO
2024年の取材に掲載されたKAMIJO。
画像出典:画像掲載元

美しい声で、どんな人物を演じるのか

「mademoiselle」では、相手に近づくときのときめきと、危うさを含む人物像を歌っています。
本人は、必要な緊張感を出そうとしても、楽しくなってしまい、ニュアンスを作るのが難しかったと振り返りました。
人物の複雑な気持ちを、声の温度で描く歌です。

母音の途中に嘆きを宿すことも、高音へ向かう前に抑えることも、声で人物を描くための選択です。
KAMIJOの歌では、発声の工夫と物語の感情が結びついています。
まずは一曲の中で、声が強まる場所、柔らかくなる場所、言葉を伸ばして形を変える場所を追ってみる。
壮大な音楽の中に、一人の人間へ近づくような歌の細部が見えてきます。
こうした選択が育った歩みは、KAMIJO(Versailles)の歌唱変遷でたどれます。

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