トビアス・サメット(Avantasia)の歌い方|高音の表情と、重ねる声から生まれる迫力

2019年『Moonglow』の取材に掲載されたトビアス・サメット シンガー
2019年『Moonglow』の取材に掲載されたトビアス・サメット

Avantasiaの曲には、トビアス・サメットだけが歌う版もある。
デモの段階では、自分で歌を入れているのです。
ゲストへ渡る歌も、自分の声で形を探すのです。
声を出しながら曲を考える歌手でもある。

高い音と、声の荒さを別々に考える

トビアスは、高い音域を保ちながら、感情を優先して歌うようになったと説明しています。
その手応えを感じた例に挙げたのが、「Your Love Is Evil」と「States of Matter」のサビでした。
高い音の表情も、本人は重視しているのです。

エリック・シンガーが彼に勧めたのは、ブルースを土台にした歌手からも学ぶことでした。

トビアスを聴く際も、高音が成功した瞬間だけを待つより、メロディーをどう歌として運ぶかへ耳を向けると、こうした関心が見えてきます。

トビアスは、制作で求められる荒さと、自分が選ぶ滑らかな声の違いも語っています。
両方を経験しているからこそ、荒さだけを彼の正解にすることはできません。

ビブラートは、伸ばした音の表情になる

Edguyの「Tears of a Mandrake」(2001年)は、トビアスのビブラートを知る一例です。
原録音の約1分35秒にある語尾の声の揺れが、その具体例になります。
ビブラートには、揺れる速さと揺れの幅という、異なる聴きどころがあります。
音が高いかどうかとは別に、伸ばした音がどのように動くかへ耳を向けると、歌声の表情を追いやすくなります。
ここで分かるのは音の揺れで、本人の喉の動きを実測した結果ではありません。

力強い曲でも、何を歌わせるかは違う

本人が歌う「Unleash the Kraken」は、怒りを起点にした曲です。
ただし、その感情を放り出すだけでなく、自分を前に進ませる力へ変えることを考えていました。
Edguyの「Mysteria」や「Under the Moon」に通じる要素がありながら、共同制作者サシャ・ピートのギターで、激しく複雑な方向へ進んでいます。
細かく動く曲全体の中で、歌を担っています。

この曲について、本人はヘヴィなギター、激しさ、遊び心が同居していると説明しています。
力を込める歌でも、曲の中にはいくつもの表情がある。
怒りの歌だから最初から最後まで同じ強さ、という捉え方では、その動きを見落とします。
大きな感情を一曲の中でどう展開するかという視点で聴きたい作品です。

2022年の取材に掲載されたトビアス・サメット
2022年の取材に掲載されたトビアス・サメット。
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相手の声を思い浮かべ、自分の声でも試す

トビアスは、自分を様々な音をまねるコトドリにたとえています。
好きな歌手を長く聴いているため、ボブ・カトレイやロニー・アトキンスを想定した曲は、録音する前からその声で頭に響くそうです。
ジェフ・テイトから、どちらが歌ったか分かりにくいと言われたこともあると話しています。
必要な声の性格を、模倣でも試しているのです。

いつも相手が先に決まるわけではありません。
ある種類の声を思い浮かべて曲を書き、後からその声に合う人を探すこともあります。
ミートローフを想定しても実現しなければ、自分で歌うこともあると本人は説明しました。

ただし、完成盤の声をすべてトビアスの技として聴くことはできません。
例えば「Scales of Justice」で求められた特別な声は、ティム・“リッパー”・オーウェンズが担いました。
「Death Is Just a Feeling」の劇的な人物像には、ジョン・オリヴァが選ばれています。
強烈な高音や声の演技に驚いたときは、誰がその役を受け持つ曲なのかを知ると、トビアス自身の選択も分かりやすくなります。

「Mystery of a Blood Red Rose」では、想定していたミートローフの参加が実現せず、トビアス自身が歌いました。
静かな導入から芝居がかったメロディーへ進む曲で、声の性格にも、当初思い描いた歌手の影響が残っています。
本人によれば、バックボーカルを望みどおりに録るだけでも、約3日半かかりました。
主旋律の声色と、その周りを埋める歌の組み合わせで、大きなドラマを作った例です。

コーラスの厚みは、一人の大声とは違う

Edguyの頃から、彼は違う性格の声を重ねて、大きなバックボーカルを作ろうとしていました。
男性だけでなく女性の声も迎え、それぞれの個性で響きを広げる考え方です。

歌の厚みを、主旋律の声量だけへ結びつけないことも大切です。

2022年の『A Paranormal Evening with the Moonflower Society』では、本人がコーラス作りにも深く関わりました。
場合によっては、80ものトラックに声を重ねたと説明しています。
一度の発声で巨大な響きを出したという話ではありません。
録音した声を何層にも組み合わせ、歌の周囲を作っていく仕事です。
自分の声を素材に、合唱も組み立てています。

デュエットでは、相手の声が映える場所を作る

「Misplaced Among the Angels」と「Kill the Pain Away」は、どちらもフロール・ヤンセンとの共演曲です。
先に送ったバラードが彼女の声に合うかを考える中で、トビアスは後者を書きました。
結果として彼女は両方を歌っています。
同じ相手と歌う場合でも、曲の形を変えれば、声を生かす方法は変わる。
デュエットの相性を、歌手の名前だけで決めていないのです。

舞台では、声を交代できることが、自分の歌を保つ助けにもなります。
トビアスは、一曲、あるいは一つの節を歌った後に短い休みが入るため、長い公演でも負担を分けられると説明しました。
出番が多い彼自身にも、歌わない時間がある。
強い声を出し続ける体力だけでなく、公演の中で声を使う時間を組み立てることが関わっています。
準備については、舞台前に発声練習をするとも話しています。
特別な飲み物に声を任せるというより、温めた声で舞台へ出て、仲間と歌い継ぐ。
録音で一つのフレーズを仕上げる場面とは、声との付き合い方も変わります。

2019年の取材に掲載された、舞台上のトビアス・サメット
2019年の取材に掲載された、舞台上のトビアス・サメット。
画像出典:画像掲載元

聴き手を誘う声も、トビアスの持ち味

「Creepshow」には、聴き手を自分たちの世界へ誘い込む、いたずらっぽい態度があります。
本人は、この曲に自分のユーモアや遊び心を戻せたことを喜んでいました。
深刻さを押し出す曲と、少し笑みを含んで人を迎える曲では、歌の人物像も変わります。

荒々しさ、滑らかさ、相手を思い浮かべた声の演技、何層にも重なるコーラス。
トビアスの歌い方は、それらを曲に応じて選ぶところに面白さがあります。
一つの高音に注目した後は、その前後の声の役割や、別の歌手へ受け渡される場面も追ってみる。
そうすると、名歌手たちと並ぶ彼の仕事が、より立体的に見えてきます。
この選択肢が育った歩みは、トビアス・サメット(Avantasia)の歌唱変遷でたどれます。

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