織田かおりは、力強く歌い上げる場面の外で、どんな声を使っているのでしょうか。
本人の曲ごとの説明には、息の量や休符、マイクとの距離まで、さまざまな工夫が出てきます。
一曲ごとの選択から、声の表情が変わる理由を考えます。
「ゼロトケイ」は、強さを出しても暑苦しくしない
「ゼロトケイ」は、TVアニメ『ノルン+ノネット』のエンディング曲です。
織田は、物語を見終えた人が余韻に浸れる歌を目指し、感情を熱く押しつけすぎないことを大切にしました。
Aメロでは息を多めにして、空間を感じさせる表現を試しました。
ただ息を増やせば完成するわけではなく、雰囲気を重視した声を、曲の中でどう合わせるかに時間がかかったそうです。
サビでも、力を出しながら繊細さが残るように意識していました。
Aメロの息の多い声と、サビの力。
両方を必要とした曲なので、張り上げる場面だけでは、その歌い方を捉えきれません。
音を出していない時間にも、歌は続いている
「暁のバタフライ」では、作曲を手がけたMANYOから、休符も歌うという助言を受けています。
休符は、譜面上で音を出さない時間です。
織田はそこを、歌詞を受け止める時間であり、次の言葉を待つ時間でもあると考えていました。
曲には拍子が変わる部分もあり、サビでは声を伸ばす力も求められます。
それでも、音が続いている部分だけを整えればよいわけではない。
言葉が途切れた後に残る感じまで含めて、フレーズを作っているのです。
休みを埋めずに残すことも、積極的な表現になり得る。
織田は、音を出す時間と余白を一緒に考えていたのです。
「Reverberation」では、言葉を詰めても輪郭を失わない
同じ『AMNESIA』シリーズの曲でも、「Reverberation」での課題は違いました。
2013年5月の録音では、曲のテンポに対して音数が多く、滑舌とリズムに特に気を使ったと説明しています。
言葉を次々に畳みかける曲だからこそ、一つ一つをどう運ぶかが大切だったのです。
本人はこの曲を、熱さを押し出すより、クールなロックとして捉えていました。
歌が速く進むことと、感情をむき出しにすることは同じではありません。
言葉を密に置きながら、どんな温度で聴かせるかまで選んでいます。
音を空ける曲と、言葉を密に置く曲。
曲ごとに必要なリズムの扱いを選ぶ姿勢が、この二曲にも表れています。
言葉の音を選ぶ工夫は、自分で詞を書く「Give it to you」にも表れています。
サビの英語は、まず欲しい響きがあり、そこに合う単語を探して組み合わせたそうです。
言いたいことと音符が合ったとき、ロックとして歌えるという手応えがありました。
伸ばしたい場所にどんな音を置くか、アクセントの位置に合う終わり方は何か。
歌う立場での感覚を、歌詞を選ぶ段階から働かせています。
意味が通るかどうかはサッシャにも確認し、今回はほとんど修正されなかったと話しました。
歌詞を選ぶ段階から、声でどう響くかを考える。
作詞と歌唱がつながる工夫です。

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甘い声は、歌ってみて初めて見つかることもある
「with you…」では、日常の小さな幸せを表すような、甘い歌を目指しました。
それでも歌い終わるまでは、ここまで甘い感じになるとは本人も思っていなかったそうです。
初めに決めた声色を再現するだけでなく、歌う中で表現の行き先が見えてくることもあります。
実際には、甘くなりすぎた声へスタッフから指摘も入っています。
織田は甘く歌うこと自体は残しながら、最終的には濃くなりすぎない仕上がりにしたと話しました。
柔らかい歌でも、甘さを出せるだけ出せば完成、というわけではなかったのです。
この曲では楽器とボーカルを同時に録音し、セッションしながら編曲を進めました。
完成した伴奏に後から声だけを入れる場合とは、制作の関わり方が違います。
歌も伴奏も動かしながら、一つの曲の表情を形にした録音でした。
高くかわいく歌う声と、近くでささやく声
『Flowers』収録の「Can’t Stop Love」では、かわいらしさに合わせてキーを高めにし、声も高くしたと話しています。
一方、「懐旧の庭園」では、マイクに口を近づけ、ささやくように歌いました。
後者では、ハモリにも、それまで録ったことのないほど低い部分を使っています。
「懐旧の庭園」は、懐かしさや風景を言葉で思い浮かべてもらおうとした曲です。
声を近づけて語るようにする選択が、その狙いに結びついています。
高い声が得意だから高く歌う、低い声が出るから低く歌う、というだけでは、二曲の違いを説明できません。
別の歌手に似せなくても、声は混ざり合う
石田燿子とともに「Over The Testament」を歌ったとき、織田は、自分とはまったく違う声色や歌唱法を持つ人との共演だと考えていました。
石田の歌は先に録られていたため、自分は違いを出すべきかとも迷います。
しかし、無理に意識しなくてよいと言われ、そのまま自分の解釈で歌いました。
完成した歌について二人が驚いたのは、違う声がどちらも損なわれずに混ざったことです。
織田は、歌に癖を付ける場所が異なるためではないかと考えていました。

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言葉を離れた声にも、本人の気分が出る
『Gift』の「mindscape.」の終盤は、意味の決まった歌詞を歌わないスキャットです。
外国語ではなく、そのときの気持ちで自由に歌ったと本人は説明しています。
FictionJunctionで歌う際、織田は、複数の声の中で自分をどう響かせるかを考え、声も楽器の一つとして捉えると話しています。
一方、ソロでは人間らしい感情の部分をより出すという意識があります。
歌のどこで自分を出し、どこで作品の風景に寄り添うか。
その問いを、織田かおりは声を使いながら考えてきたのでしょう。
力強いという印象を持っている人ほど、歌い上げる部分の前後にも耳を向けると、同じ歌の別の表情を探せます。
録音方法や、自分の声への向き合い方が変わった経緯は、織田かおりの歌声の変遷でたどっています。

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