ジェニファー・ハドソンの歌い方|強い声を、どこで抑え、どこで解き放つのか

2021年『リスペクト』取材のジェニファー・ハドソン/撮影:Valerie Durant(TheWrap) シンガー
2021年『リスペクト』取材のジェニファー・ハドソン/撮影:Valerie Durant(TheWrap)

ジェニファー・ハドソンの歌には、強い声で感情を一気に届ける迫力があります。
ただ、大きく歌えることだけで、その表現を説明することはできません。
曲の途中でどこまで気持ちを出すのか、低い声をどんな表情で置くのか、誰かと歌うときにどこへ力を向けるのか。
本人の歌唱への考えと、曲ごとの具体例から、声の強さを生かす選択を見ていきます。

張りのある声を、高い音まで持っていく

ハドソンは自分の歌い方について、ヘッドトーンよりも「full voice」で多くの音を出すと説明しています。
ここでは本人の感覚的な言葉として、芯のある声で歌おうとする意識を読み取れます。
これだけで、すべての高音の声区や体の使い方を決めつけることはできません。

「He Ain't Goin' Nowhere」では、低い声に遊び心を持たせ、サビのゴスペル的な力強さへつなげています。
この曲の面白さは、高い音だけを聴かせどころにしないことです。
低い音の押しの強さを、親密で挑発的な表情へ変え、その後の開放感との違いを作る。
音の高さと、言葉をどう渡すかが一緒に働いています。

強い声だからこそ、初めから全部を出さない

『ドリームガールズ』では、本人は主題歌「Dreamgirls」で声を抑えるよう求められたと話しています。
声を引くのは難しかった一方、「Heavy」では思いきり歌うよう求められました。
同じ映画でも、すべての曲を最大の声で歌うわけではありません。

「And I Am Telling You I'm Not Going」でも、誇りを守る人物が次第に切迫していく流れがあります。
監督は、感情が早く出すぎたときには抑えるよう指示していました。
強い声の効果は、最後の大きさだけでなく、そこへ行くまで何を残しておくかによっても決まるのです。

2006年映画『ドリームガールズ』のサウンドトラック版

2011年の「No One Gonna Love You」も、声が段階的に大きくなる曲として捉えると面白い一曲です。
リッチ・ハリソンによる控えめな伴奏の中で、歌が少しずつ堂々とした姿へ育ちます。
伴奏の密度を上げ続けなくても、声の変化そのものが展開を作れる。
ハドソンの声の存在感は、周りに余白があるときにも発揮されます。

2014年5月掲載のジェニファー・ハドソン/GoPride
2014年5月掲載のジェニファー・ハドソン/GoPride。
画像出典:画像掲載元

リズムの中で楽しむ声と、感情を吐き出す声

「I Can't Describe (The Way I Feel)」のようなダンス曲では、歌う側だけが立派に聴こえることが目的ではありません。
『JHUD』の頃、本人は正しい音を外さず出すことから、聴く人にも気持ちよく楽しんでもらうことへ、意識が移ったと話しました。
技術を捨てたという話ではなく、何のために歌うかの重心が変わったのです。

同じ時期の「Moan」は、母の言葉をきっかけに生まれた、個人的な感情の歌です。
声を出すこと自体が、言葉だけでは抱えきれない気持ちの出口になる。
明るく人を誘う曲の声と、内側から気持ちをほどく声は、同じ強さを持っていても向きが違います。

この曲を含む『JHUD』では、軽く低く歌う部分の扱いを課題とする評もありました。
それだけに、低い音を歌えることと、その音で自然な表情を作れることは分けて考えたいところです。
ハドソンの力強さを評価することは、すべての曲で同じ表現が最適だと決めることではありません。

アレサの声を、自分の楽器で表す

アレサ・フランクリンを演じる準備で、トム・ジョーンズは、アレサは頭の上から、ハドソンは足元から歌うようだと、二人の違いを表しました。
これは体のどこかから実際に音が出るという説明ではなく、歌声の印象を伝える比喩です。
同じ力強い歌手に聞こえても、声の向かい方は同じではない。
ハドソンにとって、その違いを意識することが役への入口になりました。

彼女は『リスペクト』で、アレサの歌の組み立てや細かな表情を取り入れつつ、ものまねだけにはしない方法を探っています。
一曲を歌手として歌うときとは違い、映画では人物の年齢、その場の状況、口にしない気持ちまで、歌に関わります。
同じ名曲でも、どの場面で歌うかによって声の役割が変わるのです。

2021年映画『リスペクト』のサウンドトラック版

監督が目指したのも、親密な弱さと、大舞台での高揚を両方見せることでした。
「Respect」の堂々とした場面だけを抜き出すと、役がたどったためらいや不安は見えにくくなります。
強い声が一層生きるのは、人物の小さな気持ちも歌の中にあるからでしょう。

2021年『リスペクト』のジェニファー・ハドソン/画像:Universal
2021年『リスペクト』のジェニファー・ハドソン/画像:Universal。
画像出典:画像掲載元

ゴスペルは、声を大きくするためだけのものではない

「Here I Am (Singing My Way Home)」のゴスペル的な導入は、ハドソンから出たアイデアです。
キャロル・キングは、それが彼女の教会での背景から生まれたと説明しています。
アレサと自分に共通する原点を、曲の入口に置く。
声を張るための様式というだけでなく、誰の思いを歌うのかを示す役割があるのです。

『The Gift of Love』で「Little Drummer Boy」を歌うときも、本人は自分の音楽のルーツを見せるつもりだったと話しています。
「The Christmas Song」は祖母が好んだナット・キング・コールの記憶と結びつき、「O Holy Night」は毎年編曲して家族に贈っていた曲でした。
よく知られた曲を選ぶことが、そのまま自分の来歴を語ることにもなっています。

録音でも、目の前で歌が生まれる感覚を残す

「Hallelujah」の録音では、グレッグ・フィリンゲインズと編曲を整え、いつものバックシンガーたちとライブのように歌いました。
本人が求めたのは、同じ空間にいるように感じられ、その瞬間に歌が育つ響きです。
正確な音を並べるだけでなく、歌う人同士の気持ちが動いている感覚を大切にしていました。

舞台で歌うときには、別の配分も必要です。
『The Color Purple』の頃、ハドソンは、せりふを届かせることにも歌と同じほどのエネルギーを使うと気づいていました。
一曲だけの強さではなく、話す声も含めて人物を保つ。
彼女の歌を舞台の流れの中で聴くと、声が担う仕事の多さが分かります。

ジェニファー・ハドソンの歌い方は、強い声を持っていることと、その強さの意味を考えることが結びついた歌です。
出し切る前に抑える、低い声に表情をつける、役や共演者に合わせて力を向け直す。
声量だけを追わず、どこで声の印象が変わり、それが何を伝えるのかに注目すると、迫力の奥にある選択が見えてきます。
その選択が育ってきた歩みは、ジェニファー・ハドソンの歌唱変遷で紹介しています。

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