横山健の歌は、勢いよく声を出せば出来上がるものではありません。
他の歌手のざらついた低音を再現したくても、自分が歌うときれいに出てしまう。
英語なら自分らしく感じられる声が、日本語になると違って聞こえる。
そんな違いを本人が意識しながら、曲に合う高さ、声の表情、言葉の置き方を選んでいます。
低い声が、必ずしもざらつくとは限らない
2024年のカバー作品『The Golden Age Of Punk Rock』で、横山が苦心したのは、他人の作ったメロディを自分の声で歌うことでした。
ディセンデンツの「I'm The One」では、マイロの声は自分より低い音でも歪むのに、自分が歌うと滑らかに出てしまうと説明しています。
同じ音程を歌えても、声の手触りまで同じになるわけではなかったのです。
そこで迷ったのは、原曲の声へ近づけるか、自分の出方を生かすかということでした。
さらに、オフスプリングでやりたかった曲は、原曲のキーでは高すぎて採用できなかったといいます。
横山自身、どんな高さでも同じ荒さを出せるとは考えていません。
ここは、パンクの声を一つの出し方で捉えないための手がかりになります。
低く歌えば自動的に太く歪む、高く張れば原曲のようになる、という関係ではない。
横山が気にしているのは、音の高さと、その高さで自分の声がどう響くかの組み合わせです。
ざらついた声だけを目印にすると、本人が悩んだ、きれいに出る声との違いを取り逃してしまいます。
「These Magic Words」は、歌いやすさから曲を変える
自作曲では、その調整が曲の構成にまで及びます。
2023年の「These Magic Words」は、歌とギターから始まる形をもとに、バンドで広げた曲です。
横山は、一度録って聴き返すなかで、そのままでは2番を歌う音が低すぎると感じ、転調を取り入れました。
その結果、1番と2番のAメロは異なるキーになっています。
決まった伴奏に声を無理に合わせる前に、声が生きる位置へ曲の側を動かす。
ここでは転調が、終盤を派手に盛り上げるためだけの仕掛けになっていません。
歌い手が次の言葉へ進みやすくする工夫が、曲を聴くときの動きにもなっています。
同じ2023年の「My One Wish」は、本人が、リハーサルでも歌っていて気持ちがいいと話す曲です。
速い演奏のなかに、横山が得意とするメロディの流れを置く。
新しい試みを重ねても、自分が自然に歌える曲をバンドで繰り返す楽しさは、歌の中心に残っています。
声の個性は、声質だけで独立しているわけではありません。
どの高さでメロディを動かし、どの速さの演奏に乗せるかによっても、歌い手の持ち味は変わります。
横山の歌を考えるときは、声を出す瞬間と、その声を受け止める曲作りを一緒に見ると、選択の理由がわかります。
録音では、感情が動く瞬間を待つ

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2024年の「Deep Red Morning Light」について、横山は、気持ちを強く込めた歌を録れたと話しています。
曲の背景や歌詞から、どんな表情で歌うかは考えていても、ブースに入って歌ううちに気持ちが高まることがある。
エンジニアは、その良い瞬間が出るまで待ち、迷ったときには方向を助言していたといいます。
準備した通りに同じ強さで歌い切ることと、その場で生まれた熱を残すこと。
録音では、その二つを行き来しています。
本人が気に入った歌の緊迫感を、声の荒さという一つの性質だけに置き換えるより、曲を理解して歌い、その途中で動いた感情も受け取る作業として捉える方が、実際の制作に近づけます。
この歌への向き合い方は、宮本浩次と制作をともにした経験を経て、深まってきたものでした。
音程を合わせた声のなかから、どの表情を残すのか。
長くギタリストとして活動してきた横山が、その判断にも時間を使うようになった過程は、横山健の歌唱変遷でたどっています。
日本語になると、いつもの声が変わる
2026年の「The Ballad」では、英語と日本語の違いが課題になりました。
横山は、英語の語尾にある音が日本語にはなく、同じように歌っても声質が変わると感じています。
さらに「Goodbye, So Long」の2番では、言葉に動かされる形で、歌い回しを崩す表現が生まれました。
日常の言葉を使うことが、慣れた英語の歌い方をそのまま移す作業にはならなかったのです。
日本語なら、本人は言葉の順序によって生まれる細かな印象まで考えられます。
一方で、英語のときと同じように言葉をメロディへ詰められるわけでもありません。
「Goodbye, So Long」は、以前の制作で完成に至らなかった曲を、日本語の言葉とともに改めて形にしたものでした。
一音ずつをきちんと並べれば歌になる、というだけでは、話すときの気持ちまで届きません。
どこで言い切り、どこを少し崩すかによって、同じ文章でも相手へ向ける表情が変わります。
この曲の2番は、横山が言葉から歌い回しを見つけた、具体的な手がかりです。
英語の響きに慣れた声と、日本語の意味を細かく扱える感覚が、新しいところで出会っています。
自分の声に、もう一人の声を迎える
2023年の「Tomorrow」では、木村カエラを迎え、二人で歌っています。
もとは2021年の配信ライブで彼女が希望した曲で、バンドが急いでアレンジし、一緒に演奏したことが録音へつながりました。
横山は、彼女もポップパンクの文化をよく知る人だから、声が合うことを自然に受け止めていました。
声を似せることと、一緒に歌ったときに合うことは違います。
カバーで他の歌手のざらつきに向き合う一方、共演では、自分一人の声へまとめる必要がない。
二人の歌う「Tomorrow」は、横山の声を、相手の声と並べて受け取れる場面になっています。
観客の声も、ライブでは大切な相手です。
2021年12月の新木場STUDIO COAST公演では、普段なら客席へ歌を渡す「Believer」を、横山が最後まで歌いました。
観客が大きな声を出せない状況だったからです。
いつもなら複数の声で作る部分を一人で引き受けることで、同じ曲の歌い方も変わっていました。

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2023年11月のLINE CUBE SHIBUYAでは、逆に客席へ声を出すよう促しています。
最初は遠慮がちだった観客に、何度も声を返してもらい、「Walk」で一緒に歌う流れを作りました。
歌い手が完成した声を差し出すだけでなく、客席が声を出せる状態を作ることも、横山のライブでの歌の仕事です。
横山健の歌い方は、ざらついた音色一つでは捉えきれません。
自分の声が自然に出る高さを探し、録音で気持ちが動く瞬間を残し、言葉が変われば歌い回しも考え直す。
そのうえで、共演者や観客の声が入る場所を作っています。
「These Magic Words」の高さの工夫と、「Goodbye, So Long」の言葉に引かれた歌い回しを並べると、その具体的な選び方が見えてきます。







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