ジェルの歌を知る入口は、一つではありません。
すとぷりで歌う低く柔らかな声から知った人もいれば、自作アニメ「遠井さん」のにぎやかなやり取りから、歌声に興味を持った人もいるでしょう。
この二つは、別々に積み重なってきた活動が、やがて一曲の中で出会ったものです。
自分らしい声を届けることから出発し、ソロ公演を担い、ついには9人分の歌声を録音する。
ジェルの歩みをたどると、歌の中で演じる役割が、少しずつ広がってきたことが分かります。
2016〜2019年、自分の声で歌う意味を見つける
すとぷりへの参加を、ジェルはななもり。から歌に誘われた電話とともに振り返っています。
当初は趣味だった活動も、ライブで応援してくれる人に会い、その反応を受け取るうちに、自分の居場所になっていきました。
声を届けた先に相手がいるという実感が、ワンマンやソロアルバムへ踏み出す支えになったのです。
2019年のミニアルバム『すとろべりーすたーと』の頃、歌うときに大切にしていることを聞かれたジェルは、自分らしさを挙げていました。
リスナーが求めているのは、歌のうまさだけではないと考えていたのです。
この出発点は、後の声の演じ分けを考えるうえでも大切です。
まずあったのは、たくさんの声を出せることを見せたいという説明ではなく、ジェルの歌として受け取ってもらいたいという姿勢でした。
個性のある声を、誰に、どんな場面で届けるか。
その問いが、グループの一員として歌う場所から、自分が中心に立つ場所へ広がっていきます。
2020年、一人で公演を担う声になる
2020年1月、Zepp Osaka Baysideで開いた2度目のソロ公演で、ジェルは一年前の初ワンマンを振り返りました。
周囲を支えるだけでなく、自分を一番に応援する人のために主役になろうと考えたことが、その一歩につながっていました。
この公演では、すとぷりの「僕らだけのシャングリラ」を一人で歌い、自作曲「Always」は鍵盤だけを伴奏に歌い始めています。

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グループの曲を一人で受け持つことと、伴奏を絞った自作曲で言葉を届けること。
この並びには、ジェル一人の歌で、公演の雰囲気を動かすという課題があります。
メンバーが交代することで生まれていた変化を、ソロでは選曲や声の表情でつくっていく。
一方で、静かに歌を聴いてもらう場面も、自分の声で引き受けるようになりました。
同じ時期の『すとろべりーねくすとっ!』でも、新しい曲に合わせて歌い方を選んでいます。
「忍恋」は、ななもり。とジェルが別々に録音した曲でした。
先に録ったジェルの歌の高いテンションを受けて、ななもり。も体を動かしながら歌ったといいます。
声は、自分の個性を示すだけでなく、相手の歌を引き出す働きも持つようになっていたのです。
ソロの主役になることと、二人で歌をつくることは、競い合う目標ではありませんでした。
どちらも、相手の反応を受け取りながら表現を広げる場所だったと考えられます。
2021年、『Believe』で自作曲と新しい作家の曲が並ぶ
2021年2月24日、初のフルアルバム『Believe』が発売されます。
「ポーカーダンス」「Sコート」などとともに、15曲を収めた作品です。
「Always」と「帝都群青」には、アルバム版であることを示す「Believe ver.」の表記が付いています。
じんによる「虚」、梅とらによる「あなたに告げる始まりの音」、蝶々Pによる「Monopolize」など、異なる作家の曲も入りました。
そして表題曲「Believe」は、ジェルが詞を書き、すとぷりが歌う曲です。
ソロアルバムの中に、グループの声が加わる場所を設けています。
ここで見えてくるのは、一枚をすべて同じ役柄で押し通すのではなく、自作曲と提供曲、一人の歌と仲間の歌を組み合わせる方向です。
ソロの活動を広げても、すとぷりで歌う自分が切り離されるわけではない。
このつながりがあるからこそ、アルバムを単に独立のための作品として見るだけでは、歌の置き方を捉えきれません。
2023年、9人の歌声で一つの世界をつくる
ジェルは2022年に、すとぷりの活動を休止しています。
翌年の「遠い未来まで恋をして」は、グループへの復帰より前に発表した作品でした。
大きく変わったのは、2023年7月に公開した「遠い未来まで恋をして」です。
自作アニメ「遠井さん」の登場人物たちが歌うこの曲で、全員の歌声をジェルが担当しました。
9人の声を歌うのは初めてで、二日をかけて録音したと本人が明かしています。
それ以前のソロ公演では、一人の歌い手が、曲ごとに違う表情を見せていました。
ここでは一曲の中に、複数の登場人物の声を置くようになります。
歌の表情を変えることが、そのまま、物語の中で誰が歌っているかを伝えることにつながったのです。
この曲は、台詞の掛け合いを含む、テンポの速いコミックソングです。
以前から構想していた合唱で、聴く人も加わりたくなる楽しさを目指しました。
9人という数だけに注目すると、声の種類を披露する作品にも見えるかもしれません。
しかし、彼が目指したのは、登場人物が集まって過ごす時間そのものを、歌で届けることでした。
自分らしさを一人の歌声に込めていた段階から、自分が作った世界全体を声で演じる段階へ。
この変化こそ、ジェルの歌唱をたどるうえで大きな転機です。
2024年以降、にぎやかな役の歌と、一人で届ける歌
2024年1月、ジェルがすとぷりの活動へ戻ることが発表されます。
本人が語ったのは、自分を大切にしながら活動する道を選びたいという思いでした。
一人で新しい作品を届けた時間を経て、仲間と歌う場所にも戻ってきます。
同年7月には「星のない夜は」のMVを公開しました。
暗い時間の中で希望を見つけることを題材にした、ピアノロックのバラードです。
大勢の登場人物が集う歌から、一人の歌い手として思いを届ける曲へ、作品の焦点が移ります。
これは、役を演じる歌い方を終えたという意味ではありません。
複数の声で楽しい場をつくることと、一人の歌で聴く人に向き合うことが、選べるようになったと見るほうが自然です。
声の役割が増えても、自分の言葉を受け取ってもらう場所は残っていました。
2025年には「遠井さん」が映画になりました。
ジェルは、アニメならではの表現で、面白いと想像したものを形にしたいと語っています。
歌の演じ分けが育った世界そのものも、新しい規模へ広がった年でした。

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2026年7月にMVを公開した「16フェイカー」では、性格診断だけで人を決めつけられないという主題を扱っています。
れるりりが作詞・作曲を担当し、ロックと電子音を組み合わせた曲です。
ここには、莉犬、るぅと、ころん、さとみもコーラスで参加しています。
ジェルが主役のソロ曲にも、仲間と声を重ねる場所があります。
同年8月、すとぷりの結成10周年ツアー最終公演では、休止期間を振り返る映像と曲が並びました。
「マブシガリヤ」は全員のアカペラで始まり、歌声を順につなぐ形で届けられています。
別々の人物を一人で歌う表現を広げても、仲間と一つの歌を作る場所は続いている。
初期に自分の声を見つけたグループは、役の歌を知った後にも戻っていける、もう一つの歌の場なのです。
ジェルの変遷は、低い声が高くなった、あるいは歌い方を一つに完成させた、という線では捉えにくいものです。
グループの中で自分らしく歌い、一人で公演を担い、物語の登場人物たちを歌わせる。
そのうえで、また一人の歌い手として聴く人へ向き合う。
声に任せられる役割が増えたことが、彼の表現の広がりになっています。
曲の中で声をどう使い分けているかは、ジェル(すとぷり)の歌い方で掘り下げます。







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