最初から、泣きながら歌うことを目指していたわけではありません。
こはならむは、投稿を始めた頃には、できるだけきれいに歌おうとしていたと振り返っています。
ところが、優里の「ドライフラワー」を歌ったとき、親しい友人と離れる寂しさが重なり、実際に涙が出ました。
その声を公開するかどうか、本人にも迷いがあったのです。
感情をそのまま残したカバーから、アニメの人物の気持ちを演じる歌へ。
さらに2024年には、明るい曲とラップへの挑戦も始まります。
2019年のYouTube投稿開始から2025年のアルバム『Iam』までをたどると、こはならむが何を感じ、どんな声を選ぶようになったのかが見えてきます。
きれいに整える歌から、感情を出してもよいと思える歌へ
歌を投稿するきっかけは、友人が使っていた音楽コラボアプリ「nana」でした。
当初は仕事にするつもりではなく、互いの歌を聴いたり、一緒に歌ったりする交流が楽しみだったそうです。
やがて、もっとよい仕上がりにしたくなり、声を重ねたりハモりを入れたりするようになります。
2019年9月には、さらに多くの人へ届けようとYouTubeへの投稿も始めました。
歌を追求するうえで影響を受けた人として、本人はヨルシカのsuisと歌い手のSouを挙げています。
特にSouの「心做し」の歌唱に触れ、ここまで感情を込めてよいのだと感じたことが、自分の表現の幅を広げたといいます。
初めに意識していたきれいさに加え、聴く人へ思いが届くかどうかが大切になっていきました。
転機となった「ドライフラワー」のカバーでは、長く仲のよかった友人と離れる時期に、その人を思い浮かべながら歌いました。
歌っている最中に涙が出たのは、それが初めてだったそうです。
こはならむは、その声を聴いて、これはこれでよいのではないかと考えました。
ただ、「泣きながら」という題名は変ではないかと迷い、投稿したあとも本当にこれでよかったのかと心配しています。
結果としてYouTubeやTikTokで多くの人に聴かれ、本人は出してよかったと受け止めました。
よく知られた歌い方の出発点にあったのは、最初から決めた演出ではなく、歌いながらこぼれた感情を残すという判断だったのです。
「ドライフラワー」本人公式カバー(2020年公開)。
2021年2月に公開した「心做し」のピアノ版カバーでは、本人が主旋律一本に気持ちを込めたと説明しています。
初期に声を重ねて仕上がりを高めようとしていた人が、声の重ね方も含め、曲ごとに伝え方を選んでいました。
その後の録音でも、いつも涙が自然に出るのを待っているわけではありません。
本人は、息を震わせたり、速く吸ったりする違いも表現に使い、録りながら何通りも試すと話しています。
感情が出た声を受け入れた経験から、今度は曲に合う感情の表し方を選ぶ作業へと広がっていきました。
2023年|「数センチメンタル」で、感情が漏れる瞬間を作る
テレビアニメ『僕の心のヤバイやつ』第1期のエンディングテーマ「数センチメンタル」では、歌うときの視点が変わります。
こはならむが思い浮かべたのは、主人公の市川京太郎と、ヒロインの山田杏奈でした。
自分の別れを重ねたカバーに対し、ここでは二人の距離や年齢を声にすることが必要になったのです。
本人は、それまでのように感情を前面へ出すのではなく、思わず表に漏れてしまう感じを表したかったと説明しています。
Aメロは、夕暮れに市川が考えを必死に整理し、早口で話すように。
サビは、山田との距離が縮まり、思いを直接伝えるように。
同じ一曲の中でも、気持ちを内側で整理するところから、相手へ渡すところへ進ませました。
二人の年齢に合わせた幼さを出すため、声色も一つに決めず、複数を録って選んでいます。
言葉をうまくまとめられない部分では、きれいに歌うべきか、少し崩すべきか迷いました。
プロデュースを担当した蔦谷好位置は、崩したほうが、まとまらない気持ちが伝わると助言しています。
初期には自分の涙を残しましたが、今回は登場人物の迷いを伝えるために、整えすぎない歌を選びました。
「数センチメンタル」公式アニメスペシャル版(2023年公開)。
この制作を終えた本人は、感情を露わにする歌とは違う表現を初めて試せたので、またこうした曲も歌いたいと話しています。
「泣く」という一つの結果から、言葉になる前の戸惑いまで歌えるようにする。
「数センチメンタル」は、感情の置き方そのものを増やす経験でした。
2024年|恋の喜びを、周りから祝福される歌にする
第2期のエンディングテーマ「恋してる自分すら愛せるんだ」では、二人の関係がさらに進みます。
こはならむは、山田を好きになることで、市川が自分自身にも前向きになっていく歌詞に惹かれたといいます。
第1期のもどかしさをそのまま繰り返すのではなく、関係が進んだ先の喜びを受け取りました。
制作側へは、学校の雰囲気と、二人の関係をみんなで祝福するような感じを要望しています。
そのイメージは、チャイムを思わせる音や、手拍子をしながら一緒に歌うようなサビにつながりました。
届いた仮歌がよかったため、本人はそれを越えなければというプレッシャーも感じたそうです。
歌詞に合う場面を頭の中で作り、ボイストレーナーとも相談して歌い方を考えています。
録音では、歌詞に合わせて実際に手を重ね、その手を見ながら歌う工夫もしました。
身体を動かすと気持ちを落とし込みやすく、歌い方も変わるというのです。
幼い頃から続けたバレエと、声で柔らかさや濁りを使い分けることが、本人の中ではつながっていました。
歌う人物の気持ちを考えるだけでなく、その動きまで自分の身体へ通すようになっています。
初ワンマンで、声を届けた相手から声が返ってきた
2024年3月20日、初ワンマン「あなたに届けたかった」が開かれました。
紗幕の内側から歌い始めた公演には、「心做し」のようなカバーとオリジナル曲の両方が並んでいます。
「着信まち」では椅子に座り、ピアニカやボンゴ、アコースティックギターを使う編成で歌いました。
BARKSの公演評は、体を揺らすリラックスした姿と、自然に起こった客席の手拍子を伝えています。

画像出典:BARKSの初ワンマン写真
「恋してる自分すら愛せるんだ」では、本人が合唱を呼びかけ、観客と声を合わせました。
制作前に求めた、みんなで祝福する曲というイメージが、実際の会場にも広がった場面です。
こはならむは客席の反応を喜び、終盤には一人ひとりへ呼びかけながら歌いました。
投稿した歌へコメントが届く関係から、同じ場所で歌と反応を交わす関係も加わったのです。
10月のバースデーライブでは、その場をほかの歌い手とも共有しました。
ゲーム配信を通じて親交のあるライトと「数センチメンタル」のアコースティック版を歌い、山田杏奈役の羊宮妃那とは「恋してる自分すら愛せるんだ」で共演しています。
一人で人物の気持ちを思い描いていた歌が、共演者や観客と作る歌にもなりました。

画像出典:BARKSのバースデーライブ写真
「Have a Good Game!!」への不安を、客席が楽しさに変えた
2024年11月の「Have a Good Game!!」は、本人が明るいポップな曲を増やすきっかけになったと話す曲です。
普段親しんでいるゲームを題材に、ラップも入る作品になりました。
カバーでは明るい歌も歌っていたものの、オリジナルでこれほど明るく、しかもラップのある曲は初めてだったといいます。
新しい方向に不安はありましたが、リリースイベントで、一緒に踊る人や掛け声を覚えて返す人が現れました。
本人は、ライブでも初めてというほど楽しめる曲になったと振り返っています。
自分が試した明るさを、聴く人も一緒に楽しんでくれる。
その反応が、新しい歌を自分の表現として受け止める後押しになりました。
「Have a Good Game!!」公式MV(2024年公開)。
2025年の取材で、本人は表現の幅が広がった理由を、さまざまなカバーを歌ってきたことにも求めています。
明るい曲や、オリジナルにはない怒りのある曲を歌い、違う感情に触れてきました。
カバーは初期だけの活動ではなく、新しい声の使い道を探す場として続いていたのです。
『Iam』で、泣きたい日にも明るくなりたい日にも応える
2025年3月のアルバム『Iam』では、収録曲と曲順を本人が選びました。
ライブで使う「Overture」から「Have a Good Game!!」、そして「恋してる自分すら愛せるんだ」へ。
初めの三曲を自己紹介のように置き、そこから自然に違う表情へ進む流れを考えたといいます。
「ひとりじゃないんだ」から「僕らのファイトソング」へつなぐ順番にも、理由がありました。
こはならむは、相手へ頑張れと言うより、一緒に頑張ろうと伝えたい人だと話しています。
明るい歌へ進んでも、一人で頑張るように突き放す言葉にはしない。
曲を提供してもらう際にも、言葉のニュアンスを大切にし、歌詞への追加要望を出すことが多いそうです。
「ひとりじゃないんだ」公式MV(2024年公開)。
最後の「Iam」は、Guianoが本人に質問し、ファンや音楽活動への思いを聞いてから作った曲です。
当初は9曲目の予定でしたが、録音するうちに、これは最後に置きたいと感じ、まだ変更できるかをスタッフへ確認しました。
実際に歌ったときの手応えが、アルバムの結末を決める判断になったのです。
こはならむが望むのは、歌が聴き手の相談相手になることでした。
誰かに悩みを話すのが難しくても、音楽なら気軽に向き合える人がいる。
本人にもそうした思いがあり、明るくなりたい日にも、泣きたい日にも寄り添える曲を揃えたいと考えています。
「ドライフラワー」では自分の感情を残し、「数センチメンタル」では人物の迷いを選んで表し、「Have a Good Game!!」では客席と明るさを分け合う。
歌える表情が増えても、思い浮かべる相手は一人の「あなた」です。
声色や息をどう選び、その気持ちを一曲にするかは、こはならむの歌い方で掘り下げています。

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