にんじん(ロクデナシ)の歌声はどう変わった?「ただ声一つ」から「ユリイカ」「六花」まで

COUNTDOWN JAPAN 24/25で歌うロクデナシのにんじんのシルエット にんじん(ロクデナシ)

2025年のロクデナシの公演には、ピアノと歌だけになった直後、熱気のある前奏から「ユリイカ」へ飛び込む場面がありました。
前者は穏やかな「アマネゾラ」、後者は歌も演奏も激情的だったと、リスアニ!の公演評は伝えています。
同じステージで、その両方を担っていたのがにんじんです。

「ただ声一つ」で知られた声は、その後、アニメの終わりを飾り、ドラマの人物を歌い、生演奏の中で新しい表情を見せるようになりました。
弾き語り投稿から『六花』のライブまでを追うと、曲を届ける場所が増えるたびに、歌に託される役割も広がっていることが分かります。

「ただ声一つ」公式MV(2021年)。

弾き語りから「ただ声一つ」へ|声を置く景色が変わった

にんじんがギターを始めたのは、音楽をやっていた父親の影響でした。
高校生だった2019年ごろ、TikTokへ弾き語りを投稿し始めます。
本人によると、最初は自分が投稿したら話題になるだろうかという軽い気持ちだったそうです。
カバーを続けるうち、オリジナル曲も聴きたいという声が増え、2021年のロクデナシ始動につながりました。

ロクデナシは、にんじんを中心に、曲ごとに異なる作曲家と組むプロジェクトです。
初期の「三時のキス」は40mP、「まちぼうけ」は一二三が手掛けました。
杉山仁による紹介記事は、この二曲を、ギター中心の簡素なバンドサウンドに情感のある声が乗る曲として説明しています。
弾き語りから出発した歌い手が、別の人の書いた言葉とメロディを、自分の声で届けるようになった時期です。

3曲目の「ただ声一つ」は、2021年末に発表されました。
MIMIが作ったこの曲では、伴奏の中心がピアノやストリングスへ移っています。
同じ杉山の記事は、後半で言葉を畳みかける歌にも注目しました。
穏やかな音の景色の中にも、思いを続けて伝える歌の動きがあったのです。

にんじん自身が、この曲を活動最大の転機とする理由は、世界中の人に聴かれ、ロクデナシがどんなアーティストかを知ってもらえたからだといいます。
曲を聴く人が増えただけでなく、この声にどんな言葉を託せるのかが広く伝わった出来事でした。
一方、以降にはギターロックの「ブリザード」や、ダンスの要素を持つ曲も発表しています。
「ただ声一つ」が代表曲になったあとも、ピアノバラードだけへ活動を絞ってはいません。

『愛ニ咲花』では、失恋直後の言葉と、時間を置いた言葉を歌う

2023年の1stアルバム『愛ニ咲花』には、にんじん自身の作詞作曲による三曲が入りました。
「逢瀬のままにあなたのもとへ」「靴擦れ」「水仙」は、いずれも本人の恋愛経験から生まれています。
ただし、失恋を扱っていても、書いたときの気持ちは違いました。

「逢瀬のままにあなたのもとへ」と「靴擦れ」は、失恋の直後に書いた曲です。
にんじんは、悲しさや悔しさが強い表現になって現れたと説明しています。
その後に作った「水仙」では、少し落ち着いてから書いたため、儚さや寂しさという別の感情が加わったそうです。
出来事から時間がたつにつれ、それを語る本人の距離も変わっていました。

本人が曲作りで大切にしているのは、自分が好きでいられる曲にすることです。
2020年には、本人のYouTubeチャンネルですでに自作曲のTikTok投稿をまとめた動画を公開しています。
その個人の創作が、『愛ニ咲花』では、作曲家たちと作る曲と同じアルバムに収められました。
この三曲を並べると、にんじんの歌の背景には、その瞬間の感情だけでなく、時間を置いて経験を見つめ直す視点もあることが分かります。

「ユリイカ」では、物語の終わりを想像して声を張った

2024年の「ユリイカ」は、ロクデナシ初のアニメタイアップ曲です。
傘村トータが詞曲を手掛け、『終末トレインどこへいく?』のエンディングテーマになりました。
にんじんは、アニメの終わりにこの曲がどう流れるかを想像して歌ったとコメントしています。

本人が具体的に挙げたのは、サビに声を張る部分が多く、のびのびと歌えて気持ちよかったことでした。
曲を単独で仕上げるだけでなく、物語を見たあとに聴く人のことも思い描いていたのです。
森朋之の紹介記事も、緊張と解放が対照を作るメロディと、力強いサビの歌を取り上げています。
この曲では、物語の終わりに届くサビの強さも、大切な役割を担っています。

同年の「草々不一」では、ドラマ『【推しの子】』第2話の主題歌を担当します。
カンザキイオリが作った曲には、有馬かなの心情が重ねられていました。
自分の失恋から書いた「水仙」とは異なり、ここでは物語の人物の感情を引き受けます。
曲の書き手が変わるだけでなく、誰の言葉として歌うのかも広がっていきました。

ライブ活動も、2024年夏から本格的に始まります。
8月からのワンマン「Vol.0」を経て、年末にはCOUNTDOWN JAPANへ出演しました。
録音と映像で届けてきた曲を、生演奏と自分の声で観客へ届ける場が増えていったのです。

COUNTDOWN JAPAN 24/25で歌うロクデナシのにんじんのシルエット
COUNTDOWN JAPAN 24/25で歌うにんじんの姿。
画像出典:rockin’onの公演写真

2025年の舞台|ピアノだけの歌から、熱を増した「ユリイカ」へ

2025年4月9日、Zepp Shinjukuで「思い出にならないように」の追加公演が行われました。
2024年の「Vol.0」に続く、1st Oneman Liveと題されたシリーズです。
北野創によるリスアニ!のレポートは、生演奏によるアレンジと、その場の感情が映る歌声を、この公演の特徴として伝えています。

「アマネゾラ」では、にんじんがピアノ版で歌うと告げました。
それまでの映像演出も外れ、歌い手とキーボードの奏者だけが照明に浮かび上がります。
北野は、静かな曲の中にある細やかな感情を、声とピアノだけで表した場面として描きました。
映像やバンド全体の厚みに頼らず、一つひとつの歌の言葉が前へ出る時間だったと読めます。

「アマネゾラ」公式音源(2023年のスタジオ版)。

その直後の「ユリイカ」では、録音版にはない熱い前奏が加わりました。
同じ公演評は、歌も演奏も激情的だったと記しています。
2024年の発表時、本人がサビをのびのび歌えたと語った曲を、今度はバンドと一緒に広げていく。
録音時の声の選択が、舞台では前奏や曲順を含む表現になった例です。

この公演は、強い歌へ一方向に進んだわけでもありません。
本編の終盤には「愛が灯る」と「ただ声一つ」が並びました。
北野の評では、「愛が灯る」はつぶやくように入り、そこから感情が色づく歌として描かれています。
激しい演奏のあとにも、言葉を近くへ届ける時間を作っていました。

アンコールでは、MIMIとの新しいバラード「心の奥」も歌っています。
森朋之は、この曲の録音を、囁くようなAメロから、繊細なファルセットのサビへ進む歌として評しました。
「ただ声一つ」と同じ作り手との曲でも、声の表情を切り替える場所は一曲ずつ違います。
力強い曲を歌う機会が増えた時期に、こうした親密な歌も同時に育っていました。

『六花』では、同じ作り手との組み合わせにも違う顔が見える

2025年12月の2ndアルバム『六花』には、まふまふやみきとP、Misumiらの曲に加え、にんじん自身が詞曲を書いた「眩しすぎた朝」も収められました。
多くの作り手と組む中でも、自分の言葉を歌う場所は続いています。

歌声の違いについて、小町碧音の全曲評が注目した一曲が、ナユタン星人による「カロン」です。
同じ作曲家との「イオ」や「アルビレオ」が見せる切ない恋の表情に対し、「カロン」は従来の組み合わせの印象を覆す曲として取り上げられました。
新しい作家と出会えば新しい声になる、というだけではありません。
同じ相手と組んでも、ドラマのオープニングを担う曲では、また別の役が生まれています。

一方、みきとPによる「脈拍」について、小町は、泣いたあとのような体温を感じる声だと評しています。
この曲は、4月の追加公演で新曲として初めて披露された作品でもありました。
ステージで聴き手と出会った歌が、年末のアルバムではほかの曲と並び、異なる感情の一つを担うようになったのです。

「脈拍」公式MV(2025年)。

2026年|同じ曲にも、ライブだけの入口ができる

2026年4月17日の「六花」公演では、「カロン」から「ユリイカ」へ進んだあと、「Happiness Umbrella」や「草々不一」「脈拍」が続きました。
小町の公演評は、その流れの中で、明るさを感じさせる歌から、繊細な息づかいを伝える歌へと表情が移る様子を描いています。
アルバムの曲を一列に紹介するだけでなく、一つの夜の中で違う気持ちを渡していました。

2026年のロクデナシ公演で歌うにんじんのシルエット
2026年のロクデナシ公演で歌うにんじんの姿。
画像出典:Real Soundの公演写真

特に「アルビレオ」は、音源にはないアカペラから始まったといいます。
2025年の追加公演では冒頭に置かれた曲でしたが、この2026年の公演では後半に登場しました。
曲を置く場所を変え、伴奏が入る前に声だけを聴かせる入口も作る。
同じレパートリーを、ライブごとに届け直していることが分かります。

にんじんの歩みを追うと、「小さな声が大きくなった」という一つの変化では収まりません。
弾き語りから多彩な作曲家の曲へ、自分の失恋を歌うところから物語の人物へ、録音から生演奏の舞台へ。
歌う場面が増えたぶん、声を張る理由も、静かに言葉を届ける理由も増えてきました。
一曲の中で声の距離や表情をどう変えるかは、にんじんの歌い方で掘り下げています。

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