和田光司の歌声の変遷|変わり続けた歌手が「Butter-Fly」の再現を選んだ理由

「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」に出演した和田光司 シンガー
「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」に出演した和田光司。出典:アニメイトタイムズ。

2010年、和田光司はデジモンの歌を続けるうえで、毎回同じ歌い方ではいけないと話していました。
ところが5年後、続編『デジモンアドベンチャー tri.』の主題歌を録り直すときには、1999年の「Butter-Fly」をできるだけ再現しようと決めます。
変化を大切にしてきた人が、なぜ最初の歌へ戻ろうとしたのでしょうか。

二つの言葉は矛盾しているようで、曲と作品の関係をたどると、同じ考えから出ていたことが分かります。
新しい物語には新しい歌い方を探し、あの物語の続きには、最初にテレビから流れた興奮をもう一度届けたい。
和田が「Butter-Fly」以後に歌った曲と、再び同じ曲に向かった録音を見ていきます。

1999年|最初の「Butter-Fly」は、本人にも意外な歌だった

和田は1999年、テレビアニメ『デジモンアドベンチャー』のオープニング「Butter-Fly」でメジャーデビューしました。
本人はのちに、当時はゆっくりした曲を好み、アップテンポの歌は初めてだったと振り返っています。
初めてデモを聴いたときには、この速さで歌えるのかと戸惑い、歌ってみて自分にもこんな歌い方があるのかと驚いたそうです。

ここで発見した、勢いのある曲と柔らかな声の組み合わせは、和田光司の歌い方で「Butter-Fly」を中心に扱っています。
歌声の変遷を追ううえで大切なのは、この成功をその後のすべての主題歌にそのまま当てはめなかったことです。

2000~01年|新しいシリーズには、新しい出発の歌を

翌2000年の『デジモンアドベンチャー02』には「ターゲット~赤い衝撃~」、2001年の『デジモンテイマーズ』には「The Biggest Dreamer」。
いずれも和田が歌うオープニングですが、別々の物語の始まりを担います。
シリーズの看板を歌い続けながら、前の主題歌の再演だけで終わらせなかったのです。

和田は2010年の取材で、作品ごとにコンセプトがあり、歌い手はそこへ向けて曲を仕上げると話しています。
主題歌なら「これから始まる」という高揚感、挿入歌なら物語の戦いをさらに押し上げる高揚感。
同じ勢いでも、歌が置かれる場面によって目指す先は違うという考えです。

そのうえで本人は、「Butter-Fly」があったから「ターゲット」があり、そこから「The Biggest Dreamer」へ進めた、と語りました。
新しい作品を歌うたび、前の経験を持ったまま、別の課題に向き合ってきたということです。

2009~14年|「Butter-Fly」を残し、歌う場所を変える

初代の主題歌も一度録って終わったわけではありません。
発売元の記録には1999年のオリジナルに加え、2009年の「Butter-Fly~Strong Version~」が別のシングルとして残っています。
デビューから十年後にも、同じ曲へ向き直る機会がありました。

2014年の『Animelo Summer Live』では、和田は大きな会場で「Butter-Fly」を歌いました。
その映像を振り返った同イベントの統括プロデューサー、齋藤光二は、和田の歌声を柔らかく優しいものとして記憶しています。
アニメの画面の向こうへ流す主題歌が、今度は客席と共有するライブの歌になっていました。

和田光司(アニサマ2014出演者紹介の写真)
和田光司(アニサマ2014出演者紹介の写真)。
出典:アニサマ2014公式サイト。

和田は2010年の取材でも、海外でデジモンの歌を日本語のまま覚えた観客が大合唱してくれた経験を語っています。
最初はアニメの始まりを告げた一曲が、年月を経て、和田と観客が一緒に歌う曲にもなった。
それほど人々に親しまれた「Butter-Fly」に、2015年、彼はもう一度録音で向き合うことになります。

2015年春|昔の録音と、今録る歌を同じ一枚に

2015年3月のミニアルバム『re-fly』は、和田が旧作と新作をどう並べたかがよく分かる作品です。
レーベルの収録記録によると、「Butter-Fly」は1999年のオリジナル音源を収める一方、「ヒラリ」と「風」は新しいサウンドでセルフカバーしました。
さらに本人が書いた新曲「bravery」「希望ノカケラ」「re-fly」も入っています。

「Butter-Fly」を今の声で毎回塗り替えたわけではなく、元の録音を残して、別の曲では今の表現を選ぶ。
最初の歌を大切にすることと、歌手として立ち止まらないことが、この一枚では両立しています。

だからこそ、その年の『tri.』で「Butter-Fly」を再録する話は、昔の曲ならいつでも同じように歌える、という簡単なものではありませんでした。
和田には、すでに異なる版の「Butter-Fly」があり、新曲を書いて歌う現在もありました。
そのなかから、続編のための声を選ばなければならなかったのです。

2015年|「今の自分」を出すか、16年前を再現するか

『tri.』の主題歌が再び「Butter-Fly」と決まったとき、和田は二つの方向で迷ったと、2015年のデジフェスに寄せた手紙で明かしています。
今の自分を前に出して歌うか、1999年の歌を再現するか。
選んだのは後者でした。
『tri.』が最初の『デジモンアドベンチャー』の続編であり、自分も当時テレビから流れた主題歌に興奮した。
その出発時の気持ちを次の物語へ渡したかったからです。

和田が2010年に語った初回放送の記憶も、その選択を理解する手がかりになります。
自宅で正座して第1話を見た和田は、デモから歌詞、編曲、映像が重なり、一つの作品になったことに衝撃を受けていました。
再録で戻ろうとしたのは、自分の声が若かった頃だけではなく、歌が物語の始まりと結びついた瞬間でもあったのでしょう。

和田は同じ手紙で、年月を重ねた声は以前と違い、完全な再現は難しいかもしれないとも認めています。
それでも、できるだけ再現するという意識で録音に臨みました。
2015年11月には、和田一人の歌唱による「Butter-Fly~tri.Version~」がシングルとして発売されています。
後年、複数の歌手が参加した同名の版とは区別しておきたい録音です。

2016年の回想|客席への呼びかけも、歌の一部になった

録音では最初の興奮をつなごうとした和田は、ライブでは、目の前の観客に合わせて言葉を変えていました。
その具体例を伝えたのが、2016年のデジフェスに出演した共演者の宮崎歩です。
この年の4月に和田が亡くなった後、宮崎は和田の曲をつなぐメドレーを歌いました。

最後に置いたのは「FIRE!!」。
和田のライブでは、呼びかける言葉を「君」から「皆」へ置き換えるのが定番だったといいます。
宮崎がメドレーをこの曲で結んだのは、その言い換えを取り入れたかったからでした。
和田のライブを知る人たちには、意図が届いたのではないかと振り返りました。

いつからこの言い換えを始めたのかは、宮崎の回想には出てきません。
それでも、繰り返し舞台で歌ううちに、元の歌詞を知る観客と交わす呼びかけまで生まれていたことが分かります。
テレビから受け取った歌が、客席から歌い返す歌になっていく。
和田は作品に合う歌を探すだけでなく、歌を覚えて会いに来る人たちとの間でも、表現を育てていたのです。

残したいものに合わせて、変えることを選ぶ

変わらずにいられたから、元へ戻ったのではありません。
新しいシリーズには別の歌を、新しいアルバムには今書いた歌を選んできた和田が、続編では「あの始まり」をもう一度届けることを選んだ。
ライブでは、同じ歌の短い言葉を変えて、会場全体へ呼びかけた。
変化を重ねた歌手にとって、再現も言い換えも、その歌を今、誰へどう届けるかを考えた末の選択だったのです。

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