月ノ美兎の歌の歩みをたどると、上手く歌える曲が増えるのと同時に、歌の中へ持ち込むものも増えていきます。
可愛いアイドルの歌、ラジオのようなおしゃべり、詩を読む声。
2021年のアルバムでは、それらが一人の歌い手の表現として並んでいました。
2018〜2019年|配信の外へ出ていった歌声
2018年2月に活動を始めた月ノ美兎には、その翌月、ファンが作った「Moon!!」が生まれました。
配信者を見ていた側が歌を作り、それを本人が歌う。
この曲は後に大きなステージでも繰り返される、月ノ美兎の代表曲になります。
歌は、視聴者とのやり取りから育っていった表現でもあったのです。
一方、初めから歌手としての活動を確信していたわけではありません。
本人は、力を入れた歌の動画を喜んでもらい、もっと挑戦しようと思ったと振り返っています。
一度の歌が動画として残る緊張もありましたが、人前で歌う機会が増えるにつれて、その重さは変わっていきました。
2019年に発表された「あいがたりない」は、制作の現場に入った経験として印象的です。
中田ヤスタカのもとで、当日に曲と歌詞を受け取り、その場で覚えて録音。
歌っている間にも制作が進んでいたといいます。
用意した歌を持参して完成させるイメージとは違う、作り手と同じ時間の中で声を形にする経験でした。
「あいがたりない」月ノ美兎ソロver.(短縮版)
後にPerfumeののっちと話した際にも、この録音方法が話題になりました。
月ノ美兎は、周囲から録音とはそういうものだと説明され、半信半疑だったそうです。
その戸惑いまで話せるところに、配信で親しまれてきた人が、少しずつ歌の制作現場を知っていく姿が見えます。
この曲について本人は、曲の可愛さにつられて歌い方も可愛くなり、自分の担当箇所が分からないと言われるほどだったと話しています。
普段から親しまれている声の持ち主が、歌では別の表情を見せる。
初期の録音の時点で、曲に合わせて自分の声を変える面白さが生まれていました。
2020年|歌う自分と、配信していた自分が一曲で出会う
メジャーデビュー曲「それゆけ!学級委員長」には、初配信の音声が間奏に使われています。
イヤホンマイクで録った、まだ緊張していた頃の声です。
新しく作る歌の中へ、活動の原点の声をそのまま連れてくる。
月ノ美兎の歌にとって、配信の履歴は消すべき下積みではなく、表現に使える材料になっていました。
作品として整えた自己紹介と、初めて視聴者へ話しかけた記録が隣り合う。
歌を始める前の声まで含めて、メジャーデビューの一曲が成立しています。
2021年|一枚のアルバムで、歌う声の役割が増える
2021年8月の初アルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』には、作り手の異なる10曲が収められました。
初期から歌ってきた「Moon!!」も、Avec Avecによる新しいアレンジで収録。
昔の曲を残しながら、新しい曲の間へ置き直す作品です。
長谷川白紙による「光る地図」は、細かな半音の動きを含む変則的なメロディーを持っています。
一方の「みとらじギャラクティカ」は、月ノ美兎の話芸を生かしたラジオ風の楽曲。
旋律をたどる声と、言葉で場を動かす声が、同じアルバムの中で別々の役目を担うようになりました。
冒頭の表題曲では、声そのものが切り刻まれ、音楽の素材として使われます。
「NOWを」では詩の朗読へ近づき、「ウラノミト」では柔らかな歌声がポップな曲に収まる。
アルバムによって広がったのは曲調だけではなく、一つの声を作品のどこに置くかという発想でした。
同年11月の初ワンマンでは、その幅を舞台でつなげます。
「光る地図」の高い旋律を丁寧に歌い、カバーの「ラブカ?」では囁くような始まりから、サビの力強い歌唱へ進む。
可愛く歌う場面と、強く声を出す場面を、一公演の中で行き来する姿が現れました。

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2022〜2025年|自分が作りたい場面から、歌を考える
2022年のにじさんじフェスでも、その振れ幅は続いています。
不穏な空気を持つ「Petite Flamme」で始まり、最後は「回る空うさぎ」をしっとりと歌う。
にぎやかな曲を並べるだけでなく、怪しさから静かな余韻まで、声で公演の景色を変えていました。
2025年2月のミニアルバム『310PHz』では、本人が作家の選定や楽曲の構想に関わっています。
提供された曲へ声を合わせるだけでなく、何を作り、その中で自分が何をするかを考える立場が、よりはっきりした作品です。
象徴的なのが、選択によって曲が分岐するゲーム「アルクマルチバース」です。
本人は、動画で行ってきた遊びを歌にも持ち込みたいと考えていました。
歌い手として、自分ならではの楽しみ方を提案しています。

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2025〜2026年|大きくなった声で、昔の曲も歌い直す
2025年4月の「Paper Rabbit」は、2021年のワンマンを締めた「アンチグラビティ・ガール」で始まりました。
前のライブの終わりから、次のライブが続く構成です。
さらに、以前からの「Moon!!」と、活動7周年を祝うファンメイド曲「みちくさイズム」が同じ公演に入りました。
継続して舞台を見てきた評では、この日の「アンチグラビティ・ガール」のロングトーンに、声の力強さと安定の増加が指摘されています。
初期からの声の魅力を保ちながら、曲の要所で押し出せる力が育った、と捉えられる変化です。
変わったのは、声の勢いだけではありません。
2025年に「あいがたりない」を振り返った本人は、2019年には分からなかった歌詞が、今は心に響くと話しています。
同じ言葉をもう一度歌うとき、その間に積み重なった経験が意味を変える。
昔の曲が、昔の自分のまま固定されていないことも、この歩みの大切な部分です。
その続きを感じさせたのが、2026年1月のワールドツアー東京公演です。
月ノ美兎は「Arc goes oN」を一人のアカペラで歌い始め、ツアー最終公演の幕を開けました。
伴奏のない歌声で聴き手を引き寄せる場を任されたことにも、ステージを重ねてきた歩みが表れています。
同じ公演のソロで選んだ「閃光少女」は、2018年にリクエストを集めながら、当時は歌わなかった曲でした。
七年以上を経て実現した歌唱は、伸びやかで熱量のあるものとして受け止められています。
初期の自分を懐かしむだけでなく、当時残した宿題を今の声で届ける。
歌う力の積み重ねが、過去との新しい接点を作っています。
2026年には、長谷川白紙の『素直な気持ちアルバム』に参加し、「きたれりルート」を歌いました。
長谷川が求めたのは、自分とは違う強い個性を持つ声。
2021年に「光る地図」を受け取った相手の作品へ、今度は歌い手として呼ばれています。
他の作り手が作品に招きたくなる声となり、その一方では、視聴者との関係から生まれた歌も歌い続ける。
歌う場が増えるほど、月ノ美兎自身の歴史が声の中へ入り込んでくるのです。
曲ごとの声の選び方は、月ノ美兎の歌い方で掘り下げています。







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