村上てつやの歌唱変遷|「ひとり」の主役から、5人の声が交わる歌まで

村上てつや(ゴスペラーズ) シンガー

「ひとり」で村上てつやの声を覚えた人には、ゴスペラーズは、一人のリードを四人が美しく支えるグループに見えるかもしれない。
けれど村上が面白いと考えてきたのは、瞬間ごとに主役が替わり、五人それぞれに見せ場がある歌だった。
自分が前へ出る力を磨くことと、ほかの声へ場所を渡すこと。
その両方を、どう育ててきたのだろう。

「ひとり」公式MV(2001年発売曲)。

初期には、ハーモニーの魅力を伝えるために、声を重ねることへ力を注いだ。
その後、あえて重ねない場所を作り、外部の作り手へ歌の設計を委ね、五人の声だけという制約も見直していく。
変わったのは歌の形であり、誰とどう歌うかを考える村上の選択でもある。

きれいに重ねるだけでは、伝わらなかった

ゴスペラーズは、1994年に「Promise」でメジャーデビューした。
村上は結成当初から、美しいハーモニーも、楽しく熱い音楽も好きだったと振り返っている。
一人のエースだけを見るより、次々に別の人へ目が向くチームのほうが楽しい。
それが、五人で歌う面白さにもつながると考えていた。

ところが、バラードのデビュー曲だけでは、思っていたようには伝わらなかった。
安岡優によると、アカペラと合唱の違いまで示せると思っていたが、それだけでは足りなかったという。
初期のアップテンポな曲では、多少ハーモニーがはみ出しても、力強く歌うことを重視した。
1997年の「終わらない世界」も、静かなアカペラだけでは捉えきれない初期の作品だ。

村上個人には、裏声への関心もあった。
二十代前半、ブルースを聴き直す中で、日本語の歌にも別のファルセットの使い方があると感じたという。
2019年の対談では、男性の視点のまま、感情が高まって思わず裏声になるような表現を、自分の可能性として語っている。
五人のハーモニーを作りながら、一人の歌い手としても、声で何を表せるかを探していた。

アトランタで学んだものを、「ひとり」へ持ち帰る

1999年、村上たちは新しいR&Bを求めてアトランタの制作者を調べ、Bryan-Michael CoxとPatrick“J.Que”Smithに出会った。
翌2000年5月には、「永遠(とわ)に」を録音するため、再び現地へ向かった。
村上が驚いたのは、J.Queの歌唱技術とハーモニーを組み立てる力だった。
自分たちが積み上げてきた歌にも、まだ知らない方法があると気づかされたのである。

村上は後年、その技術を使ったことが、続く「ひとり」につながったと説明している。
一曲のヒットを得ただけでなく、違うやり方を試してよいという自信を受け取った。
2018年に再会したJ.Queも、以前は示された道に沿って進んでいた五人が、経験を重ね、自分たちの選択肢からよいものを出せるようになったと話している。
学んだものを、そのまま借り続ける段階から、自分たちの歌へ選び直す段階へ進んだのだ。

2001年に「ひとり」が広まると、村上は次のアルバムをアカペラにしたいと強く主張した。
一方、スタッフは、興味を持ち始めた人へ、まずラブソング集としてグループの全体像を届けたいと考えた。
村上は反対しながらも、その案を受け入れる。
ただし、その次には熱い作品を作りたいという希望を残した。

『Love Notes』から『FRENZY』、そして2002年の『アカペラ』へ。
ヒットに合わせて歌の方向を一つに固定せず、違う側面を順に届けていった。
2001年の「Promise -a cappella-」も、デビュー曲を声だけで提示し直した例だ。
同じ曲名でも、1994年のデビュー音源とは異なる版になる。

「Promise -a cappella-」公式MV(2001年発売のアカペラ版)。

主役を渡し、重ねない場所も作る

2002年の「星屑の街」では、五人がリードを歌い継ぐ。
村上は、この曲に、美しいアカペラと熱さ、主役が交代する面白さがあると説明した。
「ひとり」で自分の声を強く印象づけた後にも、一人が歌い切る形へ固まらなかった。
次の声へ渡すこと自体が、曲の魅力になっている。

やがて、ハーモニーをどれだけ入れるかについても考え方が変わった。
北山陽一は「1, 2, 3 for 5」について、初期の自分たちなら、もっとコーラスを入れられるのにと思っただろうと振り返っている。
歌を重ねる魅力が世の中へ伝わったからこそ、本当に必要な場所を選べるようになった。
声が多いことと、曲にとってよいことを、分けて考える余地ができたのだ。

「1, 2, 3 for 5」公式MV(2009年発売曲)。

さらに2014年の「SING!!!!!」では、ヒャダインへボーカルとコーラスの制作を委ねた。
黒沢薫は、外から具体的に求められることで、自分たちがどう見られているかを再認識したという。
北山は、緻密なコーラスの譜面に刺激され、もっと思い切ってハモろうと感じた。
声を減らす工夫を覚えた後でも、重ねるべき曲では、また大胆に重ねる。
五人の歌は、一度決めた正解を守るだけのものではなくなっていた。

村上てつや(ゴスペラーズ)
海外の制作者と語る村上てつや。
写真出典:2018年のBillboard JAPAN取材写真

『アカペラ2』で、五本のマイクという制約を外す

2019年の「VOXers」は、五人の声が競い合う「ケンカアカペラ」を掲げた作品だ。
村上が面白いと語るのは、性格も感性も違う人たちが、ハーモニーという共通のルールの中で動くことだった。
グループとして長く続くことだけを目的にはしたくない。
一人ひとりが外の世界でも力を伸ばし、互いに緊張感を持てる関係でいたいと考えている。

その思いは、2021年の『アカペラ2』にも表れている。
前作『アカペラ』から約十八年。
その間にアカペラの認知が広がり、新しいグループや作り手も増えた。
北山は、自分たちがこの音楽の中心を担わなければならないという責任感が、以前より薄れたと説明している。

村上も、五本のマイクだけで人を驚かせようと、自分たちに制約をかけてきたと振り返った。
新作では、声への加工やミックスも含め、若い作り手の発想を取り込んだ。
同時に、五人がマイクで歌う方法も突き詰めている。
声だけで何をするかという原点を、制作方法まで一種類に限る理由にはしなくなった。

最後に収めた「インターバル」は、北山と植松陽介の共作曲で、一人ひとりの声を味わってもらうことを意識した曲だという。
全員が同じようにまとまることだけが、よいグループの条件ではない。
村上は、後輩がゴスペラーズの形を唯一の模範と思ってしまうことも望んでいなかった。
五人の違いを残したまま、次の歌を作り続けたいという考えが見える。

オーケストラと歌って、「ひとり」の違う感情を見つける

2022年には、初めてのフルオーケストラ公演へ向かった。
五人で完成させてきた歌を、大人数の演奏とどう合わせるか。
村上は、ソロ歌手の呼吸に周囲が合わせるのとは違い、五人が音の始まりをどう捉えるかまで共有する必要があると話している。
ただ演奏に乗るだけではなく、こちらからも歌い始める気配を伝えなければならない。

「ひとり」のオーケストラ編曲を聴いたときには、自分の頭の中で鳴っていなかった音を発見したという。
声だけではできることに限りがある一方、シンプルなコード進行には、まだ違う音を入れる余地があった。
周囲の音が増えることで、長く歌ってきた本人さえ忘れていた感情が引き出されるかもしれない。
代表曲を別の編成へ開くことは、村上自身が歌の意味を受け取り直す機会にもなった。

三十年を超えても、声を渡し合う面白さを選ぶ

2026年の「UNItVERSE」では、五人が対話するように歌い交わすボーカルリレーが、曲の中心に据えられた。
収録EP『UNIVER5OUL』を作る際には、ラブソングを作らないという条件だけを置き、自由な曲を持ち寄ったという。
村上は、三十二年目だからこそ、自分たちの枠を広げるのによい時期だと考えていた。

村上てつや(ゴスペラーズ)
ゴスペラーズの5人。
写真出典:2026年のOggi取材写真

同年の取材では、新曲の制作もツアーも飽きず、いつも新鮮だと話している。
積極的に変わろうとすることより、歌が好きだという気持ちを持って、平常心で続けることを大事にする。
その言葉は、型を守って動かないという意味ではないだろう。
好きな歌を追ってきた結果、主役の渡し方も、声の重ね方も、共に歌う相手も広がってきたからだ。

「ひとり」で前へ出る声を磨き、その声を五人の中で生かし直す。
村上てつやの歩みには、その往復がある。
一曲の中でのファルセットや掛け合いの選択は、村上てつやの歌い方の記事で詳しく紹介している。

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