中島卓偉の歌い方|力強い高音を、声量だけで説明できない理由

2019年の取材に掲載された中島卓偉のライブ写真 シンガー
2019年の取材に掲載された中島卓偉のライブ写真

中島卓偉の歌を理解するとき、高い音をどれほど強く出せるかだけに注目すると、見落とすものがあります。
本人が選んでいるのは、マイクを通して届く声、言葉を置くリズム、そして曲によって歌い上げるか語るかという違いです。

本人も、若い頃ほど大声で対抗するのではなく、マイクに乗る歌い方を意識していると語っています。

強く聞こえる歌の中で、何に力を使い、何を足しすぎないのか。
高音の自己認識から、実際の曲の選択までをたどると、その歌い方が見えてきます。

「続けろ」(2014年のミュージックビデオ)

本人の「地声」と、周囲の「ミックス」は同じ説明ではない

2018年の対談で、卓偉は高い音を歌うときの感覚を、地声だと説明しています。
ところが周囲からは、ミックスと呼ばれることがある。
本人は、その呼び方と自分の実感が一致しないと話していました。

さらに、自分の限界を越える高さでは裏声を使うとも述べています。
高いところを全て同じ声で押し通すという説明ではありません。

歌い手が連続した一つの声として感じていることと、聴く側が声に分類名を付けることは、別の話です。
この発言から声帯の働きを特定したり、全曲の高音を一つの種類へまとめたりはできません。
むしろ注目したいのは、本人が自分の声の範囲を感じながら、必要なところで裏声も選んでいることです。

2026年10月の東京国際フォーラム公演では、「存在」のファルセットが印象的な場面として記録されています。
一方、「スピカ ~Looking for my star~」では、高音に揺れを添えるビブラートが聴かせどころとして挙げられました。
同じ公演にも、裏声の質感を生かす場面と、高い音を伸ばして表情を付ける場面があります。

高音の強さを一つの技の名前で説明するより、どの曲でどの声を選ぶかを見るほうが、歌の違いをつかめます。

「存在」(2004年『POWER TO THE MUSIC』収録版)

2026年10月、東京国際フォーラム公演の中島卓偉。撮影:川端敏雄
2026年10月、東京国際フォーラム公演の中島卓偉。
撮影:川端敏雄。
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歌い上げた声にも、子音や息の細かな表情がある

2015年にライブを見た金澤朋子は、最後に歌われた「高円寺」の歌唱に圧倒される一方、子音、とくにSの発音や、息の抜き方、言葉の伝え方にも注目していました。
広い音域やビブラートと並んで、言葉の小さな部分が、同じ歌手の耳に残ったのです。

歌い上げる印象の中にも、言葉の輪郭や息の変化が聴き取られていました。
長く伸びる母音だけでなく、その音へ入る子音や、声が終わるところにも表現がある。
声量と最高音だけを見ていると、その細かさが抜け落ちます。

対照になるのが、「お願い胸騒ぎ」です。
本人が語りに近いと説明したこの曲では、旋律を大きく歌い上げることより、物語を言葉で進めることを選んでいます。

十分に声を伸ばせる人が、あえて言葉の密度で曲を引っ張る。
歌の強さを保つ方法が一つではないことを、曲の組み合わせから考えられます。

「お願い胸騒ぎ」(2007年『SMILER』収録版)

伴奏が大きく刻んでいても、歌の中では細かく拍を感じる

卓偉は、リズムを16分音符の細かさで感じることを重視しています。
2016年、将(A9)との対談では、自分の中にその刻みがあるため、録音時のクリック音をほとんど聞こえないところまで下げることがあると話しました。
クリックは、一定のテンポを知らせる音です。
それを大きく聞き続けるより、自分たちが演奏する音の中で拍を感じたいという選択でした。

本人が曲の違いとして挙げた例に、速い8ビートの「続けろ」と、跳ねる16ビートの「お揃いFLAVOR」があります。
また、伴奏が8ビートでも、歌の旋律がその間を細かく動く音楽に惹かれてきたと説明しています。

伴奏の大きな刻みと、言葉を入れる細かな位置が、必ず同じになるわけではありません。
速い曲だから勢いよく押すだけ、ゆったりした曲だから音を長くするだけ、という分け方では捉えにくい部分です。
音を出す瞬間の間にも拍を感じることで、次の言葉へ進む動きが生まれます。

卓偉が重視しているのは、音を出す動作だけでなく、そこから戻ってくる間も含めたリズムです。
声の勢いを前へ送り続けることと、曲に揺れを作ることを、同じものとして考えてはいません。

「お揃いFLAVOR」(2011年)

言葉が多い曲では、伴奏との組み合わせも歌いやすさを変える

つばきファクトリーへの提供曲「就活センセーション」は、作った卓偉にも歌いにくい曲でした。
会社側は難しい曲に挑む姿を求めていて、テンポを落とすという卓偉の案は採用されませんでした。
編曲のダンス☆マンは逆にテンポを上げ、リズムの刻み方を変えています。
細かな音を埋め続ける伴奏から、間のある形へ変えたことで、言葉を乗せやすくしたのです。

歌いにくいなら、まず歌い手の声の出し方を直す。
そう決めつける前に、言葉と伴奏がどう重なっているかを見ているのが、この話の面白いところです。
速さの数字だけでは分からない、言葉を置ける空間の違いがあります。

他の歌手へ書いた曲を自分で歌う『GIRLS LOOK AHEAD』でも、卓偉は編曲によって、自分が歌うときの隔たりを補えると考えていました。

一つの万能な発声を、どんな曲にもそのまま当てはめているわけではありません。
歌う人の声、言葉の量、伴奏の形を一緒に考える。
声の使い分けには、声以外の条件を整える仕事も含まれています。

つばきファクトリー「就活センセーション」(2017年のミュージックビデオ)

2019年の取材に掲載された、客席へ歌う中島卓偉
2019年の取材に掲載された、客席へ歌う中島卓偉。
画像出典:画像掲載元

録音では、整いすぎない声の動きも残したい

2021年の対話で、卓偉は、きれいに揃いすぎた演奏より、少し揺れや粗さのある演奏に惹かれると語っています。
歌の音程を録音後に直す話題でも、自分は直さないと答えました。
各楽器が寸分違わず揃うことより、人が演奏することで生まれる動きを大切にしていたのです。

これは、音程を気にせず歌うという主張ではありません。
一度歌われた声を、後から均一な形へ整えすぎたくないという、録音に対する好みです。

中島卓偉の歌い方には、細かく拍を感じながら、機械的には揃えきらないという面白さがあります。
声を強く出すこと、音を正しく並べること、その先で人の歌として動かすことを、別々に考えているのです。
「続けろ」の勢い、「お願い胸騒ぎ」の言葉、「存在」の裏声。
曲の違いをたどると、力強さを支えるのは最大音量だけではなく、どの声をどの位置で使うかという選択だと分かります。
その選び方が変わってきた経緯は、中島卓偉の歌声の変遷へつながります。

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